THE RAMPAGE 岩谷翔吾「なぜここまでダンサーの気持ちがわかるんだろう」 恩田陸『spring』を読んで

史上初の直木賞&本屋大賞をW受賞した『蜜蜂と遠雷』をはじめ、多くのベストセラー小説を手がけてきた恩田陸が、3月22日に新作小説『spring』(筑摩書房)を刊行した。舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)というバレエの天才を主人公とした傑作長編小説に仕上がっている。

ダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGEの岩谷翔吾は、同作を読んで「なぜここまでダンサーの気持ちがわかるのだろう」と驚愕したという。「全ダンサーの気持ちを代弁してくれている」とまで語る岩谷に、本書の感想について余すところなく語ってもらった。

■天才と対峙しなければいけない周囲の人々にも共感

ーー岩谷さんは読者家として知られ、初の書き下ろし小説『選択』が10月に幻冬舎から刊行されます。集英社のブックレビュー連載「岩谷文庫~君と、読みたい本がある」では、恩田陸さんの小説『三月は深き紅の淵を』を紹介していましたね。もともと恩田さんはお好きだったのでしょうか。

岩谷:数々のベストセラーの名作を書かれている恩田さんの作品は、もちろん大好きでした。連載で『三月は深き紅の淵を』を紹介したのは、この小説が物語の根源について書いたものだったからです。小説や物語についての連載だったので、締め括りのラストの回にふさわしいと思って選びました。

ーー恩田さんの今回の新作『spring』では、バレエの世界が描かれています。同じくパフォーマーとしてダンスに取り組んできた岩谷さんは、どのような感想を持ちましたか。

岩谷:なぜここまでダンサーの気持ちがわかるんだろうと思いました。僕が経験してきたことを代弁してくれているようでした。自分の人生の1ページ1ページをめくっているようで、懐かしい気持ちさえ覚えました。僕はヒップホップなどのストリートダンスをやってきたので、バレエのように格式のあるダンスとは少し違いがあるかもしれません。でも、練習から本番に向かうまでの流れや、ダンスに対する姿勢については、共通するところも多かったです。自分の人生のみならず、全ダンサーの人生を代弁してくれている小説だと思います。

だからこそ、「一本取られた!」とも思いました(笑)。僕も小説を書いているので、自分もこんな作品を書きたかったなと。僕は27歳ですが、ダンスを始めて18年になります。人生の大半をダンスに捧げてきました。改めて僕も、いつかダンスの経験を踏まえた小説を書いてみたいと、気持ちを新たにしました。

ーーこの小説では才能と才能のぶつかり合いが描かれています。才能というものに対して、何か思うことはありますか。

岩谷:僕自身は、才能とは「継続力と集中力」だと思っています。特に僕は天才肌タイプではなくて、コツコツ積み上げる努力家タイプなんです。自分の努力と周りの方々のサポートによって運を味方にできたからこそ、今の自分があると思っています。

一方で、主人公の春は天才肌です。しかも、ストイックに努力を積み重ねているので、もう僕からしたら「こういう人には勝てないよな」と思ってしまう存在でした(笑)。僕が所属するLDH JAPANにも天才タイプのダンサーがゴロゴロといるので、天才と対峙しなければいけない周囲の人々にも共感を覚えました。

ーー特に気になった登場人物はいましたか。

岩谷:音を作る天才の滝澤七瀬です。THE RAMPAGEのライブは、自分たちで振り付けや演出もしていて、メンバーの龍は音源制作をすることもあります。例えば、ダンスの間奏を入れたい時には龍に相談しているのですが、その時はまさに小説内の春と七瀬の掛け合いのようなやりとりをしながら、ビートを作っていくんです。

面白いなと思ったのが、238ページで春が「先に七瀬の好きなように曲作っちゃっていいよ」と言うのに対して、七瀬が「ある程度注文内容のコンセプトがはっきりしていて、制約があるほうが作りやすい」と考えているところです。というのも、僕も全く同じことを龍から言われたことがあったので。お互いに才能があるからこそ、音を作る側にもダンサー側にもこだわりがあって、制作は一筋縄ではいきません。このシーンが妙にリアルで、どうやって取材したんだろうと思いました。ぜひ恩田さんにはいつか、僕らのリハーサルも取材して文章にしてほしいです(笑)。

■ライバル・浦川翔平を思い出して

ーーこの小説では、深津純が春と切磋琢磨して技術を磨いていく姿も印象的です。岩谷さんには、ライバルと呼べる存在についてどう考えていますか。

岩谷:自分を高めてくれるライバルは重要だと思います。僕にとってはTHE RAMPAGEのメンバー・浦川翔平がそんな存在です。翔平は小学生の頃から知っていて、当時から「シンメ」(左右対象で踊る二人組)の翔平・翔吾と呼ばれてきました。もう17年間ぐらい、ずっとライバルであり、コンビのような仲なんです。

