畑中葉子「2曲で45年、生き延びた」と感慨 故郷・八丈島で初の主催ライブ さらに歌った激シブの昭和ソング

歌手の畑中葉子がソロデビュー45周年を記念し、今月18日に故郷・八丈島(東京都八丈町)で自身初となる主催公演を行った。八丈島の活性化を掲げて同島ゆかりのゲストも招き、ヒップホップと昭和歌謡、郷土芸能など多彩なラインアップで、約100人の観衆と共に会場を盛り上げた。

手作りのライブだった。事務所に属さず、フリーランスの畑中は自身がプロデューサーとしてゲストとの出演交渉、会場の決定や地元の関係者回り、出演者の交通手段や宿泊ホテルの手配、Tシャツなどグッズ制作、ステージ構成や演出、メディア対応、さらには打ち上げの差配まで1人でこなした。

その上で、演者としてメインを張った畑中は「もう、息も絶え絶えです」と笑いつつ、「私だけでは難しかった。島で動いてくれる人がいてありがたかった」と地元の仲間に感謝。13歳まで過ごした同島で出会った友、その後も折に触れて帰島する度に知り合った人たちがスタッフとしてサポートした。

家族に八丈島出身者がいるシンガー・ソングライターの倉沢桃子や女優・森口彩乃、同島出身の芸人・サブロクそうすけ、縁のある尺八奏者・豊岡雅士、三味線奏者の太田洋介、箏曲家の森川浩恵といった邦楽奏者、八丈太鼓の会や樫立(かしたて)踊り保存会、ヒップホップダンスを学ぶ島の子ども、昨年7月にリリースした畑中の新曲でコラボした双子ラッパー・上鈴木兄弟&さいとうりょうじ(ギター&作曲)のユニット「P.O.P」らが出演。それぞれがレパートリーとは別に、各自の解釈で「八丈島からの手紙」を披露するというテーマで進行した。

大トリの畑中は純白ドレスで代表曲「後から前から」を始めに熱唱した。

1978年に作曲家・平尾昌晃さん(2017年死去、享年79)とのデュエット曲「カナダからの手紙」で歌手デビューし、大ヒットして紅白歌合戦に出場。79年にソロ歌手となり、80年に「後から前から」がヒット。清純派から大転身した日活ロマンポルノ(80~81年に4作で主演)作品の主題歌にもなり、インパクトのあるタイトルと歌詞から今も世代を超えて〝伝承〟されている歌だ。

畑中は「私の曲で知られているのは2曲。その『2曲』で45年間もやれたのは、自分自身で『畑中葉子(であること)』をあきらめなかったから。失敗しても、門前払いされても、いろんなところに顔を出して、やっと今回、八丈島で(ライブを)やれました」と感慨を込めた。

今回は7曲を歌った。この2曲のほか、平尾さんのデュエット相手を決めるオーディションで歌った「京のにわか雨」(平尾さん作曲で72年に発売された小柳ルミ子のシングル曲)、一昨年にリリースした「夜雲影」、そして、16年発売のカバーアルバム「GET BACK YOKO!!」に収録されていた「夏の日の想い出」(65年、日野てる子)と「虹色の湖」(67年、中村晃子)だ。

畑中は「日野さんは、私が小学校に上がるか上がらないかくらいの時に、八丈島の空港でお見かけした印象がすごく残っています。中村さんは、この曲がヒットする前、八丈島で(主演した松竹映画)『ちんころ海女っこ』(65年公開、前田陽一監督)を撮影されていて、周りの俳優さんたちがいとこの旅館に泊まっていたので、幼い私は(老人役で知られた名優)左卜全さんに遊んでいただいたという思い出があります。『虹色の湖』の前奏と後奏には島太鼓のフレーズが入っています」と明かした。

ラストの「八丈島からの手紙」では全員がステージに上がり、踊りの輪が広がった。同曲は八丈島空港の到着ロビーでPVが流され、新たな〝ご当地ソング〟として既に認知されている。

畑中は「昨年7月に出た新曲の着地点にしたかった。この先、いつまで歌えるか分からない。今、やりたいことを悔いのないようにぶち上げていこうと。昨年、八丈島を舞台にした映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が公開されて多くの人が島に来てくださり、その機運をさらに押し出すことができればと。ただ、コナンも(今年4月に)新作が公開され、いつまでも乗っかることはできない。新たに外から人が来てくれるよう、島の皆さんと一緒に頑張りたい」と意気込んだ。

八丈島に残る〝昭和の伝説〟「流人(るにん)祭り」の復活を掲げる。畑中が新人歌手だった19歳、恩師・平尾さんと同祭りに凱旋した78年の夏から時は流れた。65歳の凱旋。新たな一歩を踏み出した。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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