そりゃ中村俊輔ならできるでしょ、と思わずツッコミ。「って言われたりもするけど、でも...」後進に伝えたいプロとして生きる術

中村俊輔は、手強い。

ある質問をする。最初はそれに答えてくれるが、徐々に話がそれていくことがわりと多い。言い方を変えれば、脱線する。それはそれで面白い内容なので、興味深く聞いていると、いつのまにか最初の質問の答えに帰結したりする。え、つながっていたの? と驚かされる。決して脱線はしていない。

思考が深すぎるのだ。俯瞰する世界の奥行が果てしない。質疑応答で到着点は見えているが、そこに至るまでのルートがいくつもある。A、B、C、D、E...。Aを進みながら、新しい道が見つかれば、そこを進んだりする。話しながら、あれもあるよ、これもあるよ、となる。そんなイメージだ。

もっとも、現役時代を振り返れば、さもありなん、だ。ピッチに立てば、状況に応じて戦略を組み立て直すのは当たり前。自分たちの強みをどう活かすかに集中し、実践する。あの手、この手で。相手の出方を確かめるために“エサ”をまくプレーも。即効性はなく、遠回りのように見えても、次のための布石を打つ。勝利という到達点を見据えて、常に最適解を探りながら振る舞う。

今は指導者となり、後進たちにも自身の経験を伝えようとする。

「たとえばボクシングで言えば、相手が明らかに格上だとして、自分は最初にジャブで様子を見る。すごい一発が来るけど、なんとか耐える。そうやってやりながら、相手が嫌がるところを探す。サッカーで言えば、なんかハイボールを嫌がっているな、とか。それで選手同士で、ちょっとあそこを狙ってみるかって。勝ちから逆算して、ゲーム中にそれをやる。急にカウンターを入れてみたり。カウンターを出せば、相手は中を閉じる。そうしたら外が空くから、外から攻めよう、とか。そういうのを瞬時に感じて、できるようになってほしいよね」

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さらっと話すが、簡単ではないのではないか。そりゃ中村俊輔ならできるだろうけど、と思わず口に出してしまった。そんなリアクションも俊輔は想定済み。間髪入れずに「って言われたりもするけど、でも...」と、指導者としての想いを明かす。

「練習からコツコツと、ね。サッカーってこういうもんだよっていう、勝ちにもっていくための、大まかなものを知っていて、それができれば、たとえば移籍しても、どの監督さんのもとでも、違うサッカーにも合わせられるような気がする」

厳しいプロの世界をどう生き延びていくか――欧州を含め、6クラブを渡り歩き、活躍するために常にもがいてきた俊輔は、その術を知っている。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

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