[社説]台湾新総統が就任 現実対応で海峡安定を

 1月の台湾総統選で当選した民主進歩党(民進党)の頼清徳主席が新たな総統に就任し、新政権がスタートした。

 頼氏は2期8年にわたり総統を務めてきた同党の蔡英文氏の後継だ。1996年に総統の直接選挙が始まって以降、同一政党が3期続けて政権を担うのは初めてとなる。

 対中関係を巡り蔡氏は統一でも独立でもない「現状維持」を掲げてきた。今回、総統選で戦った3候補者がいずれも現状維持の立場を取っていたことからも分かるように、台湾海峡の平和と安定は台湾の民意である。

 頼氏も就任演説で「傲慢(ごうまん)でもなく卑屈でもない態度で現状を維持する」として蔡政権の路線踏襲を表明。中国に対し、軍事威嚇を含む台湾への圧力を停止し「台湾海峡と地域の平和と安定維持に力を尽くそう」と呼びかけた。

 一方、中国は頼氏を「独立派」と見なして警戒する。習近平国家主席は、頼氏の就任を前に、台湾の最大野党である国民党で元総統の馬英九氏と約8年半ぶりに会談。「海峡両岸(中台)は不可分」だと強調し、台湾独立に反対する馬氏を「高く評価する」と述べ、頼氏をけん制した。

 しかし、その国民党でさえ中国が求める「一国二制度」による統一を拒否している。こうした懸念の背景には、中国側の香港に対する強権的支配もあるということを忘れてはならない。

 中国は、統一圧力を強めるほど台湾の人々が離れていくという現実に向き合うべきだ。

■    ■

 就任演説で頼氏は「民主主義国家と肩を並べて平和共同体を形成し、抑止力を発揮して戦争が起きるのを避ける」とし、米国との関係強化にも言及した。

 だが、中国と覇権を争う米国との関係は、中台関係にとっての不安定要素にもなり得る。11月の米大統領選で共和党のトランプ前大統領が当選すれば、中台の対立があおられる可能性もある。

 バイデン政権下でもペロシ米下院議長(当時)の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まったことは記憶に新しい。

 頼政権には、米政権に振り回されない冷静な対応が求められる。

 2016年に蔡政権が誕生して以降、中台の対話は実現していない。

 民進党が「一つの中国」原則を認めていないことを理由に中国側が拒否している形だが、東アジアの安定化には中台の対話が必要だ。双方には対話の再開へ努力も求められる。

■    ■

 頼氏は親日家で知られ、台南市長時代から自治体交流などを活発に行ってきた。日台に正式な外交関係はないが、民間の絆はかつてなく強まっている。

 対中政策について頼氏は「まず双方の対等な観光旅行と、学生の台湾での就学から始め、ともに平和と繁栄を追求したい」とも述べた。

 台湾海峡の安定化は沖縄の基地負担の軽減にもつながる。緊張緩和へ日本側も役割を果たすべきだ。

© 株式会社沖縄タイムス社