ドラマ『Believe-君にかける橋-』で話題の一ノ瀬颯。運命のいたずらで俳優の道へ

木村拓哉が大事故を起こした橋の設計者・狩山陸を演じる木曜ドラマ『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)で、職場の後輩・南雲大樹を演じているのが一ノ瀬颯(いちのせはやて)。尊敬する先輩と会社との板挟みになり葛藤する若手社員であり、狩山の無実の証人でもある前半のキーマンともいえる役どころを好演中だ。

そんな彼は、戦隊シリーズ『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の主演でデビュー、最新作の『Believe~』まで順調に俳優としての道を歩んできているが、現在は『王様のブランチ』などのバラエティでも活躍している。多彩な魅力を発揮する彼にニュースクランチが直撃した。

▲一ノ瀬颯【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

入学式の日にスカウトされて俳優の道へ

――デビュー当時のことから振り返らせてください。芸能界入りのきっかけは大学の入学式の日にスカウトされたことだそうですね。

一ノ瀬:いろいろあって2年遅れて大学に入学することになったので、自分としては「楽しみ!」というより、どよんとした気持ちで入学式に向かっていたんです。少し遅れそうだったので、速歩きで渋谷駅から学校に向かっていたら、走って追いかけてきた人に声をかけられて。“こんなに急いでいる人に道を聞くんだ?”と思ったら、「芸能界に興味ありますか?」って(笑)。

――それまでスカウトされたことはなかったんですか?

一ノ瀬:ありませんでした。勉強と部活に明け暮れていたので。でも、俳優業には興味があったんです。幼少期、戦隊モノに出ているお兄ちゃんがカッコいいなと漠然とした憧れを抱いて、親に「俳優になりたい」と相談したこともありました。

そのときは「俳優で食べていくのは難しいんじゃない?」と言われて納得して。自分とは関係のない世界だと思ってました。でも、高校1年生で論述模試を受けたとき、「自分の人生の半分以上の時間を占めることになる仕事をお金で選ぶが、やりたいことで選ぶか」という問いがあって、自分に言われている気がしたんです。

それで、人生は1回きりなんだから、大学生というモラトリアム期間に“憧れにチャレンジしてみよう”と考えるようになって。大学に入ったら、俳優をやってみるつもりではいたんです。

――渡りに船のタイミングでスカウトされたんですね。でも、高校卒業から大学入学までの2年間に紆余曲折があったそうですね。

一ノ瀬:最初の年は国立大学を目指していたんですが、僕が受験した年は志望校のセンター試験の足切り点が、例年より100点も上がってしまって叶わず。で、翌年は第2志望に受かったものの、第1志望が補欠で合格に繰り上がるのを待っていたんですが、結果的に補欠の繰り上げがゼロだったんです。

それなら第2志望に行こうと書類を見たら、前期授業料の支払期限が第1志望の補欠発表の前に終わっていたんです。念のため入学金は払っておいたんですが、それも無駄になってしまって……。

――そのミスがなければ、翌年、渋谷でスカウトもされることもなかったわけだから、運命のいたずらですね。

一ノ瀬:今となっては良かったですね(笑)。最初は、セリフのない役から俳優人生がスタートするんだろうなと思っていたんです。そしたら、運良く『騎士竜戦隊リュウソウジャー』のオーディションに受かり、そこからずっとやりたい仕事が続けられているのは、すごくありがたいと思います。

――デビュー当時の思い出深いエピソードはありますか?

一ノ瀬:『リュウソウジャー』のクランクイン初日です。相棒の恐竜を動物園で見つけるというシーンだったんですが、そのときに初めて衣装を着て、カメラの前でお芝居をしたんです。実際に作品の世界に入り込んで、「お前、こんなところにいたのか!」ってセリフを言い終わった瞬間、“楽しい!”と思いました。

一方で、難しさもたくさん感じてました。監督がすごく厳しい方で、芝居を任されたまま師匠が亡くなるシーンで「違う! もう1回!」と、40テイクくらいやり直したときは、プレッシャーでどんどんわからなくなっちゃって……。OKが出たときは本当にうれしかったです。

長田成哉さんが演じた、兄弟子のような存在が亡くなったシーンも印象に残っています。お互い熱と熱をぶつけ合う感覚があって。お芝居だけどお芝居じゃないような、“この世界にいる!”という感触を初めて感じた経験でした。戦隊モノはファンの方々と直に触れ合う機会も多いので、皆さんが喜んでくれる姿を見ることで、自分の成果を実感できたことも大きかったです。

千葉雄大が監督した『ハルモニア』で主演

――その後もコンスタントにドラマを中心に活躍されていますが、印象に残っている作品は?

