ルー大柴の適応力は素晴らしい 関西生トーク番組に初出演後「怖い番組だね~」とニヤリ

ルー大柴(C)日刊ゲンダイ

【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#192

ルー大柴の巻

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初めてお会いしたのは30年近くも前でしょうか。アデランスのCM「トゥギャザーしようぜ!」でブレークし、東京の番組ではよく見かけていました。日本語と英語をチャンポンにした“ルー語”で人気を博していましたが、共演者と噛み合わない独特のキャラクターが「大阪で合うやろか?」と関西のプロデューサーは危惧していました。何の根拠もありませんでしたが、なんとなく“律義そう”に感じていた私は「お試しに一度だけ呼んでみましょう」と“オーディション感覚”でトーク番組のゲストにブッキングしました。

番組は落語家の桂南光さんが司会を務める月~金帯の情報番組「痛快!エブリデイ」(関西テレビ)の月曜日「男がしゃべりでどこが悪いねん!」という男性タレントが1週間のニュースを好き勝手に斬りまくるトークの日。あの大竹まことさんから、週刊誌のコラムで「日本一の生トーク番組」とお褒めを頂いたこともあるコーナーです。個性あふれる関西芸人に対して、ルーさんがどんなからみをされるのか楽しみでした。

本番当日、きちょうめんにひとりひとりに挨拶をされ、構成の私に「どういう立ち位置でいけばいい?」と聞かれたので「みなさん好き勝手にしゃべられますんで、ルーさんの思うようにやってください」「フリーポジションでいいの?」「まったくフリーでお任せします」と雑談のような簡単な打ち合わせを終えて本番へ。

どう入っていこうかと考えておられたのか、少し緊張された表情でスタート。間合いを計りながら「やぶからスティックだな」「いまのはいいクエスチョン!」とか随所に“ルー語”を連発。

司会の南光さんはもちろん、桂ざこばさん、中田ボタンさんたちから「普通にしゃべれまへんのか!?」「アンタのしゃべり、聞いとったらイライラしてくんな!」とツッコミを入れられながらも「そんなにアングリーしないでよ~」と余裕で応戦しておられました。

CMに入ると「僕のしゃべりはからみにくいでしょうか?」「言い過ぎてますでしょうか?」と真顔で出演者のみなさんに質問。「いやいや、どんどん言いなはれ!」「おもろいおもろい」「アンタ生真面目な人やな」と一層温かい雰囲気に。それでも本番に入ると「スッとしゃべれよ、うっとしいな!」「ほんとに関西の人は気持ちがショートなんだからー」とトークテーマとは別のところでツッコまれる。空気を壊さないタイミングで自分の話に持っていかれたりと、予想以上に笑いの起こるちぐはぐさを演出しておられました。

本番が終わると、「あんなしゃべりで良かったでしょうか?」と真剣に聞かれていました。私に小声で「怖い番組だね~」とニヤリとされていたのが印象的でした。

当時の大阪の番組は、ほとんどが完全フリートーク。関西人ならではの掛け合いとトークのテンポの速さなどに戸惑われ、関東で人気の芸人さんが、スベってしまうこともありました。そんな中、ルーさんは素晴らしい順応性と適応力で爪痕を残していました。

以降、十数回は来ていただいたと思いますが、出演するたびに周囲との絶妙の間をつくって空気を壊すことなくご自分の存在をアピールされていました。

これからもますますのご活躍を期待しています。

(本多正識/漫才作家)

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