みずほ銀行、凄まじい退職強要…4年半も自宅待機命令、うつ病でも出社命令

みずほ銀行の店舗

日本の3大メガバンクの一角を占める、みずほ銀行。その男性行員が、上司が勤務中に顧客から見える場所で足を組んだ姿勢で新聞を読んでおり、顧客から苦情を受けたため本人に改めてほしいと丁寧に連絡。すると男性は人事部から執拗に退職勧奨を受けた後、約4年半にわたり自宅待機を命じられ、懲戒解雇された。男性は同社に対し損害賠償、解雇の無効などを求めて裁判を起こし、先月、東京地裁は同社に対し330万円の賠償金の支払いを命じたが、なぜ日本を代表する大手銀行でこのような異常な行為が行われたのか。男性の代理人を務める東京法律事務所の笹山尚人弁護士を取材した。

第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が全面統合するかたちで2003年に発足した、みずほフィナンシャルグループ(FG)。「One MIZUHO」を掲げ、銀行、信託、証券、アセットマネジメントを擁する総合金融グループであり、総資産額は254.2兆円(2023年3月末時点)を誇る国内3位の金融グループ。国内上場企業の7割、Forbes Global 2000の上位200社(除く金融機関)の約8割と取引があり、約40の国・地域に拠点を展開。シンジケートローンは国内市場シェア1位、資産運用残高は国内運用会社1位となっている。

その「みずほFG」の中核的存在である「みずほ銀行」で、にわかには信じがたい退職強要が行われていた。2014年9月、関西の支店に勤務していた男性は上司の問題行為を支店長に報告。それが発端となり、男性への退職強要が始まった。

「まず男性は別の部署に異動させられますが、銀行で行われる定例の異動ではなく、また、それまで従事していた営業職とは異なる職種に配属され、営業職ではついていた給与面でのインセンティブがなくなり、事実上の減給となりました。異動からしばらくすると、銀行側が男性に対し、勤務態度が良くないといった理由をつけて退職勧奨を始め、男性が拒否を続けていると、今度は自宅待機を命じました」(笹山弁護士)

銀行は男性に対し、「自宅待機中のあなたの仕事は、新しい仕事を見つけること」などと言い、朝と夕方に電話・メールで“勤務状況”の報告をさせていた。

「社員を働かせないということは会社にとっては損なことではありますが、社員にどのような内容の業務を行わせるのかということを決める裁量権は会社側に属するため、自宅待機命令そのものがただちに違法というわけではありません。何らかの理由で処遇に困った社員をとりあえず自宅待機させるというケースはないわけではないものの、4年半という期間は明らかに異常といえます」(同)

内部通報制度についてルールを逸脱して運用

自宅待機命令は16年4月から20年10月までにおよび、その間、男性はうつ病を発症して心療内科へ通院していたが、20年10月に銀行は一転して男性に出社を命じる。

「銀行としては、4年半も自宅待機させたのに辞めようとしないため、埒が明かないということで復職命令を出したのでしょうが、銀行側は出社を命じる文書を男性に送ったと主張している一方、男性は受け取っていないと主張し、送られてきても返信できる精神状態ではなかったと述べています。そして男性は銀行の命令に従わず出社しないことを理由に21年5月、懲戒解雇されます。裁判所は出社を命じる書類が存在していることを理由として、この懲戒解雇については有効だと判断しました」(同)

一連の退職強要の手法・プロセスに加えて問題なのが、みずほ銀行が社内の内部通報制度についてルールを逸脱して運用した点だ。

「男性は内部通報制度を利用して複数回にわたりパワハラ防止法違反が生じている旨を通報しましたが、銀行側は規定に定められたコンプライアンス統括部による対応を行わず、男性に退職勧奨を行っていた当事者である人事部に対応を任せていました」(同)

みずほ銀行の関係は“蟻と巨象”

なぜ、みずほ銀行は男性にこのような行為を行ったのか。

「銀行側の理由が何なのかは推察するしかありません。男性が退職勧奨を受けるきっかけとなった、支店長への報告の対象となった上司というのが幹部クラスの行員だったということもあり、一度決めた方針(=男性の解雇)を変更するわけにはいかないという“大企業の論理”が銀行内で働いたのかもしれません。また、一連の男性への行為が明るみに出ると、みずほ銀行の体裁が悪くなるため、男性の口を塞いでおきたいという思惑もあったのかもしれません」(同)

東京地裁は、みずほ銀行の行為について

「このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態」
「その対応は不誠実であるといわざるを得ない」
「社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する」

とし、同社に対し330万円の賠償金の支払いを命じた。その一方、懲戒解雇は有効だとした。この裁判所の判断を原告代理人として、どう受け止めているのか。

「裁判所は男性と銀行を対等的、フラットな関係にみているという印象を受けましたが、実際には一行員とみずほ銀行の関係は“蟻と巨象”といえるほどの格差があります。銀行が何十回も男性を呼び出したり、4年以上も自宅待機を命じたり、内部通報制度のルールを破ったりといったコンプラを無視した異常な行動を繰り返し、男性は大きな精神的な苦しみを味わったわけです。それに対して300万円程度の慰謝料というのは、人生をめちゃくちゃにされた労働者にあまりに情がない判断と感じます。

裁判所には、ハラスメントを表層的にではなく、もっと深刻に受け止めてほしいと思いますし、大企業の責任というものに厳しい視線を持ってほしいと思います」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=笹山尚人弁護士/東京法律事務所)

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