『東京タワー』透と耕二の“破滅へのカウントダウン” 無防備で憎めない松田元太の演技

透(永瀬廉/King & Prince)と耕二(松田元太/Travis Japan)の破滅へのカウントダウンが始まった『東京タワー』(テレビ朝日系)第5話。

同級生・楓(永瀬莉子)が「あの人のことは全部私が忘れさせてあげる」と一世一代の思い切った行動に出たものの、それは透にとって詩史(板谷由夏)の存在がいかに大きく替えの利かないものであるかを改めて強く意識させる結果に終わる。そしてそれは皮肉なことに詩史にとってもそうだった。初めて透が詩史からの着信に応答しなかったことで、強烈に自分が彼を欲していることに気づく。

しかし、透が全身全霊で詩史に恋い焦がれているのに対して、詩史は「私の中の別の誰かがどうしようもなくあなたに会いたがってた」と言う。通常モードの自分は夫の英雄(甲本雅裕)とも良い夫婦をやっていられるけれど、それとは別の自分が透を求めるということにも聞こえる。楓同様にはなから対等ではない詩史との恋に振り回され傷つく透のことを見てはいられないが、その不幸以上に身を震えさせるような幸福を透に与えられるのもまた詩史だけなのだろう。

相手のこと自体が好きという以外に「その人の前でいる自分が好き」「その人と一緒にいる時間が好き」というのは特別で強い。その相手だからこそ引き出される新たな自分がいて、その相手にしか見せられない自分が新鮮で心地良く、この時間を何があっても手放したくはないと思う。

「俺はもう詩史さん以外無理だ」、「僕の目の前に詩史さんがいる。それが一番大切なこと」、「幸せかどうかはそう重要じゃない。詩史さんに与えられる不幸なら他のどんな幸福よりずっと価値がある」……どんどん深度を増す底なし沼にはまっていく透に呼応するように、詩史もついにスマホの電源を切って外界との繋がりをシャットダウンし、彼と2人だけの時間に没入していく。

しかし、この恋によって不幸を与えられるのが詩史からだけとは限らない。繋がらない妻のスマホににわかに抱いていた胸のざわめきを強めていきそうな英雄の様子も無視できないところだ。

さて、本格的に自滅が近づいているのが耕二だ。彼女の由利(なえなの)そっちのけで喜美子(MEGUMI)からの着信を取ったものの、これが結果的に2人の女性に不信感を与えることになる。由利は彼が浮気をしていることを確信し、喜美子も今まであえて踏み込んで聞いてはいなかった耕二の彼女の存在を電話越しに感じる。

ただ違和感を感じながらも何とかやり過ごそうとする由利と耕二のやり取りよりも、互いに夫や彼女という存在がいながらも、会うなり抱擁し合い、会えないことへの不満をぶつけ合う喜美子と耕二の方がよほど恋人同士のような会話らしくも聞こえる。この2人の関係性はどこか“共依存”の色合いも含むが、何なら喜美子には夫とこんなに言い争った経験がそもそもないのではないだろうか。

耕二役を熱演する松田元太は『ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~』(日本テレビ系)では明るく真っ直ぐな後輩役を好演し、優しすぎる性格ゆえに税金の徴収が苦手な徴税吏員役を務めていた。真っ直ぐなところは本作での耕二にも通ずるところがあるが、耕二はもっと自分の欲望に忠実で軽率なところも多々あるものの、狡猾なところはなく無防備でなんだか憎めない。荒削りで自分本位だが、意外に人のこともよく見ていて、そんな耕二だからこそ日頃抑圧されている喜美子も本音をぶつけたり甘えたりしやすいのだろう。くだらない自分も安心して見せられる気楽さが耕二にはある。

しかしそんな迂闊な2人の情事がついに家族にバレてしまう“終わりの始まり”が描かれた。耕二にとっても一体何が自分にとっての“幸せ”なのか、目をそらさず見つめ直さなければならない時が迫っている。

(文=佳香(かこ))

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