【発言】「つぶやき」に揺れる中国 空母示威の対米心理、小原氏

最近の中国軍事情勢について語る小原凡司氏
航行する中国初の空母「遼寧」(共同)
南シナ海で行われた「遼寧」の艦載機を使った訓練(共同)
空母「遼寧」の航行ルート

 トランプ次期米大統領の20日就任を控えて、年末から米国をけん制する中国軍の動向が目立っている。12月に入ってトランプ氏は台湾の蔡英文総統と異例の電話会談。その後、歴代米政権が支持してきた「一つの中国」原則に縛られる必要があるのかと米メディアに疑問を示して、習近平指導部を刺激した。これに対して中国軍は12月15日、南シナ海で米海軍の無人の水中探査機を一時奪取、さらに空母「遼寧」を初めて西太平洋に進出させ、台湾をぐるりと一周して見せた。トランプ氏のツイッターにも神経をとがらす中国。その心理をどう読み解くか。元海上自衛官で中国の軍事情勢に詳しい小原凡司氏(東京財団研究員)に聞いた。

 ▽中国の警告

 ―この1カ月余りの中国軍の動向、その意図をどう見るか。

 「まだ、大統領に就任もしていないトランプ氏に中国は引っかき回されている。トランプ氏が『一つの中国』を認めるかどうか、大変強い危機感を抱いている。中国としては『台湾問題だけは、例え米国に勝てないとしても引くことはできない』という立場を示したい。米国はこの問題に絶対触ってはいけないとトランプ氏に知らせたかったのだと思います。中国の経済発展は米国に妨害され、その手段には軍事的作戦も含まれると、中国はそう信じている。トランプ氏の最近の発言で、まさにそれが現実のものになりそうだとして、警告、けん制した」

 ―1996年台湾総統選をめぐる「台湾海峡危機」では、ミサイルによる台湾への威嚇を米空母に封じ込められた経緯がある。

 「中国にとってそれが大きなトラウマになっている。米空母の接近で当時、手も足も出なかった。そういった状況打破のために軍備を増強してきた。空母を使って軍事プレゼンスを示して、中国に有利な地域情勢を作る。米国の妨害をはね返す力があると誇示してきたわけです。今の状況は96年と比べると危険だと言えます。核兵器の数では米国に全くかなわない。それでも核の抑止力を効かせたい。大陸間弾道弾を発射できる原子力潜水艦を海南島に配備して南シナ海から自由に太平洋に出たい。だから米国の音響調査を中国は妨害してきた」

 ▽能力は?

 ―中国初の空母「遼寧」は1980年代に旧ソ連で建造された。実際どれぐらいの能力があるのか。

 「遼寧はもともとあった艦の中を一部変えて修復、エンジン駆動系に問題があって、稼働率も高くない。台湾の東からバシー海峡に出て南シナ海に入った後、南沙諸島まで回りたかったが、そうしなかった。あまり長く航海させるだけの信頼性がない。駆逐艦3隻、フリゲート2隻を付けて、あたかも空母戦闘群であるかのような形を取らせ、米国にファイティングポーズを取って見せた。ただ一方で、遼寧を修復する中で、その構造を学んでいる。一から中国の技術で、大連などで新たな空母を建造している」

 ―なぜ、それほど軍事力の拡充を急ぐのか。

 「世界がどんどん内向きになっていると中国は敏感に感じ取っている。中東も米ロの軍事ゲームの場となり、中国の経済にも強い影響を及ぼす。そういった流れに自国がはじき出されないように、米国から経済発展を妨害されないように、空母で世界中に軍事プレゼンスを示そうという目標を持っている」

 ▽危険なポーズ

 ―習近平指導部は今後事態をどう合理的に判断して行動するか。

 「習近平は米軍の実力をよく知っている。今やったら勝てないと分かっている。彼は自らの軍事力を過信して暴走するタイプではありません。確かに軍事的合理性では今、米国を挑発すべきではない、しかし、けん制するために、少々のリスクはあってもその意図を示さないといけない。エスカレートする可能性があるが、それをどこで止めるかということも考えている。心配なのは、台湾問題は共産党の統治に関わる問題で、自身が止められないこと。台湾が独立を宣言した場合、中国は軍事力を行使しないといけなくなる。そのため、一つの中国を認めないことは、中国にとって受け入れられない。米国に口で言ってもダメだから、今後も軍事力を示してポーズを取っていく」(聞き手 共同通信=柴田友明)

   ×  ×  ×

 小原凡司(おはら・ぼんじ)1963年、兵庫県出身。85年防衛大卒。駐中国防衛駐在官、海幕情報班長などを経て退官。著書に「中国の軍事戦略」。

© 一般社団法人共同通信社