「まさか40(しじゅう)になって歌うなんて」 ゆずが語るハタチのころ

 横浜市磯子区出身の男性デュオ「ゆず」が1997年秋のデビューから結成20周年を迎える。中区伊勢佐木町の路上に立ち歌っていた岩沢厚治(40)の姿を見た北川悠仁(40)が「一緒にやりたい」と声をかけ、誕生したのが1996年春。「横浜松坂屋」(現・カトレヤプラザ伊勢佐木)の前で歌い出すと、「うるさい!」と酔っぱらいに怒鳴られたりもした。

 「ほとんどお客さんがいなかったけど、そこで歌っているのが楽しくて。すねて強がって歌っていた」と北川は始まりを振り返る。

 悔しさを曲にぶつけた「てっぺん」、生まれた岡村町の情景を歌にした「岡村ムラムラブギウギ」。大ヒットした「夏色」。10代のときに生み出した曲を、いまも大切に歌う。

 北川は「『夏色』を作ったときは、まさか40(しじゅう)になって歌うなんて思っていなかった。若いときの歌を歌うのって恥ずかしいことだなって思う」としみじみ。「当時のことを思い出すと、歳を取ったなぁって感じるし。でもみっともなさの中に、かっこよさがあると思っています」◆ 2人の出会いは小学生のとき。中学で同じクラスになり親しくなった。別々の高校に進み、別れた道。途絶えかけた縁は、音楽がつないだ。

 ゆずを結成した20年前は「人知れず、ゆずをしていた」と回想する。横浜アリーナ(港北区)で行われた成人式のため北川は英国の紳士服専門店で、誰とも同じにならないよう茶色のスーツを新調。赤いシャツにエンジのネクタイを締め見回した会場で、長髪で量販店の背広に身を包んだ岩沢を発見した。

 式典に集まってくる人の群れの中に顔なじみを探そうと、2人は式典そっちのけで入り口に目を光らせた。

 「小学校を卒業して以来会う人もいて。レアキャラ(珍しい友人)だったねとか、キャッキャしていたら気がついたら2人だけになって…」と岩沢。横浜市営地下鉄、京急電鉄と乗り継ぎ、上大岡駅の近くにあった居酒屋で酒を交わした。

 店では「(行ったばかりの)『横浜アリーナに立ちたい!』とか、『日本武道館をいっぱいにしてやるぜ!』とか、野心を語ることはなくて、音楽って楽しいねぇって音楽談議に花を咲かせていた」。

 北川は「20年。大きく変わったのは、聴いてくれる人がいて音楽を作ることができていること。路上時代は誰も聴いてないんだろうと、ある意味、無責任だった。でも、少しずつ足を止めてくれる人が増えて。止めてくれた人のために作ろうって思うようになった」と振り返った。◆ 誰も立ち止まらなかった日々もあった。耳を傾けてくれた人も雨が降れば去ってしまったり、路上ならではの難しさもあった。でも、少しずつその輪は広がり、1998年8月30日に迎えた最後の路上ライブには台風が直撃していたにもかかわらず、7500人以上が集まった。以降、「NHK紅白歌合戦」に出場するなど、その活動は多くの人の目に触れるようになった。

 「原点回帰ではなく、進化した弾き語りを見せたい」と2015年8月に横浜スタジアムで行ったライブで、「ゆずは走り続けていく」と宣言。昨年は初めてアジアツアーを行うなど、幅を広げた。昨年11月には、ゆずの根源へと掘り下げた東京ドーム公演を開催。岩沢がギターの弾き語りで「おっちゃんの唄」、北川がピアノの弾き語りで「ねぇ」を歌ったソロコーナーは、北川自ら構成を練った。

 「ねぇ」の歌唱後、「栄光の架橋」で岩沢と声を合わせた。北川は「同じ歌だけど、これまでに歌ったどの『栄光の架橋』とも違った」と大きな転機になった。

 迎えた20年。「10年、15年は点のように感じていたけれど、20年は丸が付いたように思います。ゆずはゆず以下でも以上でもなく、ゆずなんだ」という思いが胸に生まれた。

 1月に迎えた40歳の誕生日には、北川は1人で横浜マリンタワーでライブを開き、弾き語りで“大人の魅力”を見せつけもしたが、マリンタワーの着ぐるみを着込んで笑わせもした。

 「何をしていてもオレはオレのままじゃんと思えた。40になって、もうあたふたしないなって、腹がくくれた」。不惑となり、力が抜けたような表情で話した。◆ ◆ 3月1日には、ゆずが誕生した20年前に生を受けた新成人たちとコラボレーションするコンサート「ハレブタイ! ゆずとハタチでつくる“ありがとうコンサート”」を「みなとみらいホール」(横浜市西区)で行う。

 本番を前に1月24日に、横浜市内で行われた会見では「桜美林大学ソングリーディング部」の技を間近で見た。

 北川は「大迫力! 試合とは違う(記者会見という特殊な)環境の中でやりきったのがすごい。強いハート」と感嘆。岩沢も「世界一になった技は違う!」と舌を巻いた。

 公演では合唱団、オーケストラ、太鼓などさまざまなことに打ち込む20歳と、ゆずの曲のほか、一般から受け付けたリクエスト曲を演奏。「僕たちがビッグバンドとかとコラボレーションするのはもちろん、集まってくれた20歳同士もパズルみたいにバラバラにしてミックスして、この日だけのステージを見せたい。みんなと一緒に『ありがとう』という気持ちを伝えたい」と意気込んでいる。

 “ハレブタイ”を前に、目を輝かせる学生たち。

 北川は「打ち込んでいることで、世界大会に出場したり、パフォーマンス技術も、考え方もしっかりしている。僕らが20歳のころとは全然違う」と尊敬のまなざし。「まるまる倍、歳が違うので、どんな化学変化になるか、いまから楽しみ」と胸を高鳴らせる。

 岩沢は「20歳のときは何もかもが刺激的だった。いろんな経験をしたいまは、そのがむしゃらさを失ってしまったように感じる。初めてのことが多くて、迷いながら過ごしていたこともあったけれど、無我夢中で打ち込めることがあることは幸せだと思う」と昔の自分の姿をそこに見ているよう。「(自分も)まだ少年と言いたいけれど、20歳のときみたいにはしゃげないかなぁ…」とさみしそうにつぶやいた。

 北川は「コンサートの後、スタッフと飲みに行ったとき、昔なら自分が中心ではしゃいでいたけれど、いまは喜んでいるスタッフの姿を肴(さかな)にして、遠目で(見守りながら)飲んでいる自分がいて、大人になっちゃったんだなぁと思います」と頭をかいた。

 コンサートの様子は3月20日午後5時から約3時間に渡り、BSフジやBS日テレなどBS民放5局で同時放送される。

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