『虎に翼』伊藤沙莉&仲野太賀が模索する“夫婦”の形 “結婚=幸せ”ではない近年の朝ドラ

NHK連続テレビ小説『虎に翼』第7週、寅子(伊藤沙莉)は晴れて弁護士資格を取得するが、女性であるというだけでなかなか依頼をしてもらえず、「結婚」が社会的地位を示すものであることを思い知った。

寅子は立派な弁護士になるため、社会的な信頼度、地位を上げる手段として結婚を望む。そんな寅子の婚約相手となったのが優三(仲野太賀)だ。優三もまた独り身でいることへの風当たりの強さを感じていた。2人の利害が一致する形で、寅子は結婚することになる。

『虎と翼』で寅子が直面するさまざまな障壁を見ていれば、「結婚=幸せ」ではないことは十分伝わってくるはずだ。とはいえ、寅子と優三においては、2人がともに法律を学んできた同志であること、また劇中で度々息の合ったやりとりを見せていることから、息苦しさを感じるような結婚生活にはならないと予想している。

近年の朝ドラもまた、「結婚=幸せ」ではないことに向き合い、さまざまな形で主人公の「結婚」を描いてきた。

朝ドラの「結婚」を振り返る中で、よく描かれてきた夫婦関係といえば、主人公が献身的に夫を支えるというもの。たとえば2018年度後期に放送された『まんぷく』や2023年度前期に放送された『らんまん』では、安藤サクラ演じる主人公・福子が日本初の即席ラーメンを作ろうとする夫を、浜辺美波演じる寿恵子が植物学者として研究に没頭する夫を支えていた。このタイプの夫婦関係の場合には、2020年度前期放送の『エール』で二階堂ふみが演じていた音のように、妊娠をきっかけに一度夢を諦めざるを得ないといった場面が描かれることもあった。だが、いずれの夫婦も、どちらか一方が支配的といった歪な関係性では描かれていない。時代背景から男女の関係が不平等に感じられる場面もあったと思うが、いずれの夫婦もお互いを尊重するような関係を築いている。

一方で、朝ドラは離婚も描く。2018年度前期に放送された『半分、青い。』で描かれた主人公・鈴愛(永野芽郁)と夢追い人な涼次(間宮祥太朗)との別れは、朝ドラ史の中でも屈指の鬼気迫る場面だったといえる。怒りのあまり飛び出した「死んでくれ」という台詞は視聴者に衝撃を残した。

2019年度後期に放送された『スカーレット』では、戸田恵梨香演じる主人公・喜美子と松下洸平演じる八郎が離婚する。自然釉の陶芸を作るため穴窯に挑戦し続け、諦めようとしない喜美子と八郎はすれ違い、2人は離婚という結末に至ったが、八郎に恋心を抱く三津(黒島結菜)の存在や息子・武志(伊藤健太郎)が語ったように喜美子と八郎の作家性の違いもまた別離に至る要因として描かれるなど、別れに至るまでの繊細な心情描写が魅力的だった。

翻って、2020年度後期放送の『おちょやん』で描かれた離婚は苦々しい。杉咲花演じる主人公・千代は、喜劇一座の座長の息子・一平(成田凌)と結婚し、「鶴亀新喜劇」を旗揚げするが、その1年後に一平は劇団員の灯子(小西はる)と不倫関係になる。先に離婚届を出したのは千代だが、遅れて稽古場にやってきた一平が「俺と離縁してください」と頭を下げる場面には心がかき乱された。

そもそも結婚が描かれなかった作品もある。代表的なものには2016年度前期に放送された『とと姉ちゃん』がある。高畑充希演じる「とと姉ちゃん」こと小橋常子は最後まで結婚することはなかった。星野武蔵(坂口健太郎)との恋は描かれたものの、彼らは2度の別れを経験することになる。しかし今作が無理やり恋を成就させることなく、お互いの胸に初恋の思い出や想い合う気持ちを刻みながらの別れを描くさまは、さまざまな人との出会いと別れを真摯に描く作品として印象を残した。

また、前作『ブギウギ』では結婚が叶わなかった。趣里演じる主人公・スズ子と水上恒司演じる愛助は結婚を望んでいたが、愛助の母・トミ(小雪)から反対されたり、結核を患う愛助の体調が悪化したり、さまざまな理由から籍を入れることができずにいた。劇中、結婚か仕事かの選択を強いられる描写の中で、スズ子と愛助はその両方を叶えるために奮闘するも、最愛の人である愛助は病によって死を迎えた。しかし結婚が叶わずとも、2人が暮らす日々には確かに幸せが感じられた。

これまでの朝ドラの中には、視聴者に「結婚=幸せ」を感じさせる作品も当然あると思うが、それは決して絶対的なものではない。「結婚=幸せ」もある。すれ違いなどの苦しさを描くものもある。結婚しない・できないから幸せではないという描き方はしない。結婚まで描き切らない作品も多々あったことから、今後は結婚や恋愛が描かれない作品も出てくることだろう。

『虎に翼』で「結婚」を選んだ主人公・寅子。優三と寅子の結婚観は合理的に映る。だが、これまでの回で優三が寅子を気遣ったり、逆に寅子に励まされたりという場面で、優三演じる仲野の表情が優しく穏やかに映るのを見る限り、優三には寅子を思う気持ちがあるのではないかと感じる。寅子の夢を応援するために、家庭に入ってほしいという思いを飲み込んだ花岡(岩田剛典)もさることながら、優三もまた、寅子の夢を誰よりも理解している人物だ。社会的地位が求められる現実への痛みを共有できる優三なら、猪突猛進な寅子を応援し、彼女の決断を受け入れることができるといえる。寅子が優三に対して恋愛感情を抱くのかどうかはまだ定かではないが、一緒に法律を学んできた同志である2人の間柄は、社会的地位を上げるための「結婚」だけでなく、ともに歩むパートナーとしての「夫婦」の関係を構築していくのではないだろうか。
(文=リアルサウンド編集部)

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