[社説]土地規制70カ所に 人権侵害の恐れ消えず

 これほど広範囲にわたる規制が本当に必要なのか。懸念が解消されないまま、土地利用規制法が本格的に動き出した。

 内閣府は、新たに県内31カ所を対象区域として指定。これまでの指定も含めて15日から県内計70カ所全ての区域で規制の効力が発生した。

 同法は安全保障上重要な施設周辺や国境離島を対象とする。2021年6月に成立し、これまで4度に分けて全国で計583カ所が指定されてきた。

 県内では今回、那覇空港や米軍嘉手納基地、普天間飛行場が「特別注視区域」に。キャンプ・シュワブや第11管区海上保安本部などが「注視区域」に追加された。

 施設の周囲約1キロが規制の対象だ。注視区域では施設の機能を損ねる「機能阻害行為」に対し中止が勧告され、従わなければ懲役を含む罰則が適用される。特別注視区域となれば、これらに加えて売買の際に事前の届け出が義務付けられる。

 どういった行為が機能阻害と見なされるのか。政府は電波妨害など7類型を例示するが、それ以外も対象としており線引きはあいまいだ。

 米軍専用施設面積の約7割が集中し、自衛隊の配備強化が進む県内では実に32市町村に規制の網がかけられた。

 嘉手納・北谷の両町はほとんど全てが特別注視区域となったほか、那覇市では県庁や那覇市役所、国際通りなど、本来なら除外されるはずの人口集中地区も一部含まれた。

 土地取引など経済活動を脅かすもので看過できない。

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 指定区域の選定の在り方や手続きにも疑念が残る。

 米軍の保養施設や、返還前に一般開放予定の地区周辺がなぜ対象とされるのか。法で規定する重要施設とは思えない。

 米軍基地は広大で司令部もあれば、商業施設もある。基地を一括指定するやり方では、多くの民間地に規制の網が張られることになる。

 選定に当たり自治体からの聞き取りは行われたものの、意見が反映されたとは言い難い。

 住民への情報開示は極めて不十分と言わざるを得ない。

 同法は土地の調査を巡り、内閣総理大臣の求めによって、自治体などが氏名や本籍・国籍などの個人情報を提供できると規定する。いつの間にか集められた個人情報が、どのように利用されるかも分からないのである。

 憲法が保障する基本的人権を侵害する恐れもある。

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 同法の出発点は、外国人や外国資本の法人による土地買収への懸念だった。

 しかし、ふたを開けてみれば住民を監視対象とするような内容になっている。

 広範囲に指定された県内では、住民生活や経済活動が制約を受けかねない。新たな基地負担となる恐れもあるのだ。

 県や自治体は、国が求める個人情報の提供に際しては慎重に対応するなど、住民の権利擁護に努めてほしい。

 さまざまな観点から課題の多い法律であり、根本的な見直しが必要だ。

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