トピックミスピーチは原発を目指した

【特集】ミスピーチは原発を目指した(1)

福島産の桃吐かれ

画像ミスピーチ姿の上石美咲さん画像第2原発の原子炉格納容器内を見学する上石さん(右)画像バス車内から見える1号機の原子炉建屋。昨年秋に覆っていたパネルが外され、鉄骨がむき出しになっている。

 福島大2年の上石(あげいし)美咲さん(20)は福島産の桃を全国にPRするミスピーチキャンペーンクルーの1人。昨年夏、関東地方のデパートで試食販売をしていた。中年の女性から「おいしいねえ。これはどこ産?」と聞かれ、うれしくなって「福島です」と笑顔で答えた。

 その瞬間、女性は口に入れた桃を吐き出し、立ち去った。

 体がすくみ、言葉が出なかった。なんてことをするんだろう。最初は怒りを感じた。少し時間がたつと、とても悲しく悔しい気持ちになった。福島という地名を言っただけで、こんなに激しく拒絶されるなんて。

 福島の桃は全て出荷前にきちんと検査を受けている。安心しておいしく食べられる果物であることは言うまでもない。

 ▽きちんと伝えたい

 郡山市に生まれた。大好きな福島の魅力を全国の人に知ってもらいたいとミスピーチになった。でも福島のことをちゃんと伝えられていない自分がいた。

 福島のいいところも悪いところも、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で苦しんだことも、そして復興に向けてさまざまな人が頑張っていることも、きちんと伝えられる人になりたいと強く思った。通常なら1年で終わるミスピーチを、志願してもう1年続けることを決めた。

 そんなとき、番組取材で知り合った元ラジオ福島のフリーアナウンサー大和田新さん(61)に「第1原発(1F=イチエフ)へ一緒に行きませんか」と誘われた。2011年3月11日以降、地震・津波・原発事故で受けた福島のさまざまな痛みを取材し続けてきた大和田さんは、次世代を担う若い人たちにこそ、被災地でいろいろなことを見聞きし、考え、未来に生かしてほしいと願う大人の一人だ。

 「ミスピーチとして、原発のことも質問されたら答えられるようになりたい」と感じていた。ちょうどタイミングがよかった。原発に見学で入れば、歯のレントゲン1回分ぐらい被ばくすることを知らされた。心配する両親を説得し16年7月、1Fを目指した。

 ▽想像とは真逆の現場

 「ものすごく劣悪な環境で、雰囲気が重くて、やくざっぽいところかなって思っていました」。入る前のイメージをそう振り返る。1Fの作業環境は2016年春から大幅に改善され、上石さんの想像とは真逆の世界になっている。随所で除染が進み、地面や斜面はモルタルやコンクリートで覆われて放射線を封じる措置が取られた。敷地の約9割では普通の作業服に防じんマスクで働けるまで線量が下がっている。もちろん溶け落ちた核燃料が手付かずのままある原子炉建屋周辺は相当に線量が高く、全面マスクに防護服が必要だ。

 10月には第2原発(2F)を見学した。震災当時、4基ある原子炉はぎりぎりの作業でメルトダウンには至らず、冷温停止状態を保っている。原子炉格納容器の中に実際に入って、燃料棒の下の部分や配管などの仕組みを見ることができる。メルトダウンして人が全く近づけない1Fの原子炉建屋内がどのようになっているのか、2Fを見ることでスケール感やリアリティーを感じることができる。

 ▽自分の目と耳で

 「1Fでは1日に6千~7千人もが『お疲れさまです』『ご安全に』と声を掛け合いながら、廃炉に向かって努力しているんだと初めて認識できました。作業員さんの多くが福島の人だということもです。今まで知らなかった自分を反省しました。東電という会社は事後報告や隠蔽ばっかりというイメージがあって、何か質問しても濁した答えしか返ってこないのだろうと思っていました。実際に会った社員の方々はそんなことはなくて、むしろ現状を正確に知ってもらいたいという思いが伝わってきました。自分の目で見て、耳でじかに聞くことの大切さを改めて感じました」

 上石さんは今、各県から集まっている福島大の友人たちを通じて、1Fのことも含めて自分で見聞きした福島の現状を全国に発信できないかと考えている。福島県内の観光地にもプライベートで積極的に足を運ぶようになった。ミスピーチの訪問先で、自分の言葉を使ってきちんと福島のことを説明できるのが一番だと思うようになったからだ。(共同通信=原子力報道室・高橋宏一郎)

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