アサンジ被告の米引き渡し、追加裁判認める=英裁判所

イギリスの高等法院は20日、内部告発サイト「ウィキリークス」創設者ジュリアン・アサンジ被告(52)のアメリカへの身柄引き渡しをめぐり、被告側が求めていた追加の裁判を認める決定を出した。これにより、被告は当面の間、イギリスにとどまることになる。

アサンジ被告については、2010~2011年に数千件の機密文書を公開し、情報機関の工作員の名前を明かすなどして人命を危険にさらしたとして、米当局が起訴している。

アメリカはイギリスに身柄の引き渡しを求めており、英高等法院が2021年12月、これを認める判決を出した。2022年6月には当時のプリティ・パテル英内相が、アサンジ被告を18件の罪状について裁判にかけるためアメリカに引き渡すことが可能だと決定した。

被告弁護団はこれを不当とし、不服を申し立てた。英高等法院は今年3月、米政府が事前に、被告に言論の自由があることと、死刑に処さないことを保証する必要があるとの決定を出し、身柄引き渡しに関する最終判断を延期していた。

今回の決定により、アサンジ被告はアメリカでの裁判がどのように行われるのかや、言論の自由が侵害される可能性があるのかをめぐって、アメリカ側の保証に異議を唱えることができるようになる。

同被告側の弁護士たちは裁判所の決定を受け、法廷で抱き合った。

弁護団は、アサンジ被告が約15年前にアメリカの戦争犯罪疑惑に関する機密文書を公開したことに関連する裁判は、政治的動機にもとづくものだと訴えている。

アメリカ側は、アフガニスタン戦争やイラク戦争などに関する情報を公表したウィキリークスが人命を危険にさらしたと主張している。

2人の上級判事は20日、アメリカへの身柄引き渡しを認めた先の裁判所判断に対する不服申し立てを認めた。上級判事は、アサンジ被告にはイギリスで全面的な上訴を行う権利があると判断した。

アサンジ被告は、性的暴行の容疑をめぐってスウェーデン当局に身柄が引き渡されるのを避けるため、2012年に在英エクアドル大使館に逃げ込んだ。スウェーデン当局はその後、捜査を打ち切った。

2019年4月にロンドン警視庁に逮捕され、ロンドンの裁判所で禁錮50週間の有罪判決を受けた。以来、ロンドンのベルマーシュ刑務所で服役中で、2019年5月には米司法省に機密漏えいなどの罪17件で起訴された。

アサンジ被告は10年以上にわたり、イギリスからの身柄引き渡しに抵抗している。

同被告は今後数カ月かけて、上訴にむけた準備を進めることになる。

ベルマーシュ刑務所の外には数百人が集まった。アサンジ被告の不服申し立てが認められたことがわかると、支持者たちは歓声を上げた。

アメリカ側に有利な判断が示されていれば、被告がイギリスで利用可能な法的手段は残っていなかった。

アサンジ被告の妻ステラ・アサンジ氏は20日、判事がどのような判断を出そうとも、「ジュリアンが自由の身になるまで闘い続ける」とBBCに語った。

「転換点」

妻は王立裁判所の外で今回の決定を歓迎し、これは「転換点」だと述べた。

そして、「14年間も続いてきたジャーナリストや報道機関、一般市民に対するこの恥ずべき攻撃を放棄」するようアメリカに求めた。

米司法省はウィキリークスをめぐる情報流出を「米国史上最大級の機密情報漏洩(ろうえい)」だと評した。

流出したファイルには未報告の事案が含まれ、アフガニスタン戦争で複数の民間人が米軍に殺害されたことを示唆するものなどがあった。

米当局は、アサンジ被告が文書に記載されている諜報員の名前を未編集のまま公開し、人命を危険にさらしたとしている。また、被告の起訴は、被告が戦争犯罪の暴露だと主張するこれらの情報に関連するものではないと主張している。

被告の弁護団は、起訴は政治的動機による「国家の報復」だと主張している。

「彼(アサンジ被告)は文字通り、戦争犯罪を暴露した」のだと、妻は20日、BBCラジオ4の番組「トゥデイ」で語った。

「この裁判は、開示性と説明責任に対する、国家による報復だ」

高等法院は今年3月、身柄引き渡しに関する最終判断を3週間延期すると決定。米政府に対し、今回の保証の要求に応じる時間を与えるとした。

保証の要求内容は、アサンジ氏が言論の自由を保証する合衆国憲法修正第1条をよりどころにできること、そしてオーストラリア国籍であることが不利にならないことの2項目だった。

判事は先月、アメリカからこれらの保証を得られたことを認めていた。

アサンジ被告と弁護団は、被告がほかの犯罪で起訴されたとしても死刑にはならないという保証を受け入れた。

米政府を代表するジェイムズ・ルイス勅選弁護士は先に裁判所に提出した書簡で、アサンジ被告の身柄がアメリカに引き渡された場合、被告に合衆国憲法修正第1条で保証されていることを含む「適正手続きによる裁判権のすべてを得る権利がある」ことに「疑問の余地はない」と述べていた。

これとは別に、ジョー・バイデン米大統領は先月、オーストラリアからアサンジ被告の起訴を取り下げて帰国させるよう要請があり、これについて検討していると明らかにしていた。

(英語記事 Assange wins right to challenge US extradition

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社