日鉄鉱業の展望と課題〈佐藤公生社長インタビュー〉 石灰石の供給効率化 鉱量確保、安定操業体制を確立

日鉄鉱業・佐藤公生社長

――今期の展望は。

「石灰石の販売量は五輪関連需要がそろそろ本格化するといわれているため、期待はあるが、下期も上期からそれほど大きく増加するとは想定していない。通期では前年の水準まではやや届かないだろうとみている。銅事業は米国大統領選挙後の銅価上昇と円安進行という環境が継続すれば上期の減益分の一部を取り戻せるが、下期を通してその状況が続くかはまだ不透明だ。銅価も為替も次期大統領への期待が先行して上昇しているが、それが実際に実行されるかどうかがみえてくると、再び相場が大きく変動する可能性があるので現在はその動向を注視している」

――チリにおける銅鉱山の操業および開発の状況は。

「アタカマ鉱山は昨今の銅価低迷を受けて、足元では生産規模を8割程度に抑えて操業している。ただ、操業自体は順調で、昨年から今年にかけてコスト削減対策も打ち、着実に競争力はついている。一方、ソル・ナシエンテ鉱山は昨年4月から操業を開始する予定だったが、銅価が低迷したため、試験操業まで完了させて本格操業は延期している。昨年10月には鉱山運営の効率化とアタカマ鉱山の延命を目的としてアタカマ鉱山社にソル・ナシエンテ鉱山を売却し、運営を一体化している。アタカマ鉱山社のチリ側パートナーが保有する周辺鉱区の探鉱についても同鉱山に組み入れ、共同で進めていく計画だ。ソル・ナシエンテ鉱山の操業については銅価次第だが、2~3年程度で出鉱が開始できればと考えている。アルケロス鉱区についてはFSを実施している段階で、プレFSで出てきた課題なども含め開発実現性の精査を行っている。これは17年度中に開発の意思決定をしたいと考えている」

――他の探鉱案件の進ちょくは。

「銅では東南アジアやフィジーなどで継続的に取り組んでいるが、現状で大きな進展はない。一方、錫はミャンマー、モロッコに開発案件がある。足元では錫価格も上昇したが、それが定着するかどうかの見極めが非常に難しい。パートナーと話し合いながら進めていく計画だ」

――石灰石の展開については。

「安定供給と品質で顧客の信頼を得ることが第一であり、そのために尻屋、八戸、鳥形山、津久見の臨海4山と袖ケ浦の物流センターで効率的な石灰石の供給を続け、当社のプレゼンスをより高めていきたい。供給の効率化については顧客側のニーズもあるし、我々から提案できることもあるだろう。その一環として18年に石灰石の専用船2隻をリプレースすることも決めた。また、鉱量の確保なども含めて将来に向けた安定的な操業体制を構築するための諸施策も実行していく。その一つが鳥形山の第3立坑の新設で、現在は詳細設計を詰めている段階。八戸鉱山についても今稼働している切羽の次の切羽準備を進めているところだ」

――機械・環境事業の成長戦略については。

「水処理剤の販売は着実に数量を伸ばしてきているが、これまで納入実績のない都道府県の大口下水全個所への納入を目指し、ほかとは差別化した商品を品ぞろえするなどして拡販したい。海外についても韓国、中国、ベトナムの拠点を活用しながら成長市場のアジア地域で需要を掘り起こしていく。原料面では海外ソースも活用したかたちでの安定調達を図りたいと考えている。機械部門も集塵機の国内市場が縮小する中で製鉄所や製錬所などでの展開を強化し、成果も出ている。ただ、そこで使われているのが上工程などに限られているので、今後は他の工程でも使ってもらえるような活動や、中国の合弁会社を活用した中国市場の開拓を推進する。また、集塵機の原料についても国内だけでなく海外からの調達を行っていきたい」

――再生可能エネルギー事業の現状は。

「太陽光発電部門は昨年12月に釜石の中の沢堆積場に全国で7拠点目となる発電所が完成した。さらに8拠点目となる釜石第二発電所も来年度中に建設する予定だ。これで太陽光の発電規模は全国8カ所で13メガワット程度になる。また、釜石では第2水力発電所が昨年3月に稼働し、順調に稼働している。地熱部門では大霧発電所が昨年に運転開始から20年を迎えた。20年平均の設備稼働率が平均91%強と安定して稼働しているが、近年は貯留層の負荷を軽減するために8割操業を継続している」

――中期的な設備投資方針は。

「通常投資については減価償却の範囲内である45億円程度に収まるようにと考えているが、大型投資や開発投資が出てくる場合には減価償却プラス利益の範囲内というのが基本的なスタンス。そういう意味では鳥形山の第3立坑やチリの鉱山開発など、ある時期に投資額が突出する可能性があるため、それに耐えられるように近年は財務体質の強化も進めている」(相楽 孝一)

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