『街並み照らすヤツら』“暗躍”した伊藤健太郎のねらい 月島琉衣をより輝かせる巧みな演出

荒木(浜野謙太)の言葉に感化されるまま、お互いの店で“偽装強盗”を繰り返していく商店街の店主たち。一方、前回正義(森本慎太郎)たちが偽装強盗に入った時計店の向井(竹財輝之助)のもとには、監視カメラの映像に違和感を抱いた刑事コンビの日下部(宇野祥平)と澤本(吉川愛)が聞き込みにやってくる。警察は隣町でも同様の強盗事件が相次いでいることを受けて捜査を本格化させようとしているし、光一(伊藤健太郎)が送り込んだトミヤマ(森下能幸)という男が商店街の人々の様子を監視し始めるし、いよいよ混沌とした状況になりつつある。

5月18日に放送された『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)は第4話。綻びだらけの完全犯罪計画に、本来入るべきではないものをいっぱい押し詰めていけば、いとも簡単に破れてしまうのは至極当然なこと。偽装強盗もエスカレートしてしまえば、あとはバレる以外に道はなく、ましてや強盗だけに飽き足らず当たり屋のような真似までしてしまうとなればますます事態は収拾不可能に陥るわけで。今回のエピソードでは、“バレてはいけない”相手に次々と偽装強盗がバレていく。それを受けて相手がどのような行動をするのかが、物語を掻き回すための大きなポイントとなるのだろう。

とはいえ、“バレる”と一口に言ってもいくつものパターンがあることを実証していくのがこのドラマらしいところ。第1話から第2話にかけて莉菜(月島琉衣)が偽装強盗に気が付くくだりのように、たくらみを偶然立ち聞き/目撃しているパターン。莉菜が父・龍一に話したように、当事者から自白されるパターン。龍一が酒の勢いで気が大きくなって武勇伝さながらに広めてしまうパターン。これらはおそらく実世界においても犯罪事実が漏洩するパターンとしてよくあるものかもしれない。

今回のエピソードにおける“バレ方”もまた、実に多様である。たとえばまだ確証まで辿り着いていないとはいえ、日下部は捜査の過程で違和感に気付く。これは俗にいう“刑事の勘”といったところだろう。対して澤本のほうはすっかり正義に感情移入してしまっているわけで、ケーキ屋強盗の際の監視カメラ映像に何度もアフレコをしながら、向井の言った「偽装強盗」というフレーズに引っ張られるようにして勘付く。ちなみに第1話を観返してみても、このシーンで正義が「早く縛れ」と言っていたかは判定できず、澤本の妄想が膨らんだ結果とみなしたほうがユニークでもある。その後の正義への不自然すぎる接触も然り、やはりこのキャラクターが一番場を掻き回してくれる。

また、やはり最大の目的が商店街の“お取り潰し”であると判明した光一は、トミヤマの調査によって偽装強盗という答えに辿り着く。使いの者にこっそりと潜入調査をさせ、かつ事実を知ったうえでも目的の遂行のために保険金には目を瞑り、恫喝して立ち退きを要求する。まさしく“暗躍”という言葉がよく似合うやり口である。それにしても、向井のもとにも保険会社がやってくるのに、正義のもとにはケーキ好きを装ったトミヤマが若干カマをかけるように現れるだけ。このトミヤマという男にはなにか他のねらいがあってもまったく不思議ではない。

そしてこれはまだ完全にバレたところまでは描かれなかったが、シュン(曽田陵介)のところへやってきた彩(森川葵)が肌寒さを訴えると、シュンは着ていたコートを優しくかけてあげる。もちろんそれは強盗の時に着ていたリバーシブルのあれで、彩は内側の模様を見て何かに気が付いた様子を見せる。強盗の後も正義の忠告を無視して街を出なかった若者2人だが、マサキ(萩原護)は思わぬかたちで警察に捕まりドロップアウトしており、シュンも結局これで窮地に追い込まれることになるのだろうか。

ところで今回、保険金が支払われて生き生きとしている商店街の人々を見て、自分に何かできることはないだろうかと考え、なぜか動画配信者になって商店街の宣伝を始める莉菜。ノリノリで買い揃えたウクレレを出したり、会合でカメラを構えて龍一の言葉に苦い顔をしたりと、いつもより彼女が輝いて撮られているように見えた。そう思っていたら、今回の演出は莉菜役の月島が主演を務めていた『からかい上手の高木さん』の助監督だった中里洋一だったのか。とても納得がいった。

(文=久保田和馬)

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