選手支えた食堂お別れ 藤沢、半世紀の歴史に幕

 アスリートが愛した名店が今月末、半世紀の歴史に幕を閉じる。県立体育センター(藤沢市善行)の敷地内にある「玉屋食堂」。2020年東京五輪に向けた同体育センターの再整備に伴い、大規模な改修工事を前に閉店する。店主の古郡治男さん(65)は「多くの人に親しんでもらい、幸せだった」と、選手たちと歩んできた50年を振り返る。

 陽光が差し込む店内を、みそ汁の香りが包み込む。平日の正午すぎ、カウンター越しに威勢のいい声が響く。「定食、ご用意できました!」 この日の日替わり定食は「ハムカツ定食」。厚切りのハムカツの脇にキャベツとスパゲティ。湯気が立つご飯に、切り干し大根、豚汁、漬物も付く。「高校生やスポーツ選手がお客さんだったから『おいしくて、おなかいっぱいになるものを』と、考えてね」と古郡さん。栄養バランスの取れた定食がメニューの中心だ。

 1965年、県立総合教育センターの食堂としてオープン。71年からは高校生の合宿所として活用されていた現在の建物「グリーンハウス」内で営業している。両親が始めた店だが、人手が足りずに子どもたちも手伝うように。両親が亡くなったいまは、兄弟3人で調理場に立つ。

 姉の岡田啓子さん(67)は「毎日目が回るほど忙しかったけれど、無名の高校生が世界で活躍するアスリートへと成長する姿を見ることができたのは喜びだった」とほほ笑む。

 ボクシング・大橋ジム会長の大橋秀行さんもその一人だ。横浜高校時代この合宿所で汗を流し、その後、世界タイトルを獲得した。大橋会長に育てられ、世界王者に輝いた井上尚弥選手も度々、訪れたという。

 閉店が決まったいま、店の入り口に「50年間★ありがとうございました」と書いたメッセージボードを掲げる。かつての「選手」たちも相次いで来店しており、岡田さんは「皆さんから『おつかれさまでした』『大好きな味だった』という言葉をいただき、本当に感謝しかありません」。

 満席のフロアに目を細めながら、古郡さんが言う。「店は、お客さんが集う場。そして、家族が集う場。最後の日まで『来て良かった』と思っていただける場でありたい」

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