【ライブレポート】中折れしない心を胸に! 仙台貨物の体当たりエンターテインメント

夏を先取り! 赤いツナギの熱き漢たち=仙台貨物が、今年は恒例の真夏ではなく夏初月の時期に全国5ヶ所での<仙台貨物トゥアー2024 FIGHT パツイチ>を開催した。ここではそのツアーファイナルにあたった、豊洲PIT公演の模様をお伝えしたい。

宮城県が産んだ、謎の運送屋集団にして6人組バンドでもある仙台貨物。彼らはメタルからフォークやカントリー、果ては演歌までを宮城弁で歌いあげる異端の存在だと言えるが、お茶目にしてお下品な笑いを武器にしながらの体当たりライブパフォーマンスは毎年さまざまな話題を生み出してきており、結成から23年を迎えた今となっては年齢・性別・国籍を超えた多くの音楽ファンに愛されるバンドとなっているのである。

《諦めちゃダメ 中折れしない心》

軽快なモータウンビートにのせ、今宵フロントマン・イガグリ千葉がまずオープニングでこう歌い出したのは、今年3月に発表された最新シングルの表題曲である「FIGHTパツイチ」。ちなみに、今作についてのプレスリリースには「仙台貨物からあなたへファイト!って言ってあげる。仙台貨物にしか成しえない、 痛快で気持ちを奮い起たせてくれるホンキートンクな応援ソング。」との文字が並んでいたのだが、円安とインフレが無慈悲に進行し、誰もが未来に希望を持てているとは言いがたい昨今の現実を思うと、確かに日々を生き抜いていくのに何よりも大切なのは、わたしたちにとって《中折れしない心》なのかも。

ここは敢えてこのように書くが、フィジカルな意味での中折れに効く薬がいわゆるシルデナフィルの類いだとしたら。気持ちの面での中折れには、仙台貨物の供してくれるハイエナジーな音楽を、躊躇なく最大容量まで投与するのがとびきりの良策に思える。もちろん、これまた年齢・性別・国籍を問わずにだ。特にライブでのナマ仙台貨物は効果てきめんで、今回のライブに関しては2曲目の「サタデーナイトゲイバー」において、イガグリ千葉がステージセットに組み込まれていたカラフルなクライミングウォールを突如としてボルダリングしながら歌唱するという荒技が繰り出され、場内からはその勇姿に対して拍手喝采が沸くことに。

また、間奏部分ではギター隊のサティとフルフェイスによるリレーソロ、ベーシスト・王珍々の小粋なフィンガリングソロ、ドラマー・ギガフレアのプチドラムソロも聴くことがかない、それぞれの場面でも場内がおおいに盛り上がることとなったのは言うまでもない。そして、忘れてはならないのが競泳水着マッチョメンたちの集った“ムキムキダンサーズ”の痛快な踊りっぷりで、今宵は冒頭からアンコールに至るまでの随所で計9曲にもわたり仙台貨物のステージを鮮やかに彩ってくれていた。

「どんも、どんもー。今日の豊洲PITはトゥアーファイナルでございます!(中略)みんな、楽しむ準備は出来でんのがな? 今日は仙台貨物がみんなのこどを元気モリモリぬすであげるがらね!!」(イガグリ千葉)

かくして、5曲目の「サイパン2024」ではイガグリ千葉が颯爽とセグウェイにてステージへと登場し、なめらかに動き廻る芸術点が高い動きと、パワフルなボーカリゼイションを両立。しかも、この曲でもイガグリ千葉は途中から再びボルダリングで壁をよじ登りだし、壁に設けられたステップ部分に腰掛けて、このリゾート感あふれる楽曲を楽しそうに歌い出すというどこかミュージカル的なアプローチまで見せてくれたのだった。

かと思うと、次の「うまなみで。」では曲タイトルよろしく人力で動くタイプの馬を模したオモチャ(どうやらエコポニーという商品でコドモ用とは別にオトナ用があるらしい)に跨がり、イガグリ千葉はステージ上で歌いながらジョッキーのごとく躍動感を醸し出しながら駆けてみせたりもした。つまり、仙台貨物のライブというのはエキサイティングな見せ場だらけで、観ている間は気持ちの面での中折れなどしているヒマがまるで与えられないのだ。楽しくて面白い曲たちを、良い意味で最高にトンチキな演出で味わえる仙台貨物のライブは、まさに日常のアレコレを忘れるのにもってこいの場だと断言出来る。

「ハァハァ……千葉さんねぇ、大忙しだ(笑)。今日はトゥアーファイナルなので、ボルダリングもやっだし、馬も用意しだし、セグウェイもあっで、いろいろ用意しましだ。みんな楽しんでいっでね!!」(イガグリ千葉)

