【工場ルポ】国内最大のフェロニッケル製錬所・大平洋金属八戸製造所 蓄積された技術に強み スラグ加工・廃棄物リサイクルなど、資源循環にも貢献

フェロニッケルの製錬工場

大平洋金属・八戸製造所(青森県)は、世界有数の規模を誇るフェロニッケル製造拠点だ。足元ではニッケル価格の低迷で厳しい事業環境にあるが、今期からスタートした中期経営計画(16~18年度)の下、最適な生産・販売体制の追求や環境変化への対応力の強化など将来の飛躍に向けた基盤固めを進めている。同工場を訪れたのでルポする。(相楽 孝一)

八戸製造所は、八戸港近くの臨海工業地帯の一角に立地する。1957年に砂鉄銑の工場として操業を開始したが、時代の変化に合わせてフェロニッケル生産を主力とする現在の事業形態に転換してきた。現在では大型電気炉3基を有し、単一工場としては世界第4位、国内では最大のフェロニッケル製錬工場にまで成長。主力のフェロニッケルのほか、副産物のスラグ加工品や廃棄物リサイクル事業も手掛けている。スラグ加工品は高炉用副原料や土木用資材、コンクリート細骨材、研削材など幅広い用途で採用されている。廃棄物リサイクル事業ではごみ焼却灰や産業廃棄物、ホタテ貝殻などを溶融処理して溶融メタル(金属原料)と溶融スラグ(人工砂利)を製造している。

ニッケル鉱石が運ばれる八戸港は岸壁の水深が14メートルあり、5万トン積の大型輸送船が着岸できる。ここにフィリピンやニューカレドニアからのニッケル鉱石や、石炭が到着する。港からは幅3・2メートルのコンベアで受け入れ、全長2・4キロのベルトコンベアで場外貯鉱場、場内貯鉱場へと運ぶ。ニッケル鉱石は産出鉱山によって粘土質や岩石状のものなど性状がバラバラなため、ベルトコンベアで安定的に運搬するためのさまざまな工夫もとられている。ここでは鉱石が100トン通過するごとにサンプルを採取し、分析作業も行う。場外貯鉱場では1船分の鉱石が1山に積まれ、5種類程度の鉱石をブレンドして場内貯鉱場に運ばれる。貯鉱場から運んだ時点の鉱石には水分が30%程度含まれ、粘土質だが、乾燥設備で水分を5%程度除去する。これによってサラサラな鉱石となり、次のか焼工程でも定量的に鉱石が供給でき、温度のムラがなくなるという。

同工場にはフェロニッケルの製造ラインが3ラインあるが、この日見学した第3ラインのか焼設備(ロータリーキルン)は全長131メートル、直径5・5メートルの巨大な筒状の設備。か焼工程では、回転するキルンの中を鉱石が約1時間半かけて滑りながら進み、水分除去とか焼を行う。キルンの出口付近では鉱石が約1千度まで熱せられ、電気炉での使用エネルギーの抑制につなげている。「800度以上になるとキルンの内側に溶融鉱石が付着し、内径が狭小化する現象が発生しやすくなるが、当社には1千度まで上げるノウハウがある。ここまで温度を上げている工場は世界的にもないのではないか」という。また、同社はこのキルンの中間地点で石炭を投入し、鉱石と混合しているが、ここで石炭を円滑かつ連続的に投入することができるのも長年蓄積してきた技術によるものだ。

ロータリーキルンを通過した原料は電気炉に送られる。直径20メートルの大型電気炉の炉内には電極が3本あり、その周辺に原料が均等投入できるように30本のパイプが効率的に配置してある。原料は炉内で溶解し、上から原料、スラグ、フェロニッケルと層状に分離する。フェロニッケルは1日3~4回、スラグは1日8回程度、それぞれの出銑口、出滓口から抜き取り、フェロニッケルは脱硫装置で不純物である硫黄を除去する。フェロニッケルは粒状のショットと20キログラムのインゴットの2種類の鋳造方法がある。また、ショットもノズルから水槽に直接流して鋳造する大きめのものと、ノズルから回転する円盤に溶湯を当て、小さい粒に仕上げる2種類の製品がある。

スラグは大きなプール状のピットに流し、大気で冷やし固める徐冷法と、高圧の空気を吹き付けて球状に固める風砕法の2種類の加工法を採用。徐冷スラグは細かく砕いた後、ふるい分けで選別し、さまざまな粒径のスラグを組み合わせて用途に応じた製品とする。風砕スラグは表面が硬く、熱膨張も収縮もしないという特徴から研削材やアルミの鋳物砂などで使われている。

八戸製造所は自家発電設備を2系列有していることも強みの一つ。最大出力能力は8万キロワットで、昼間の操業電力は同設備で一部賄える。最近は原油価格が下がっていることから自家発電のメリットも大きいという。また、複数のディーゼル発電(14基)で構成されていることから機動性が高く、炉の負荷変動に対して対応しやすいことも特徴。最初のプラントが立ち上げから約40年経ち、操業や整備に関するノウハウも蓄積されている。

また、環境や安全に配慮した操業にも継続的に取り組んでいる。八戸製造所では大型の電気集塵機を設置し、操業時に発生する排ガスは国や地方自治体の定める排出基準を大幅に下回る水準まで清浄化して放出している。安全面では東日本大震災で津波の浸水被害を受けた教訓から、港湾近くのベルトコンベアには緊急避難用のはしごを設置したほか、構内の各建屋の高所をつなぐ経路を設け、緊急災害時に作業員の孤立化を防ぐような工夫も行った。今後も安全・環境対策のほか、技能伝承とコストダウンなどに継続して取り組み、総合力世界トップクラスのフェロニッケルメーカーを目指す考えだ。

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