ずっと真夜中でいいのに。満漢全席にして孤高のアバンギャルド 圧巻のKアリーナ横浜公演レポ

2024年5月4日、5日の2日間にわたって開催されたずっと真夜中でいいのに。のKアリーナ横浜での公演、『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』に足を運んで、はっきりとわかったことが二つある。一つは、ずとまよは何よりもまず第一に、ライブバンドであるということだ。それも、現在国内有数というか、この規模の会場で万単位のオーディエンスを集客するバンドとしては唯一無二の。

もう一つは、これまでもバンドの構成や独創的なインストゥルメントの数々からそのアバンギャルド性が音楽的なスパイスとして機能していたが、今回のライブではもはやそれは後景としてではなく前景となっていて、正真正銘の前衛的な音楽集団になっていることだ。そして、そこで重要なのはそれでも従来のポップさをまったく失ってはいないということ。言い換えるなら、アバンギャルドであることが目的化しているのではなく、ポップさを突き詰めた先に必然的にアバンギャルド性を手に入れているということ。

まずは会場となったKアリーナである。今回のライブはここだけの2回公演ということで、この2万人キャパ、横と縦に長くその分奥行きを抑えた(客席とステージの距離が比較的近い)新しい会場の特性を、ステージセットによって最大限に引き出していた。客席はLEVEL7(7階)のアッパースタンドまであるのだが、それに応じるようになんとステージは五重塔のような設計(そこに巨大な龍が絡まっている)。バンドメンバーは3フロアに分かれていて、2階にはOpen Reel Ensembleが、3階にはホーン隊が配置されている。そんな視界を覆うマキシマムな文字通りのウォール・オブ・サウンドが、世界的に進行中のサウンドのミニマル志向への強烈なカウンターであるかのように荘厳に鳴らされる。

現在のずとまよがいかにライブを軸に活動しているかは、直近の足跡からもわかる。今回のライブの雛形となった原始五年巡回公演『喫茶・愛のペガサス』ツアーを昨年9月から12月まで33公演(2024年1月の「沖縄出張所」公演を含めると35公演)、今年に入ってからは台湾のフェス出演を含む台湾と上海での3公演、昨年のツアーの合間にはACAねとOpen Reel Ensembleだけの実験的な特別公演『恋のダビング -実録!幻の五香粉を求めて-』も開催された。

こうして振り返ってみると、今回の『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』が、昨年の『喫茶・愛のペガサス』ツアーをバージョンアップしたエクストラショーであるというだけでなく、ずとまよにとって初めての海外公演の経験とそこから持ち帰ったモチーフ、そしてOpen Reel Ensembleとの特別公演の成果をふまえた、現時点での集大成的なライブであったことがより明確になるだろう。レトロな喫茶店を模したステージセットの『喫茶・愛のペガサス』ツアーでは、昭和の歌謡曲の断片の数々が流されるなど、随所にずとまよの音楽的&精神的なルーツの一つであるドメスティックなカルチャーへのレファレンスが散りばめられていたが、今回の『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』ではそれがタイトルにもあるように中華モチーフへと一変。もっとも、ここでいう「中華」はあくまでも「町中華」的な日本のフィルターを通した虚構と幻想の「中華」であること。これまでコンビニやゲームセンターをモチーフに異空間を出現させてきた、ずとまよ特有のアプローチはどんなにステージがスケールアップしても不変だ。

その「中華」のモチーフはステージのセットだけでなくステージの演出、とりわけACAねが羽のついたバイク(町中華の出前でお馴染みのスーパーカブ風)でステージの上空を移動(!)してのアリーナ中央のサブステージで展開された、中盤のOpen Reel Ensembleを中心としたセットにおいて重要な鍵となっていた。ライブの真っ最中にサブステージ上でおもむろに炒飯の調理(!)を始めるACAねという奇を衒ったパートだけでなく、その前後で演奏された、ライブのために書き下ろされたのであろう楽曲(「NEO炒飯」「幻の五香粉」)のエキセントリシティ、アルバムの中で聴くよりも毎回ライブ演奏においてそのユニークさと凄みが伝わってくる「機械油」も含め、むしろずとまよの表現の核にあるのは、こうした前衛的なパフォーマンスなのではないかと思えてくるほどだった。

もちろん、オーディエンスのしゃもじ拍子でのリアクションの大きさによっていずれも代表曲である「MILABO」「お勉強しといてよ」「ハゼ馳せる果てるまで」の中から1曲だけ演目が決められても(結局、両日とも「ハゼ馳せる果てるまで」が選ばれた)ビクともしないありあまる名曲の数々。今回が初披露となった、四つ打ちのリニアビートにACAねの(ラップというよりも)トースティングが乗せられた新曲「Blues in the Closet」の斬新さと雲海のようなスモークと照明が織りなす見事な演出。アンコール3曲を含め全編にわたって一瞬たりとも不安定さを見せることがなくなったACAねの強靭で表情豊かな歌声。Mori Calliopeをフィーチャリングゲストに迎えての「綺羅キラー (feat. Mori Calliope)」と、そのままMori Calliopeも参加しての「あいつら全員同窓会」の流れの圧倒的なクライマックス感……などなど、一般的な意味におけるアリーナライブとしての満漢全席感&満腹感も文句のつけようがないものだったことは前提として、ライブを終えた後に充実感とともに痛感したのは、ずとまよにとってもはやライブとは「作品を発表する場」ではなく「作品そのもの」であるということだった。

(文=宇野維正)

© 株式会社blueprint