余命2カ月の母は何をしたか 「湯を沸かすほどの熱い愛」

 自主製作「チチを撮りに」(2012年)でヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞した中野量太監督が「湯を沸かすほどの熱い愛」で商業映画デビューを飾った。銭湯を舞台にした家族の愛と別離、再生の物語。

 「幸(さち)の湯」は双葉(宮沢りえ)=写真=と一浩(オダギリジョー)夫婦が営んでいたが、一浩が1年前に出奔して休業中。双葉は、パート勤務で家計を支えている。娘の安澄(杉咲花)は、学校でいじめに遭っているようだ。

 明るく元気な双葉に、がんが宣告される。余命2カ月。彼女はその間になすべきことを自分に課す。「夫を連れ戻して銭湯を再開させる」「気の弱い安澄を独り立ちさせる」「安澄を『ある人』に会わせる」 余命わずかとなれば、涙、涙の展開を想像しがちだが、そうはならない。“なすべき3カ条”だけでなく、次々に新たな問題が出来(しゅったい)して、双葉はめそめそしている暇がない。

 中野監督は今回も母親・妻を通して家族を見つめるが、前作より一歩踏み込んで、血縁を超えた愛に目を向ける。それは、双葉の懐の深さがあってこそ。全てに決着をつけて、双葉は最期を迎える。

 若き日、一浩は双葉をエジプトに連れて行く約束をした。その伏線が終幕で花開く。宮沢は時に下町の肝っ玉母さん、時に菩薩(ぼさつ)のよう。悲壮感よりたくましさを感じさせ、作品に透明感を与えている。

 意表を突くラストにドキッとするが、安澄が教師やクラスメートの前で服を脱ぐシーンなど一部演出のやり過ぎが気になった。

 多彩な人物をつないだ脚本は中野監督のオリジナルだが、バックパッカーの拓海(松坂桃李)の扱いなど、ややご都合主義。あれもこれもと、話を詰め込みすぎたか。

 2時間5分。横浜ブルク13、川崎・チネチッタほかで上映中。

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