最新研究「痩せ」は危ない(2)「脂肪筋」は食事改善では減少しない

痩せ型の若年女性は食事量と運動量が少ないエネルギー低回転タイプ(C)日刊ゲンダイ

糖尿病専門医で順天堂大学大学院スポーツ医学・スポートロジーの田村好史教授は2021年、痩せた若年女性を対象とした研究で、「放置すると糖尿病になる確率が高い耐糖能異常の割合が高い」ことを突き止めた。さらに驚くべきは、これまで肥満者の特徴とみられていた「インスリン抵抗性(※1)」「脂肪組織の異常(※2)」が、痩せ形の若年女性でも見られたことだった。世界で初めての発見となる。

「痩せ形の若年女性のインスリン抵抗性や脂肪組織の異常がなぜ生じるかは、今後更なる研究が必要です。しかし言えるのは、これら痩せ形の若年女性は食事量が少なく運動量が少ないエネルギー低回転タイプであることから、エネルギーをしっかり回す生活習慣の改善が重要だと考えています」(田村教授=以下同)

生活習慣の改善は、食事と運動の両輪で行わなくてはならない。それを示す研究を、田村教授は冒頭の研究より前に行っている。2型糖尿病で2週間の教育入院となった患者14人を「食事療法だけ」と「食事療法と運動療法」の2群に分け、脂肪肝と脂肪筋の変化を見たのだ。

「脂肪細胞の容量オーバーであふれ出た脂肪が、肝臓にたどり着き肝細胞にたまったものを脂肪肝、骨格筋にたどり着き筋細胞にたまったものを脂肪筋(骨格筋細胞内脂質)といいます。糖尿病で教育入院すると1~2週間で血糖値が低下するなど糖代謝が改善しますが、教育入院の間に痩せられるのは数キロで、肥満が解消されるわけではありません。数キロの減量でなぜ糖代謝が大幅に改善するのかわかっていなかった。しかし2000年ごろから脂肪肝、脂肪筋の測定技術が開発され、ヒトでの研究が可能となった」

2型糖尿病14人の研究では、2週間での体重減少は2%程度だったが、脂肪肝は「食事療法だけ」「食事療法と運動療法」両群とも30%近くまで減少、それに伴い肝臓の糖取り込みが増加した。

しかし脂肪筋は「食事療法だけ」では有意に変化しなかった。一方、「食事療法と運動療法」では脂肪筋が19%減少し、インスリン感受性が57%増加した。

「つまり、脂肪肝は食事療法だけでも減少させられるが、脂肪筋は食事療法だけでは減少せず、運動が必要」

田村教授は別の研究で、アジア人は脂肪組織で脂肪をためる容量が欧米人より小さく、体脂肪率がそう高くなくても(=太っていなくても)、脂肪があふれ出て、その結果、脂肪筋や脂肪肝が増えやすい可能性を見いだしている。アジア人は大した肥満でなくても糖尿病やメタボになりやすいが、それは、脂肪筋・脂肪肝がたまりやすいことと関係していると言えるのだ。 (つづく)

※1 インスリンの感受性が低下し、効きにくくなること
※2 脂肪細胞が容量オーバーとなり脂肪があふれ出し、肝臓や骨格筋の細胞にたまって毒性を発し、インスリン抵抗性を引き起こすこと

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