共同親権「恐ろしい」 DV被害者から不安相次ぐ「家裁が適切に判断できるのか」 県弁護士会も声明「事実見逃し命じる恐れ」

共同親権について、ノートに情報をまとめるDV被害者の女性=15日、鹿児島県内

 離婚後も父母双方が親権を持つ共同親権を導入する民法改正案が17日、参院本会議で可決、成立する見通しとなった。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の恐れがあれば単独親権となるが、判断は家庭裁判所に委ねられる。鹿児島県内のDV被害者たちからは「家裁が適切に判断できるのか」「元配偶者に親権を求められたら恐ろしい」などと不安の声が相次いだ。

 県内の女性(53)は、激高して暴力や暴言を繰り返す夫と12年前に離婚した。当時小学生だった娘2人の親権は女性が持つことになったが「(女性が)養育できないと判断したら、(元夫が)一方的に子どもの面倒を見る」と書かれた協議書に押印を求められた。

 改正案の施行後は、既に離婚した父母も共同親権への変更申し立てが可能となる。女性の娘たちは成人しているが「自分は早く離婚したいばかりに、協議書に同意してしまった。もし離婚時に共同親権を求められていたら、と想像するだけで恐ろしい」と明かす。「共同親権を、よく知らない人は多い。加害者からの要求を断れない人も出てくるのでは」と懸念する。

 県内に暮らす50代女性は、元夫からモラルハラスメントや性的DVを受けた。性交を強要され続け、体力や経済的不安から妊娠中絶した当日には、事前に相談したにも関わらず「ぶん殴りたい」と暴言を吐かれた。幼い長男も暴力を振るわれるようになったが、怖くて助けられなかったことを今でも悔いている。

 20年ほど前、小学生の息子2人の手を引いて家を出た。息子2人はすぐに連れ戻され、夫とは別居。2人とは年3回ほどしか会えなくなった。ようやく離婚が成立したのは昨年だった。

 離婚後に子どもと会えない親が、面会交流を求める気持ちは分かる。ただ、親権を家裁が判断することには不安が大きいという。「証拠がない虐待やモラハラを家裁が見逃すことはないか。逃げた被害者にとっては手続きの負担も大きい」といぶかしがる。

 共同親権となれば、進学や病気の治療方針などは父母双方で決めるが、意見が対立した場合は家裁が判断することになる。DVによる離婚問題を扱う県内の女性弁護士は「DVの加害者が子どもの福祉を度外視して執拗(しつよう)な関与を繰り返す事案は多い。共同親権とされると、子どもが両親の対立に巻き込まれるケースが増えることにつながりかねない」と指摘した。

◇県弁護士会「十分に配慮して審議を」

 鹿児島県弁護士会(山口政幸会長)は16日、離婚後の共同親権導入について慎重な検討を求める会長声明を発表した。親権者の決定や親権を行使する際の問題点を指摘。子どもやドメスティック・バイオレンス(DV)被害者の利益が守られるよう、十分に配慮して審議を進めるべきだと主張している。

 声明は、虐待やDVは密室で行われることが多く、裁判所が事実を見逃して共同親権を命じる恐れがあると指摘。親権者の選択や親権行使を巡り、判断基準が不明確だと言及した。共同での親権行使が求められると、医療行為などへの同意が遅れ、子どもが不利益を被る可能性もあると訴えた。

 役割が増す家庭裁判所の体制充実や関係機関の連携強化も併せて求めた。

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