一ノ瀬:『テッパチ!』(2022年 / フジテレビ系)ですね。僕が演じた武藤が、みんなに20歳の誕生日をお祝いしてもらうシーンでは、実際にボロボロ泣いちゃって。僕の誕生日は4月8日で、入学式や始業式がカブる時期なので、学生時代にお祝いされた経験がなかったんです。だから、その思いが役の気持ちにプラスされたのか、自然に泣けちゃって。現場の雰囲気もすごく良くて、共演メンバーとは今も交流があります。

――直近だと、WOWOWで放送された千葉雄大さんが監督した短編の『ハルモニア』で主演をされていましたね。

一ノ瀬:千葉さんとも共演したご縁で、そのあともよくしていただいて。主演で呼んでくださって、すごくうれしかったです。特に、一番最後の長回しのシーンは良い経験をさせていただきました。長回しのワンカットってプレッシャーもありますが、役の感情が乗るんです。カメラの前では役として生きたいという自分自身のポリシー、目標があるので、ワンカットの撮影にやりがいをすごく感じました。

――先輩の役者さんが監督する姿を見て、ご自身も撮ってみたいとは思いませんでした?

一ノ瀬:撮っている最中に、プロデューサーの方から「やってみる?」って聞かれたんです。もちろん、「やりたいです!」と答えました。作るほうにも興味がありますし、監督をすることで演じる自分を多角的に見ることができますよね。『Believe』で共演している斎藤工さんも俳優と監督の両方をされているので、ぜひお話を聞いてみたいです。

多趣味で話題が豊富な大先輩・木村拓哉から学ぶこと

――ドラマ『Believe』のお話も聞かせてください。木村拓哉さん演じる狩山陸の部下・南雲役ですが、一ノ瀬さんの世代から見て、木村拓哉さんはどんな存在ですか?

一ノ瀬:雲の上の存在です。誰もが知る存在ですし、木村さんに憧れている同世代の友達もたくさんいます。初めてお会いしたのは取材の現場だったんですが、やっぱり緊張しました。

木村さんご自身がすごく考えていらっしゃるし、周りもよくご覧になっていることが伝わってくるから、どこか見透かされているような気がして。“こいつ、何も考えてないな”と思われないように、自分がしゃべるターンでは一言一句、気をつけました(笑)。

――撮影現場に入ってからはいかがですか?

一ノ瀬:早い段階で“颯”と呼んでくださってうれしかったです。初日から2泊ほどロケでご一緒したんですが、ご飯にも連れて行ってくださいました。木村さんは多趣味だし、いろんな役を演じてきたこともあって、話題が豊富なんです。「これに何々をかけたら絶対に美味しいよ」とか、発言が料理人みたいで。

「レモンが飛び散らないためには、フォークを刺してかけるといいよ」と豆知識も教えてくださいました(笑)。あとは飛行機を操縦したときの話も聞かせてくださいました。いろんな役に全力で、真摯に向かい合ってきたからこそ、今でもそれをご自身の中に蓄えていらっしゃるんだなと感じました。

――ご自身が演じる南雲は、第4話に見せ場がありそうですね。

一ノ瀬:そうなんです。狩山さんと2人だけで話す長めのシーンがあるんですけど、南雲は狩山さんと公私ともに時間を過ごしてきたので、板挟みの状況で狩山さんと接するわけです。南雲は葛藤を抱えていて、一方で狩山さんは南雲をすごく信頼してくれている……そこのやりとりは頑張らなきゃなって思います。

そこで南雲がどんな言葉を発して、どんな気持ちの揺れがあるのか。そしてどう判断するのか。自分自身もそうですが、見てくださる方にも何かを残せるシーンになったらいいなと思います。

――ドラマだけでなく、現在は『王様のブランチ』にもレギュラー出演していますが、役者以外のお仕事もされていますね。

一ノ瀬:この仕事を始めた理由のひとつでもあるんですが、僕自身が自分の知らないことに触れることが好きなんです。特に『王様のブランチ』は情報番組なので、行ったことのない、見たことのない情報を得られるので、すごく刺激的なんです。そのおかげで自分のプライベートも行動的になれて、自分の器を広げるきっかけになってます。

それに“ブランチファミリー”って銘打つだけあって、共演者の皆さんが本当に優しいんです。4時間半の生放送は緊張もしますけど、それ以上に楽しい気持ちが大きいです。バラエティからも役者として学ぶものがあると思ってます。

例えば、僕は食レポが苦手なんですけど、的確に表現するための語彙力や表現力を周りの人から学んでいます。瞬発力や対応力もそうですね。思い切る力って、お芝居にも生きてくるんだなって体感しています。

――いろんなことに挑戦して、ご自身の枠を広げているんですね。そんな一ノ瀬さんが将来的になりたい理想の役者像、タレント像はありますか?

一ノ瀬:お芝居を磨いて、“この人なら、どんな役でもできるよね”と思ってもらえるように頑張りたいです。その結果として、主演をたくさん任せてもらって、みんなを引っ張って、良い作品を作れるようになりたいし、日本のドラマや映画が「まだまだ、行けるぜ!」ということを世に示したいです。そして最終的には、僕が出た作品を見て豊かな気持ちになって、人の気持ちを理解できる思いやりのある人が増えたら最高だなと思います。

(取材:本嶋 るりこ)


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