【世界から】40カ国以上にベルリンの壁

分断の証しから学ぶこと

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ベルリンのイーストサイドギャラリー。「壁」の絵は、定期的に修復されている
左はロンドンの帝国戦争博物館前に展示されている「壁」=(C)Bundesstiftung Aufarbeitung/Fanny Heidenreich 右は横浜のティフ・ラインランド・ジャパン社前の「壁」=(C)TUEV Rheinland
上は米カリフォルニア州のロナルド・レーガン大統領記念図書館の「壁」(C)Bundesstiftung Aufarbeitung/Kelly Cutchin 下はマドリードのベルリンパークの「壁」(C)Bundesstiftung Aufarbeitung/Fanny Heidenreich

 かつて東西ドイツを分断した「ベルリンの壁」崩壊から、四半世紀以上が過ぎた。ベルリンの壁(以下「壁」)は、過去を忘れない記念物としてイーストサイドギャラリーやポツダム広場、壁パークなど同市内の数カ所に展示されていて、どのスポットもカメラを手にした観光客で今も大にぎわいだ。「壁」は、現地で見学できれば一番いいが、実は世界各地でも見ることができる。ドイツの言語学者アナ・カミンスキーさんは、米国で「壁」を目にしたことがきっかけで、どこの国のどんな場所に「壁」が展示されているのか興味を持ち、その在りかを探し続けている。

 ▽展示最多は米国

 旧東ドイツ政府が築いた「壁」は長さ約155キロに及んだ。この国境壁は、巨大なコンクリート片をつなぎ合わせてあった。一片の大きさは、高さ3.6メートル、厚さ30センチ、幅1.2メートル。重量は2.7トン。1989年11月9日に「壁」は崩壊、粉砕されて道路整備に用いられたほか、希望者には販売もされた。

 世界で見られる「壁」の正確な所在地や数は明らかになっていないが、カミンスキーさんは「ベルギーやイギリス、ロシア、韓国、オーストラリアなど40カ国以上、140カ所にあり、現在も増え続けている」と説明する。

 「壁」の展示が一番多いのは50カ所以上にある米国とのこと。

 ロヨラ・メリーマウント大学(ロサンゼルス)やジョンズ・ホプキンズ大学(ワシントン)のキャンパス、ロナルド・レーガン大統領記念図書館(カリフォルニア州シミバレー)や国際連合本部(ニューヨーク)など、普段何げなく通り過ぎている街角で「壁」を目にすることができる。

 ▽英雄たたえる

 中には、ベルリン市が英雄をたたえて出身国に寄贈した「壁」もある。

 2009年、ベルリンで開催された陸上の世界選手権大会で100メートルと200メートルの世界記録を更新したウサイン・ボルト氏の母国ジャマイカに「壁」を贈った。ボルト氏の走る姿が描かれ、国防軍の軍事基地内の軍事博物図書館前に展示されている。

 また、南アフリカの故ネルソン・マンデラ元大統領がベルリンを訪れた際に自ら選んだ「壁」は、同国のケープタウン聖ジョージ大聖堂広場に置かれている。

 ▽日本は大阪、横浜に

 日本でも、大阪のドイツ総領事館と統国寺、横浜のドイツ企業ティフ・ラインランド・ジャパン社の計3ヶ所で「壁」が展示されている。

 大阪市天王寺区の統国寺は、在日韓国・朝鮮人が主な信者とされる。山門をくぐると、右手に「壁」が見えてくる。信者から奉納されたもので、今も分断されている朝鮮民族の国家統一への願いが込められているとか。寺号も文字通り、祖国の統一を願って名付けられたそうだ。

 横浜市港北区のティフ・ラインランド・ジャパン社前に展示されている「壁」には、ベルリン在住のフランス人アーティスト、ティエリー・ノアール氏の絵が描かれている。ノアール氏は、1990年、ベルリンのイーストサイドギャラリーに描いた絵がきっかけとなり、注目を浴びるようになったストリートアーティストの第一人者だ。

 ▽「壁」から学ぶ

 ドイツを二分した「ベルリンの壁」は、家族や友人さえも瞬く間に引き裂き、西側へ逃亡を試みた市民が射殺され、多くの犠牲者を出した悲劇の象徴でもあった。

 壁と言えば、選挙戦でメキシコ国境に壁を築くと訴えた次期米国大統領トランプ氏の発言が話題となっている。「トランプ大統領」誕生は、ドイツでも驚きの声が上がった。「まさか!」が現実になった今、米国とメキシコを隔てる壁の建設も、想定外の展開になるかもしれない。

 「ベルリンの壁」は、過去の遺物となったが、米国、メキシコ間の壁の話は今もくすぶる。壁を越えて越境しようとする人が増え、悲劇を生み出す結果にならないことを祈りたい。(ドイツ在住ジャーナリスト、シュピッツナーゲル典子=共同通信特約)

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