【コラム・天風録】コンビニ婚

 本格的コンビニチェーンの国内1号店が1974年5月に産声を上げ、半世紀になる。ほぼ右肩上がりできた店舗数は、とりわけ90年代に倍増した。そのころ、本紙の読者文芸でも姿を見せ出す▲〈コンビニの前で若きがたむろしてたまごつち飼ふ奇異なる日本〉。詩の一節にも見える。〈街に住むようになって/灯(あか)りを追いかけ/コンビニのはしごをしたと/山奥で育ったあなたが話す〉。そんな山里にも今では灯がともっていることだろう▲90年代に同じく、うなぎ上りの曲線を描いたグラフがある。かつて「生涯未婚率」と呼ばれた50歳時未婚率である。それはそうだろう。いつでも駆け込める「巨大冷蔵庫」にとどまらず、ATMが置かれ、宅配サービスや公共料金支払いの窓口にもなった▲なにより愚痴一つこぼさない。結婚などしなくたってコンビニさえあれば生きていける―。そんな若者の風潮を、徳野貞雄熊本大名誉教授は「コンビニ婚」と呼ぶ。もはやシングル生活に欠かせぬインフラといえよう▲わが世の春と思わせる灯にも、永遠はない。この4月に載った川柳が教えてくれる。〈コンビニが閉じて淋(さび)しい冬の帰路〉。夜の短い春は、夢も覚めやすい。

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