「政治から目を逸らさせるためのスケープゴート」永住資格取り消し制度、若い世代からも抗議の声

「育成就労」創設を柱とする入管難民法などの改正案を可決した衆院法務委員会=5月17日午前、国会内

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税や社会保険料を故意に納付しないなどの場合に、外国人の永住資格を取り消すことができる規定を盛り込んだ入管難民法の改正案が5月17日、衆院法務委員会で賛成多数で可決された。

現在の制度でも、虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処され強制退去となったりした場合などは、永住資格を失う。改正法案には、永住許可を得ている外国人が故意に公租公課の支払いをしなかったり、拘禁刑に処されたりした場合、永住資格を取り消すとの内容が盛り込まれた。在留カードの常時携帯など入管法上の義務を遵守しない場合も、取り消しの対象となる。

こうした永住資格の取り消し事由の拡大をめぐっては、日本社会で生活基盤を築いてきた外国籍住民を不安に陥れるなどとして、外国人支援の団体が反対する署名キャンペーンを開始。4万筆超の署名を17日、法務省に提出した

こうした中、若い世代からも法案に抗議する声が上がっている。

「直球の差別が社会の前例に」

入管の人権問題や難民支援に取り組む若者の団体などでつくる「永住許可取消し反対連絡会」は13日、取り消し事由の拡大を盛り込んだ法案の取り下げを求める声明文を発表した

声明では、永住許可の取り消し規定が「永住者を狙った直球の差別・レイシズム」だと批判し、「この差別を私たちの社会の前例としてしまう状況が作られる」と警鐘を鳴らしている。

入管はこれまで、一部の自治体から「永住許可の申請時にまとめて滞納分を支払い、その後再び滞納する永住者がいる」などと情報提供があったと説明。その上で、「永住許可制度の適正化」を名目に、資格取り消しの対象を広げる方針を示してきた。

だが入管は4月の衆院法務委で、「自治体からの通報件数の統計は持っていない」「永住者による公租公課の滞納額を把握していない」と答弁した

また入管は5月、「永住者の実子として出生した者による永住許可申請の審査記録において、永住者である扶養者による公的義務の不履行の有無」を確認した結果を公表した。2023年1〜6月までに処分が決定した1825件のうち、永住許可が下りなかった556件を精査したところ、235件で「公租公課の未納が確認された」と報告した。入管は235件のうち、許可取り消しの対象となるケースが何件あるかを把握していないという。

入管が示したデータは、約89万人いる永住者の中でも一部の限られた人を対象としており、永住者全体の滞納状況を反映する調査結果ではない。

こうした入管側の説明を踏まえ、連絡会は声明で「立法事実がないにも関わらず、議員や入管の思惑のみで、永住者の命や人権に関わる法案を議論しようとすること自体、非民主主義的なやり方です」と批判した。

「優生思想に根ざす軸で人間の『型』を決められる怖さ」

連絡会は、20〜30代が活動の中心を担っている。

「永住者を含め、外国にルーツのある人たちはすでにこの社会で共に生きています。生活者の目線を共にする一人の人間として、声を上げなければ」

呼びかけ人の一人で、20代の会社員・深澄美琴さん(仮名)は、永住資格取り消し事由の拡大に反対する思いをそう明かす。

深澄さんの両親はそれぞれ、南米・日系人と、アジアにルーツがある。父母は深澄さんが生まれた後に帰化し、現在は家族全員が日本国籍を持つ。

深澄さんが大学生のとき、生後すぐの一時期で「無国籍」状態だったことを母から告げられた。これを契機に、深澄さんは無国籍・無戸籍、移民・難民問題、そしてニューカマーの人たちの人権や社会保障などを研究するようになったという。

永住資格取り消しの本質は「人権問題」だと、深澄さんは強調する。

「連絡会の中心メンバーの多くは、永住者の人々と直接つながりのある日本の若者たち。多様なルーツの人が身近にいる日常が当たり前の世代です。永住者たちに国政などの参政権が認められていない中、当事者の生命や人権に関わる問題に声を上げる責任が、参政権を持つ私たちにはあると考えています」

声明では、自民党派閥の裏金問題にも言及した。深澄さんは「市民が抱いている不信感や不公平感の矛先を、外国籍住民に向けようとしているのでは」と疑問を呈し、「裏金問題が何も解決していない状態で、政治から目を逸らさせるために永住者たちをスケープゴートにしています」と批判した。

税などを滞納した場合も、永住許可の取り消し対象となる。これに対し、深澄さんは「『社会の役に立つか』『労働力として使えて経済成長にとって必要か』といった優生思想やレイシズムに根差した軸で、人間として扱われる『型』が国によって決められてしまうのは、とても怖い眼差しではないでしょうか」と問いかけた。

東京弁護士会「合理的な理由を説明できていない」

永住許可の取り消しをめぐっては、日本弁護士連合会が3月に会長声明を発表

「日本を終の棲家とし、あるいはしようとする外国籍者に甚大な影響を与えるものであって、その立法事実の有無などが慎重に検討されるべき」だと述べ、取り消し制度の撤回を求めている。

東京弁護士会も5月16日、3月に続いて新たな声明を公表した。「長い間、社会に溶け込みその一員として生活し、厳しい永住資格の要件をクリアするなど、国籍以外は日本人と変わらない永住者に対し、かような制裁を加重する合理的な理由を説明できていない」と指摘する。

法案は永住資格の取り消しに当たって、「在留することが適当でないと認める場合」を除き、法相の職権により他の在留資格へ変更することができるとの規定も盛り込んでいる。

この点について、東京弁護士会は声明で「結局は入管当局の広範な裁量次第」だと批判。「問題の核心は、本法案が外国人に対する前時代的な管理支配体制への回帰を指向するものである点にある」として、永住資格取り消し制度の創設に反対する姿勢を改めて示した。

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