[社説]辺野古訴訟 住民「勝訴」 実質審理求める判決だ

 名護市辺野古の新基地建設を巡って15日、二つの新たな動きがあった。 

 一つは訴訟における住民側の勝利である。

 辺野古周辺の住民が、埋め立てを認めた国土交通相の裁決を違法と訴えた裁判で、福岡高裁那覇支部は「原告適格」がないとした一審判決を取り消し、審理を差し戻す判決を言い渡した。

 2年前の一審では原告適格が認められず「門前払い」となったが、原告適格が認められたことで、実質審理へ光明が差したことになる。

 三浦隆志裁判長は、原告4人の住む場所や住居の高さから、埋め立てに伴う騒音や振動、航空機の衝突や墜落事故といった健康や生活環境に著しい被害を直接的に受ける恐れがあると指摘した。

 さらに判決は、公有水面埋立法には被害を受けないという利益を保護すべきとの趣旨も含まれるとの解釈を示した。

 今回の高裁判決は、本来保護されるべき生活上の権利に向き合ったまっとうな判断である。

 これまで辺野古の埋め立てを巡る訴訟では、県や住民の訴えの多くで原告適格が認められず、実質審理がなされなかった。

 国側が上告せず判決が確定すれば、地裁で差し戻し審が始まる。

 その意味では実質審理の道を開くまたとない機会と言える。

 国交相裁決が妥当だったのか審理を尽くすべきだ。

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 もう一つの動きは、工事に伴う市民生活への影響と対策を話し合おうと首相官邸で開かれた政府と名護市の第1回協議会だ。渡具知武豊名護市長は、新基地完成後の運用ルールを定める「基地使用協定」の締結を求めた。

 もちろん移設を前提にした議論である。

 渡具知氏は新基地建設への立場を明確にしていない。過去2回の市長選でも是非を示さずに当選した。

 協議会終了後、「協議を行うことが移設を認めるということではない」と語ったが、協定締結は移設を前提にした要請ではないのか。理解に苦しむ発言だ。

 基地使用協定は、1999年に当時の岸本建男名護市長が移設受け入れを表明した際も条件の一つとされた。これを受け政府は移設方針を閣議決定したが、その後、移設案はころころ変わり、条件も実現しないまま決定はほごにされた。

 渡具知氏には、議会で発言の真意を説明してもらいたい。

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 国は沖縄戦の戦没者の遺骨が交ざる可能性のある南部土砂について、埋め立て工事に使うという考えをいまだに否定していない。

 県と宜野湾市が求める普天間飛行場の運用停止期限の設定についても、政府は「困難」とするばかりだ。

 今年1月、国が代執行によって大浦湾側の工事に着手して以降、「辺野古は終わった」との空気が広がっているが、辺野古問題は決して終わっていない。むしろ疑問は膨らむばかりである。

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