【山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ】電子書籍に向いた「こういうのでいいんだよ」的なモデル――「13インチiPad Air」

by 山口 真弘

「13インチiPad Air」。実売価格は12万8,800円から

Appleから「13インチiPad Air」が新たに登場した。従来、電子書籍を大画面で楽しもうとした場合、この前後のサイズでは12.9インチiPad Proが選択肢として存在したが、プロユースゆえ価格も高く、電子書籍を読むためだけに入手するにはややハードルが高かった。

今回の13インチiPad Airは、プロユースのiPad Proと、エントリーモデルのiPadの中間にあたるスペックを備えつつ、13型という、iPadとしては最大級の画面サイズを実現している。しかもiPad Proと比べるとリーズナブルと来ている。

いかんせん円安の影響もあり、ベースとなる価格が高すぎるのは困りものだが、同時発売の13インチiPad Proが最小構成で20万円を超えているのと比べ、12万円台から入手可能である本製品は、ハードルが低い選択肢であることに変わりはない。

今回は、筆者が購入した13インチiPad Air(128GB)を、2021年発売の第5世代12.9インチiPad Pro、および同時発売になった13インチiPad Proと比較しつつチェックしていく。

従来の12.9インチiPad Proを「Air化」したモデル

まずはスペックについて見ていこう。ちなみに先日まで現行機種だった12.9インチiPad Proは2022年に発売された第6世代(M2)だが、ここでは機材その他の関係で、2021年発売の第5世代(M1)と比較しているので、必要に応じて読み替えていただきたい。ちなみに第6世代と第5世代は外観上の差はない。

本製品のスペックをざっと見れば分かるように、13型という大画面こそ目立つが、それほどエッジの効いた特徴はない。同時に発売された13インチiPad Proは、史上最薄となる5.1mmのフラットさが大きな特徴だが、本製品は6.1mmということで、従来のiPad Proよりは薄いものの、そこまで強烈なインパクトはない。

またCPUはM2ということで、M4を採用する13インチiPad Proとはしっかり差別化されている。カメラについても同様で、LiDARスキャナなども搭載しないシングルレンズ仕様となっている。従来の12.9インチiPad Proのスペックをほぼ維持しつつ「Air化」したモデルと考えるのが正しい。

従来モデルと異なる点として、前面カメラの位置が短辺側から長辺側へと移動していることが挙げられる。画面を横向きにした場合に中央に来る配置で、同時発売の13インチiPad Proもこの変更を踏襲している。

ちなみに本稿では取り扱わないが、Apple Pencilは、同時発売のApple Pencil ProとUSB Type-Cモデルには対応するものの、従来の第2世代には対応しない。既存のiPad Airから買い替えるとなると、多くの場合はApple Pencilも買い替えが必要になるので要注意だ。

横向きに表示した状態。前面カメラが中央上部、この画像でいうと日本地図の直上に移動している
ベゼルの厚みは上下左右とも均等なので、縦置きでの利用に特に違和感はない
背面。こちらは下部のSmart Connectorなど、縦置きを前提としたデザイン
iPad Proと異なり生体認証はTouch IDを採用。電源ボタンと一体化している
このTouch ID周辺を裏から見ると、カメラ、音量ボタンなどが密集している
本体上部。中央にあるのはApple Pencilを吸着できる磁力面。なおこの反対側にあたる底面はボタンやポート類は何もない
左側面。Touch IDが一体化した電源ボタン(トップボタン)、スピーカーを備える
右側面。スピーカー、USB Type-Cポートを備える
Apple Pencil Proを吸着して充電できる。既存の第2世代Apple Pencilは非対応

大型版の「Air」。よくも悪くもインパクトはない

実機を手に取った印象だが、画面が大型化したiPad Airということで、よくも悪くもインパクトはない。従来の10型クラスのiPad Airを所有している人であれば、画面サイズが大きくなっただけという理解で問題ない。

ちなみに本製品は13インチを名乗っているが、画面サイズは従来の12.9インチiPad Proとまったく同じ。製品名における小数点以下の値が切り上げられているだけだ。またベゼルの厚みも同一で、ここだけ見ていると区別はつかない。

