1日限定のカフェは「注文に時間がかかります」“吃音”のある若者が接客の夢に挑戦《長崎》

話し言葉が滑らかに出ない発話障害=「吃音」のある大学生が、1日限定のカフェを開きました。

“多くの人と話して自信を持ちたい” その願いを実現する取り組みです。

▼全国で約120万人「吃音」で悩む人に希望を!

(接客)

「注文に時間がかかるカフェのスタッフは、全員吃音者です」

「ホットココアがおふたつ、アイスティーが 1つ」

長崎市のレンタルスペースで開かれた1日限定のカフェ。

言葉が滑らかに出てこない「吃音」がある高校生・大学生の3人が接客します。

“注文に時間がかかるカフェ” の開催を企画したのは、辻 勇夢さん19歳。

(辻 勇夢さん)

「長崎県で、もしかしたら自分以外にも『吃音』で悩んでいる学生がいるかもしれない。そういった人とのコミュニケーション、交流を図っていきたいという思いがあった」

佐賀大学で学ぶ2年生の辻さんは、諫早市の出身です。

(辻 勇夢さん)

「初めての対面ということもあるのと、普通にカメラが初めてなので、緊張がある」

▼言葉がスムーズに出ないだけ 話せないわけじゃない

最初の一音が出ずに何度も繰り返したり、間が空いたりする「吃音」。

症状は人によって異なり、緊張など心理的な事も影響するそうで、全国には約120万人いるといわれています。

(辻 勇夢さん)

「学校で何か発表をっていう、その発表で、自分が話し始める最初の単語の、話し始めたその瞬間で「あっ きょう調子が悪いかも」と気づく」。

幼い頃に「吃音」に気付いた辻さん。

小学校の入学式で自分の名前が言えずに、泣き出してしまったこともありました。

(辻 勇夢さん)

「自分は話すことが好きなので、そうしたい自分がいたけど、そうできなかった」

高校3年生の時に、吃音のある若者が接客の夢に挑戦できる1日限定のカフェのことを知りました。

大学に進学した去年8月に、福岡で開かれたカフェに客として初めて参加。

(辻 勇夢さん)

「吃音の人って、どうしてもコミュニケーションが苦手な部分だが、それに負けないというか、すごく堂々としていた部分があって、すごく前向きな姿勢というのが、すごく働いている姿を見て目の前で感じ取れたので、そこは強く思った」

▼目標は「明るく接客」 スタッフ全員 “吃音者”のカフェ

カフェの開催を前に、辻さんは諫早市の実家に帰省しました。

中学校教諭の父 伴幸さんも吃音があり、同じ悩みを抱える息子を見守ってきました。

(父 伴幸さん)

「特にアドバイス的なものをしたっていうのはなくて、ただ、あまり自分が考えているほど、周りは変に思ってないよと伝えた」

待ちに待ったカフェ開催の日。開店を前に、一緒に接客する2人と初めて対面しました。

高校生と大学生がスタッフの3人のカフェ。

(辻 勇夢さん)

「明るく笑顔で接客します。最後まで聞いてくれるとうれしいですと書きました」

(松枝 明さん)

「たくさんしゃべれると思うと、すごい楽しみにしている」

(山田 彩仁榎さん)

「緊張と不安でいっぱいだけど、せっかくの機会なので、楽しめたらいいなと思う」

▼吃音者には “ゆったりと”接して 「大丈夫」など言葉かけはかえって緊張

『注文に時間がかかるカフェ』の開催は、今回で全国24か所目。

東京の奥村 安莉沙さんが3年前に吃音でも接客したいという夢を実現しようとスタートし、以来、各地で同じ悩みを持つ若者たちをサポートしてきました。

(奥村 安莉沙さん)

「吃音は、まだまだ認知も理解も十分ではないので、私たちの接客を通して、吃音について知ってもらえたらうれしい」

(辻 勇夢さん)

「緊張すると思うが、明るく笑顔で接客頑張りましょう」

準備が整い、いよいよ開店。外に出て、客を出迎えます。

(辻 勇夢さん)

「こちらが、カフェですので、案内しますので」

少し緊張した様子の辻さんたち。満席の店内を回り、さっそく接客に臨みます。諫早市から家族もかけつけてくれました。

(辻 勇夢さん)

「(メニューを決めたら) 私の方に、お知らせをしていただけたらと思います」

(父 伴幸さん)

「似合ってるね。恰好が」

(母)

「注文を取りに行かなきゃいけないから」

来店客の中には、吃音のある子どもたちと家族の姿も。

(参加者)

「話し方をまねされたことがあって、そういう時に悲しい気持ちになったことがあって」

(辻 勇夢さん)

「そういうことをされたら、すぐ先生やご両親に話すことが大事かな」

(松枝 明さん)

「小学校何年生ですか」

(子ども)

「6年生です」

(子どもの父親)

「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが、勇気を出して一歩踏み出して、やっている姿を子どもに見てもらって、何か感じるものがあれば、きょうはいいかな」

来てくれた人たちと、たくさん会話をした辻さん、松枝さん、山田さん。

人と話すことに自信を持ちたい。このカフェで、大きな1歩を踏み出したようです。

子どもたちからは、こんなメッセージが。

『ぼくもお兄さんやおねえさんみたいな人になりたいと思いました』

(辻 勇夢さん)

「小学生や中学生に自分の経験とかを話せたのは、すごく自分の中でも成長の一歩というか、すごく自分にとっても自信につながったし、今後もこういった活動を企画していきたいと思うようになった」

※「辻」は点が一つの「しんにょう」

© 株式会社長崎国際テレビ