月収28万円・31歳のサラリーマンのもとに〈年金について尋ねる〉1本の電話…「これって詐欺!?」と役所に問い合わせると【年金保険料未納の実態】

民間企業を語る1本の電話「年金についての問合せ」だというが…

――年金支給が一部未払いとなっておりましたので、受け取る手続きをしてください。

年金世代を狙った還付金詐欺事件。年金事務所の職員などと名乗り、年金などの未払い金があるという電話がかかってきて、指示通りにATMを操作すると、犯人側の口座にお金が振り込まれるというもの。2023年の認知件数は1万9,033件、被害額は441億2,370万円にのぼります。

また都道府県別にみると、最多は「東京都」で2,920件。「大阪府」2,649件、「神奈川」2,024件、「愛知県」1,357件、「埼玉県」1,338件と続きます。

そんななか、

――株式会社XXってところから、あなたの年金について、と尋ねる電話。絶対、詐欺だよね

31歳だというサラリーマンの投稿。結局「よく分からないんで」と、要件も聞かずにガチャっと切ったといいます。果たして、これは詐欺電話なのか、どうか。はっきりしたことは分かりませんが、もしかしたら「年金保険料の納め忘れ」についての電話かもしれません。

日本年金機構では、国民年金保険料が納付期限までに納付されない場合、「納付勧奨」を行っていますが、電話や文書による納付の案内を民間事業者に委託もしています。この事実はあまり知られてなく、役所に「株式会社XXというところから、年金についての電話があったんですが……」という連絡がよく入るといいます。ちなみに、令和5年5月以降、民間事業者による訪問業務を廃止。そのため、民間事業者を語っての訪問、現金を預かるといった行為は、明らかに詐欺です。

日本の公的年金には、国民年金と厚生年金があり、厚生年金は会社員や公務員などが加入。保険料は給与から天引きされ会社が納付します。自営業や学生、無職の人などの人は、国民年金保険料を自分で払う必要があります。自分で保険料を支払う必要があります。1ヵ月あたり16,980円(令和6年度)。ただし、全員が払っているわけではなく、納付率は約7割程度。改善の方向にあるものの、まだ未納者は多いといえるでしょう。

このような状況に対し、日本年金機構は「保険料を払ってくださいよ」と民間企業に委託しながら催促しているわけです。

国民年金保険料の「納付勧奨」→「特別催告状」→「督促状」…その先に待っているのは

前出の男性の元にかかってきたかもしれない、国民年金保険料の納付勧奨。度重なる電話を完全無視したら、どのようなことが起きるのでしょうか。

次に行われるのが「特別催告状」。これは通常3回届きます。その際の封筒は「青→黄→赤(ピンク)」と変化。色でプレッシャーをかけてくるわけです。それでも完全無視を決め込むと、「督促状」→「差押予告通知書」が届き、「滞納分を支払うか、または支払方法について相談しないと差押えを行いますよ」と書かれています。それでも保険料の納付が行われないと、財産の差し押さえ。実行される日は事前に通知されず、突然やってきます。

差押えの対象となるのは「給与のうちの一定額」「預貯金」「自宅などの不動産」「自家用車」などで、配偶者や世帯主の財産が差押えの対象となる場合もあります。

日本年金機構『日本年金機構令和6年度計画』では、「控除後所得が300万円以上かつ7ヵ月以上滞納している人」を滞納処分の対象者と位置付け、この条件に当てはまる人に「最終催告状」を送り、それでも払わない人に対して、差し押さえを行っています。令和5年度は、「最終催告状」を10万8,091人に送り、「督促状」は5万2,849人に送付。差押えが行われたのは、1万3,243人でした。最終催告が行われたのち、8人に1人は「差押え」という事態に直面しています。

控除後所得300万円というのは、年収に換算すると430万円ほど。サラリーマンの平均的な賞与額だとしたら、月収は28万円ほどでしょうか。

――サラリーマンなら、保険料の未納なんてないんじゃない?

その通り。ただし、たとえば転職をした際にブランクが生じ、自分で保険料を払わないといけないのをすっかり失念しているケースは珍しくはありません。

――年収300万円(所得200万円程度)だから、差押えになることはないな

確かに、日本年金機構の資料には所得300万円と記されていますが、絶対というわけではありません。現在、保険料の徴収を強化しているので、資料に記載がある基準未満でも、今後差押えを受ける可能性は十分にありえます。

――納付勧奨から差押えまで2年以上はかかると聞いたから、まだ大丈夫でしょ

確かに、一般的なスケジュールとして、2年程度という情報をみることがあります。ただし、それも明確に決まったものではありません。前出のとおり、徴収を強化しているので、驚くほどのスピードで差押えまで進む可能性も否定はできません。

国民年金保険料の未納。とにかく完全無視はいけません。払える余裕があるなら払う、払えないなら相談のうえ保険料の免除制度・納付猶予制度を利用するのが基本です。

[参考資料]

日本年金機構『国民年金保険料のご案内は、民間事業者に委託しています』

日本年金機構『日本年金機構の取り組み(国民年金保険料の強制徴収)』

日本年金機構『日本年金機構年度計画』

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