一方で本製品と同時発売の13インチiPad Proは、同じ「13インチ」でありながら本製品よりも画面がわずかに大きく、ベゼルはわずかに狭いなど、非常に紛らわしい。個人的には本製品については12.9インチという呼び方を踏襲していてもよかったのではと思う。

iPad Airの特徴の1つである、電源ボタンと一体化したTouch IDは変わらず搭載されている。ロックが解除されるまでにワンテンポ間があるFace IDよりも、本体を持ち上げて顔の前に持ってくるまでにロック解除が完了するTouch IDのほうが、小回りが効いて使いやすいと感じる人も多いだろう。

第5世代12.9インチiPad Pro(右)との比較。幅×高さは同一、画面サイズも同じだ
背面。カメラ部の仕様が大きく異なる
ベゼル幅についてもまったく同一だ
本体上面。上が本製品、下が第5世代12.9インチiPad Pro(以下同じ)。ボタン類の配置はまったく同じだ
左側面。電源ボタンの仕様が異なる。またiPad Proは中央にマイク穴がある
右側面。スピーカー穴の数がわずかに違う以外は同一だ

重量は公称617g、実測では622g。従来の12.9インチiPad Proと比べると60gほど軽くなっている。スマホにおける60gと異なり、タブレットにおける60gはそれほど大きな差ではないが、それでも空中で長時間保持しがちな電子書籍ユースにおいては、軽量化の恩恵は大きい。

一方で、本製品と同時発売の13インチiPad Proは、重量が公称579gとさらに軽く、いったんこちらを手に持ってしまうと、本製品がやたらと重く感じられるようになる。予算の関係で本製品を選ばざるを得ない人は、13インチiPad Proはなるべく手に取らないようにしたほうが賢明だ。詳細は次回のレビューで紹介する。

なお電子書籍ユースには直接関係しないが、iPad Proとの相違点として、iPad Proはスピーカー4基/マイク4基のところ、本製品はスピーカー2基/マイク2基であることが挙げられる。実際に聴き比べた限り、音のクオリティの差はかなりあるので、動画や音楽の再生などの用途では、考慮したほうがよいだろう。

重量は実測622g
第5世代12.9インチiPad Proは682gなので約60g軽くなった計算になる
こちらは従来の10.9インチiPad Air(右)との比較。サイズ差はかなりある
厚みはほぼ同一。筐体のラインも共通だ

ベンチマークについては、第5世代12.9インチiPad Proとの比較で、十数%増しとなっている。SoCが本製品はM2、第5世代12.9インチiPad ProはM1なのが主な要因だろう。世代が2つ古いとはいえ、iPad Proを上回っているのは好印象だ。なお最新の13インチiPad Proとの比較は、次回のレビューで紹介する。

「Octane 2.0」でのベンチマーク結果。左が本製品で「78088」、右が第5世代12.9インチiPad Proで「70703」と、約10%増となっている
「Wild Life Extreme」でのベンチマーク結果。左が本製品で「6162」、右が第5世代iPad Proで「5124」と、約17%増となっている

余白も少なく画面サイズを生かせる電子書籍向きの仕様

電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。

画面サイズは13型ということで、iPadとしては最大級のサイズ。最近はこれを超えるサイズのAndroidタブレットも複数市販されているが、それらは画面がワイドサイズゆえ余白が大きく、思ったほど大きく表示できないこともしばしば。本製品はアスペクト比が紙の本に近い4:3ゆえ余白が少なく、表示領域を有効活用できている。

表示のクオリティについては第5世代12.9インチiPad Proとまったく同じで、見比べても違いは感じない。ちなみに同時発売の13インチiPad Proと比べると画面がやや暗いが、これはタンデムOLEDを採用した13インチiPad Proが明るすぎるという解釈のほうが妥当だろう。

このほかiPad Proとの相違点として、リフレッシュレート120HzのProMotionテクノロジーに対応しない点が挙げられるが、これについても電子書籍ユースでは違いを感じることは少ない。

また13インチiPad Proとの相違点としては、先に述べた重量差があるが、これは13インチiPad Pro(公称579g)が軽すぎるからであって、これを本製品のマイナス点として挙げるのはやや筋違いだろう。総じて、電子書籍ユースには十分なスペックという評価になる。

