パチンコやめられず…年収600万円の夫の給料と自宅を担保に、消費者金融で「600万円」借りた50歳・無職「ギャンブル依存」の主婦の末路【CFPが解説】

勝ったらもっと勝ちたくなり、負けたら取り戻したくなる「ギャンブル」。魅力を感じなくなるか、もしくはやりたくてもできない環境に身を置かれる以外にやめる方法はないのかもしれません。本記事では公認会計士、税理士、証券アナリスト、CFP、宅地建物取引士の資格を持つ鄭英哲氏が、Sさんの事例とともに身の丈に合わない借金の恐怖について解説します。

大手消費者金融へやってきた50歳・専業主婦

筆者はいまでこそ、公認会計士、税理士や証券アナリスト、CFPなど多くの資格を活かして仕事をしていますが、大学を卒業した2001年から2年間、某大手消費者金融(以下「X社」とします)で働いていたことがありました。今回は、その当時にあったお話です。

いまでもそうですが消費者金融というと、どこの駅にでもあって、1時間もあれば誰にでもお金を貸してくれるというイメージですよね。そのイメージは正解ですが、実際に筆者が勤めていたX社は不動産を担保に融資をする不動産担保ローンを積極的に推進していました。

X社が、というより、当時大手のT社以外はどこも不動産担保ローンに積極的だったと記憶しています。担保がある分、通常の無担保のローンよりも貸し倒れリスクも低いうえに、担保価値によっては1,000万円以上の貸し付けも可能ですから、どこも積極的でした。

夫の給料を当てに無職の専業主婦が借り入れ

ある日やってきたのは、50歳の専業主婦Sさん。50歳のSさんが来店したのは2002年の春。仕事をしていない専業主婦にもお金を貸すのかと疑問に思われた読者もいるでしょう。

答えは、問題なく貸します! この場合、夫の年収で査定されます。もちろん本人の給料ではないので通常よりも低い貸付金額にはなりますが、どこの消費者金融も普通に貸していました。いまはどうなっているかわかりませんが、夫に内緒で夫の給料を当てにして妻にお金を貸すなんて、考えたら恐ろしい話です……。

そして、Sさんの希望は、自宅を担保にした不動産担保ローン。そのときのSさんの状況は、すでにX社を含む大手5社から計250万円を借り入れ。Sさんは、不動産担保ローンを使って、借りている250万円をX社の1社、しかも低利でまとめて将来に向けて返済したかったとのこと。確かに、理にかなっています。

でもここで率直に感じた違和感。「自宅の名義はSさんですか?」と聞くと、「主人のものです」とのこと。聞いた私は内心びっくりしました。なぜなら、夫の給料を当てに借りた消費者金融の多重債務を、夫名義の自宅を担保に1社にまとめるというのですから。そもそも夫は大事な自宅を妻の消費者金融の借り入れのために担保提供をするのでしょうか。

消費者金融の恐ろしさ

さっそく法務局へ行き、不動産の登記簿謄本を取ってみると、Sさんの言うとおり自宅の名義は夫。そして、不動産価値を調べてみたところ、400万円程度は担保余力もあるようでした。

「自宅を担保」、「担保余力」と聞いて不思議に思った方もいるでしょう。50歳前後の夫婦が住んでいる自宅となると、ほとんど場合は住宅ローンの返済真っ只中。Sさんの自宅もまさに住宅ローンの返済中。そんな住宅ローン(1番抵当)の次の2番抵当にお金を貸せるのでしょうか。

しかし消費者金融は、緩く緩く不動産価値を出して無理にも貸せるようにするのです。嘘のような本当の話です。今回のケースは、

不動産価値-住宅ローン=担保余力400万円

だったというわけです。

夫名義での不動産担保…その審査結果

なにはともあれ、本人の希望どおり250万円の多重債務は不動産担保ローンで1本化することはできるわけです。はたして夫は自宅を担保提供してくれるのでしょうか。不動産価値やそのほかの書類も問題なし。

審査結果は、「400万円の融資」。

あとは、夫が消費者金融の債務のために大事な自宅を担保に出してくれるかどうかだけ。契約日を決める電話をしたところ、Sさん曰く夫からの承諾を得ることはできたと。にわかに信じられませんでしたが、契約することになりました。

そして、契約当日に夫婦で来店。朝から晩までテレビCMを流しているX社がどんな会社かどうかは夫も知っているはず。夫から持参した自宅の権利証を預かり、淡々と契約書類に記入してもらい、契約は無事終了。もう一度言いますが、仕事をしていない専業主婦が、夫の給料を当てに消費者金融5社でお金を借り、夫名義の自宅を担保にさらにお金を借りる契約をしたということになります。

これだけでも違和感の塊ですが、ささいな違和感はこの直後。Sさんからの一言「今回、融資してくれたので商品券を渡したい」と。もちろん「これは業務ですし、規則で決まっていますので」と固辞。そのかわり、後日菓子折りかなにかをもらったと記憶しています。

そのくらい、融資金がなければ困ることがあったのでしょうか。さらに、無職の専業主婦が250万円も借りてなにに使ったのだろうか。いずれにしても、他社も含めた250万円はすべて1本化にしたことは、信用情報で確認することはできました。

再び借り入れを求めにやってきた

やはり違和感は的中。9ヵ月も経ったころ、Sさんが再びやってきました。要件は、お金を貸してほしいと。信用情報を調べたら、他社の債務が復活しています……。

もちろん3月に貸した不動産担保ローンも上限いっぱいの400万円借りられています。つまり、合計約600万円を借りていたのです。もちろん追加で貸すことはできないと言うと、焦ったように「他社で貸してくれるところはないか」と聞かれました。しかし、この状況で貸せる会社はないだろうと率直に伝えました。

ついでになぜ他社の債務が増えたのかを聞きました。返ってきた答えは、パチンコ……。

筆者のような末端の社員は、通常の貸し付けについての管理はしますが、不動産担保ローンの管理は店長さらには専門の部署に引き継がれるので、詳しいことはわかりません。最終的には自宅を売却したとのことです。

自宅を売って解決したことにはなりましたが、その後夫婦がどうなったかについては知る由もありません。やはり身の丈に合わない借金は、のちに身を滅ぼすということだけははっきりとわかりました。

鄭 英哲

株式会社アートリエールコンサルティング

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