なお、このタイミングのMCではサティとフルフェイスも「ちょっど乗っでみでごらん?」とイガグリ千葉に促されてセグウェイに試乗することになり、オーディエンスからそれぞれに「頑張ってー!」と声をかけられる一幕も。

そして、本編後半向けては最新シングル「FIGHTパツイチ」からの新曲を連打。小気味良いビート感が心地よかった「見切り発車」ではイガグリ千葉がキレの良いツイストダンスをみせ、爽やかなシティポップチューン「何も言いたくない…夏」ではイガグリ千葉が軽やかなステップで観衆を魅了。また、“ムキムキダンサーズ”だけでなくギガフレアをのぞく全メンバーがガチで“MUKI MUKI ダンス”を繰り広げた昭和アイドル歌謡系ファンクナンバー「MUKI MUKIさせてよ」も、大変に見応えがあったと言っていい。マニピュレーターのKURIHARAも含めて、各人が本気で臨んでいるところが実にエモみ満載。

その後、「絶交門」や「開運ざんまい」もまじえつつ本編を「送る言葉2」で一旦締めくくった仙台貨物だが、昨年のトゥアーよりコンプライアンス重視であらたに“ワン・モア・ガイ!”のフレーズが定番となった掛け声が場内から発されたことで、アンコールへと突入。演奏に入る前には、イガグリ千葉からうながされるかたちで王珍々がボルダリング、サティとフルフェイスはエコポニー騎乗を強引に体験させられていた(笑)

さらに、そこからの「カントリーボーイ」では間奏部分で挙手した観客の中から選ばれたラッキーパーソンが舞台へと上げられ、イガグリ千葉とのほほえましいフォークダンスをみせることで場内にはハッピーな空気が充満。この時に抜擢されていたのはIT系サラリーマン、スロバキアからワーホリで来ている女性、8歳と3歳の姉妹、販売職の男性、3歳の女の子とさまざまで、中にはサティやフルフェイスがフロアに降りてスカウトしてきたケースもあった。仙台貨物のライブだからこその無礼講で大胆なノリは、接する誰もを幸せにしてくれる。そればかりか、これに続いた「珍々的愛情故事」で王珍々がサプライズ的に歌ってみせたところもなかなかのみどころだったのではなかろうか。

「あのね、来年は仙台貨物の活動はありません。でも、再来年まだみんなのところへ早ぐ帰っで来られるよう神様ぬお願いしよう!」(イガグリ千葉)

この言葉を受けての「神様もう少しだけ」に次いで、トゥアーファイナルの最後を締めくくったのは「人生罰ゲーム」で、これも最新シングル「FIGHTパツイチ」に収録されている楽曲となる。ただ、この曲自体は以前からライブでよく演奏されてきたもので、今回は前述の「サイパン2024」とともにかつて2002年に2000本完全限定で発売されたデモテープ(1stカセット)『サイパン』に収録されていたオリジナル版を、“装い新たにちょっとお行儀よく”新録したバージョンとして演奏されたところが大きなポイントだった。要するに、仙台貨物は22年前当時の“不適切にもほどがあった”部分を、見事にアップデートして令和最新スタイルへと昇華してみせたということだろう。

「今日はMCがなかったギガフレアです(笑)。以上を持ちまして、本日の公演は終了いたしました。どなたさまもお忘れ物のないよう、足下にお気を付けてお帰りください」(ギガフレア)

ライブが終わったあとの“影アナ”でまで、こうしてきっちりと楽しませてくれた仙台貨物はさすがの一言。今年は夏を先取りしてしまった分、ここからの盛夏と来年中は彼らに会えないのが少しサビシイけれど、赤いツナギの熱き漢たちは必ずや最高の体当たりエンタテインメントを我々に届けてくれるものと確信する。2025年夏に再次見面吧。

取材・文◎杉江由紀
写真◎菅沼 剛弘

「FIGHT パツイチ」

2024年3月27日リリース

・TYPE-A (CD Only) LHMH-1065
POS: 4907953095595 ¥2,200(込) ¥2,000(抜)
CD : 全3曲入り
【収録曲】
1.FIGHT パツイチ
2.何も言いたくない…夏
3.人生罰ゲーム
*封入特典付

・TYPE-B (CD Only) LHMH-1066
POS: 4907953095601 ¥2,200(込) ¥2,000(抜)
CD : 全3曲入り
【収録曲】
1.FIGHT パツイチ
2.見切り発車
3.サイパン2024
*封入特典付

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