雑誌を原寸大で見られるのはこの13インチクラスの製品ならでは。ワイドサイズのタブレットと違って上下の余白も少なく、表示領域を有効活用できている
10.9インチiPad Air(右)はサイズ差があるだけでなく、アスペクト比がワイドサイズ寄りなので、本製品よりも上下の余白が大きくなる
こちらは第5世代12.9インチiPad Pro(右)との比較。サイズや余白など見る限り違いはない
本体を横向きにして雑誌を見開き表示にしても十分読める
見開きにした状態でも細かい注釈を読むのに支障はない
ちなみに見開きにした本製品のページサイズは、iPad mini(右)の単ページ表示でのページサイズとほぼ等しい
コミックは単ページ表示だと単行本よりもサイズが大きくなってしまう
コミックはやはり見開き表示で利用するのが適切だろう

ちなみに大画面のiPadということで、使い方として考えられるのが、画面を分割して表示する「Split View」だ。電子書籍を読みながら、SNSなどをチェックしたり、メモを取ったりと、多彩な使い方が可能だ。新しい機能ではないが、本製品で初めて大画面のiPadに触れる人は、ぜひ試してみたいところだ。

なおしばらく電子書籍ユースで使っていて気になったのは、トップボタンが意外と軽く感じること。同じトップボタン搭載のiPad AirやiPad miniと比べて硬さは同等なのだが、本製品は重量があるぶん持ち上げた状態では手が力んでしまい、ボタンに触れた時の力加減が難しくなるせいではないかと考えられる。

そのためか、トップボタンをうっかり押し込むところまでは行かなくても、指が表面に触れてしまい、想定外の動作をすることは稀にある。必要に応じて設定を変更しておくことで、快適に使えるようになる。

画面の大きさを生かした分割表示にも適する。「マルチタスクとジェスチャー」で設定できる
これはSplit Viewで電子書籍の隣にメモ帳を表示したところ。このように画面を分割して活用できる
分割位置は自由に調整可能。それに合わせて電子書籍の見開きも調整可能だ
読書中になにかとトップボタンに触れてしまい反応しがちなのが玉に瑕
設定画面の「Siriと検索」にある「トップボタンを押してSiriを使用」をオフにしておけばうっかりSiriを起動させてしまうこともなくなる
これらTouch ID関連の設定画面は、Face IDを採用するiPad Proにはない項目だ

「こういうのでいいんだよ」という仕上がり

以上のように、本製品は従来の12.9インチiPad Proをベースに、フォームファクタをiPad Airに仕立て直したモデルであり、それゆえ電子書籍ユースにおいて不足は何ら感じない。エッジの効いた機能こそないが、大画面表示に適したiPadが欲しかったユーザーからすると「こういうのでいいんだよ」という印象だ。

またiPad Airのフォームファクタに則っているがゆえに、Touch IDが使えるのも利点といえる。前面カメラの配置が変わったとはいえ、Face IDは人によって評価が分かれるだけに、Touch IDのほうが使いやすいと感じる人にとっては、iPad Proではなく本製品を選ぶ動機の1つになるはずだ。

Touch IDを搭載したトップボタンを搭載する3モデル。上から、iPad mini、10.9インチiPad Air、本製品。いずれも同じボタンサイズだ。逆に言うと、今後の薄型化に当たっては、このボタンの幅は少なからずネックになると考えられる
サイズの比較。小さい順にiPad mini、10.9インチiPad Air、本製品

実売価格は最小構成の128GBモデルで12万8,800円。今回比較対象として紹介している第5世代12.9インチiPad Proが2021年に発売された時の価格とほぼ同じで、円安の影響を実感させられる。円安がなければ10万円を切っていた可能性もあり、そこは率直に惜しいと感じる。

とはいえ、「雑誌を原寸大で読めるタブレット」という条件において、現行の最良の選択肢であることに違いはない。今後しばらく、サイズ別のおすすめ電子書籍端末を挙げた時に、常連として名が挙がりつつけるであろう1台だ。

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