スロヴァキア首相銃撃事件、単独犯ではない可能性 内相が明らかに

中欧スロヴァキアのロベルト・フィツォ首相(59)が銃撃された事件で、マトゥス・スタジ・エストク内相は19日、殺人未遂容疑で訴追された男性容疑者について、単独犯ではない可能性があると明らかにした。

銃撃事件は15日に起きた。フィツォ氏は長時間の手術を経て、生命の危機からは脱しているが、今後も集中治療が必要だという。

事件はこれまで単独犯による犯行とみられてきたが、エストク氏はこの日の記者会見で、容疑者が「扇動や支援し合っていた人々とグループとして動いていた」可能性についても捜査すると発表。そのためのチームを設置したとした。

エストク氏はまた、この対応は情報当局の情報に基づくものだと説明。それらの情報の中には、事件発生の2時間後に、容疑者はすでに拘束されていたにもかからず、容疑者のフェイスブックや通信履歴が削除されていたというものもあるとした。

エストク氏は事件発生の翌日の記者会見で、容疑者は単独で行動し、かつて反政府デモに参加したこともあったと発表していた。

訴追された男性に対しては18日、裁判まで拘束する措置が取られた。当局は氏名を明らかにしていないが、現地メディアは、レヴィツの町に住むジュライ・チントゥラ容疑者(71)だとして、さまざまなイデオロギーの政治団体と関わってきた詩人だと伝えている。

一方、ロベルト・カリナク副首相はこの日、フィツォ氏の容体について、まだ集中治療が必要だが「恐れていた最悪の事態は、少なくとも現時点では去った」と、同氏が入院しているバンスカー・ビストリツァ市の病院の外で記者団に話した。

カリナク氏はまた、「容体は安定しており、予後は明るいと考えられる」、「みんな少し安心している」と説明。ただ、近い将来の移送は不可能だとし、フィツォ氏は当分、同市にとどまることになると付け加えた。

敵対的な政治情勢

フィツォ氏は15日、首都ブラチスラヴァから北東に約180キロ離れたハンドロヴァで、会議後に支持者らと交流していた時に至近距離から撃たれた。

エストク氏は、銃弾の1発が「あと数センチ上に撃ち込まれていれば、首相の肝臓に当たっていただろう」と述べた。

事件はスロヴァキアに大きな衝撃を与えた。近く退任するズザナ・チャプトヴァ大統領は16日、冷静になるよう国民に求め、すべての政党党首を招いた会議で緊迫する政治情勢について話し合うことを提案した。

フィツォ氏は、昨年10月の総選挙を経て、ポピュリスト(大衆主義)政党とナショナリスト政党の連合を率いて首相に復帰した。

以来、国内の政治情勢は敵対的な色合いが濃くなっている。ただ、政治的な分断は少なくとも2018年から続いている。この年、政府上層部の汚職疑惑を調べていたジャーナリストが殺害される事件が起きた。

当時、大規模な抗議デモが起こり、フィツォ氏は退陣を余儀なくされた。

同氏は、ウクライナへの軍事支援の打ち切りや、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に対しての拒否権行使など、ヨーロッパよりロシアを想起させる公約を掲げて、首相に返り咲いた。

(英語記事 Slovakia PM attacker 'may not have been lone wolf'

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