翔平は2歳からダンスを始めていて、まさに天才肌のキッズでした。日本一のダンサーを決めるテレビ番組『スーパーチャンプル』(日本テレビ系列)でも、スーパーキッズとして紹介されるほどの実力者だったんです。圧倒的なダンスのスキルで上り詰めてきた彼に対して、僕は努力と運でコツコツ積み上げてきたタイプ。翔平と一緒に踊るようになり、なんとか付いていこうと必死になったことで、僕自身もすごく成長できたと思います。もし彼がいなかったら、ダンスはここまでうまくなっていないはずです。僕は嫉妬はあまりしないタイプで、しかもM気もあるので(笑)、隣にすごい人がいると燃えて努力を積み重ねていくんです。だから翔平の存在には、本当に感謝しています。

ーー岩谷さんにとっては、浦川翔平さんこそが春のような存在だった、と。

岩谷:まさに翔平は、春のようになんでもサラッとできるタイプなんです。例えば、僕は2年前から毎日のように筋トレをしてパフォーマーとしての体を維持してるんですけど、翔平は筋トレをほとんどしません。それなのに体は僕よりもバキバキなんです。筋肉質の体、そして音を捉える耳などを生まれ持っているところは、春に通じる部分があると思いました。

ーー先日、恩田さんに取材をした際に聞いた話では、春はいわゆる破滅型ではない天才として描こうとしたそうです。天才というと、周囲の人を振り回して自滅していくようなエキセントリックな人物像が描かれがちだけれど、あえてそうはしなかった。実際、この小説における春は、周囲の人々にもすごく愛されています。

岩谷:破滅型ではないというところも、LDHのアーティストに通じるところかもしれません。もちろん、ダンスがうまいことは最低条件ですが、代表であるEXILE HIROさんからは、人間力も含めてトータルで輝けるようなパフォーマーを目指すよう指導を受けています。世の中にダンスがうまい人はごまんといますが、本当に人の心を動かせるダンサーは稀です。ダンスに限らず、人の心を動かす表現は、きっと日々の生活の積み重ねからしか生まれないんじゃないかと考えています。ダンスって本当に人が出るんですよ。今まで生きてきた人生が全部、丸裸になるようなイメージです。特にステージに立っていると、それがよりリアルにわかります。春のように人間力も備わった表現者を目指したいです。

ステージに立つ人間の気持ちが本当にうまく捉えられている

ーーこの小説の中で、岩谷さんが特に琴線に触れたシーンはどこでしょうか。

岩谷:ラストで春が、地の文章で今までの人生を振り返りながら、人々の視線について考えるシーンです。417~418ページにかけては、すべての文章が素晴らしくて感嘆しました。

「踊っている時、振付を考えている時は、観客の視線を感じなければならないし、どう見えるか、見てどう感じるかを常に意識していなければならない。
しかし、それはあくまでも、俺自身の視線だ。俺が観客になって、客観的に、踊る俺、踊るダンサーを見ている。
だが、今回、俺を見ているのは、純然たる「他者」なのだった。
俺の知らない、俺を知らない、むきだしの視線で俺を見ている「他者」。彼らの視線を、ずっと痛いほどに感じ続けていたのだ。」(『spring』P417~418より)

ステージに立つ人間の気持ちが本当にうまく捉えられていると思います。例えばアリーナで1万人の前で踊って高揚を覚えたあとに、ホテルに1人で帰ってカップ麺を食べながらボーッとするようなことがあります。そんな時の気持ちは、ステージに立ったことがある人間にしかわからないものがあると思います。さっきまで1万人の歓声を浴びていた分、光と影のコントラストが強すぎて、1人になると孤独感を強く感じるんです。そして、人前に立つということはどういうことなんだろうと思索したりします。そういう経験があるからこそ、春が自問自答するシーンにはグッときました。

ーー本書をもしプレゼントするならば、誰にあげたいでしょう。

岩谷:やっぱり先ほど話に出した、メンバーの翔平ですね。翔平は野生児なので普段本を読むタイプではないんですけど、だからこそ彼がどういう感想を持つのか、聞いてみたいものです。

ーー岩谷さんの今後の文筆家としてのご活動について教えてください。

岩谷:初の書き下ろし小説『選択』(幻冬舎)を10月10日に出版することになりました。これは4年前から書いていて、何回書き直したかは分からないほどで、もう100校くらいになっていると思います(笑)。4年もの月日をかけて試行錯誤し、今自分が出せる魂を全部注ぎ込みました。ぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

(文=松田広宣)

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