熊本地震と歯科疾患 ストレス影響、発症も

画像写真上は、熊本地震後のストレスから左上の小臼歯をかみ割った52歳の公務員女性のケース(矢印の部分)。同下は、歯ぎしり、食いしばりのため、舌の端に歯形がついてしまった69歳女性のケース(菅健一歯科医師提供)

 精神的なストレスから歯ぎしりや食いしばりなどが起き、歯科疾患を発症するケースが見られています。熊本地震によるストレスで発症する例もあるそうです。歯とストレスの問題に詳しいスガ歯科医院(熊本市中央区水道町)の菅健一院長(日本心療内科学会登録医)に解説してもらいました。(高本文明)

 -なぜ地震のストレスと考えられるのですか。

 「熊本地震では、家を失うなどして避難所で周りに気を使いながら生活する方が大勢いらっしゃいました。今も見通しのつかない毎日を送る方が少なくありません。もろもろの不安を抱えて生きていかなくてはならないという想定外のストレスが県民を突然襲いました」

 「当院では長年、歯科疾患の発症には精神的ストレスが大きな原因の一つとなることに着目し、口腔[こうくう]の清掃指導やカウンセリング、定期的なメンテナンスで、患者さんの健康管理を続けてきました。しかし、当院できちんと管理し、問題なく過ごせていた患者さんたちでさえ、地震後には歯にさまざまなトラブルが見られたのです」

 -どんな例がありましたか。

 「30年近く当院で歯のメンテナンスを続けてきた52歳の公務員女性は、寝る間もなく被災者のお世話をされ、約2週間後、極度の心身の疲れ(緊張)から左上の小臼歯をかみ割ってしまいました。右上の奥歯も折れてしまいました。強いストレスを歯が受け止めた結果でしょう」

 -ほかのケースは。

 「54歳の自営業男性は、歯の詰め物が外れてしまったのですが、先行きの経営に不安を抱えておられました。マンション経営の73歳男性は、ストレス状態で免疫力が低下したからか、歯茎の腫れがあちこちに見られました。食いしばりによって義歯が食い込んでしまってかめなくなった90歳女性や、過労により口内炎が生じた64歳女性、食いしばりの影響でかみ合わせが悪くなり顎[がく]関節症になった30歳男性もいました。慣れない避難所の生活で詰め物や継ぎ歯が外れることはよくありました」

 -歯以外への影響は。

 「ぐっと歯を食いしばると、頬の内側や舌の端に歯形が付いてしまうことがあります。これは間違いなく、歯ぎしりや食いしばりをする方の特徴なのですが、これが強くなると舌痛症が起きる場合もあります」

 -舌痛症の症状は。

 「舌にヒリヒリ、ピリピリするような慢性的な痛みやしびれが長期間続きます。舌が硬くなって、唾液が出にくくなることもあります。先に紹介した52歳の公務員女性や、自宅が半壊した69歳女性では、舌に歯形が付いていました」

 -歯が悪いと、食べる楽しみがなくなりますね。

 「何らかのストレスが加わることで、食いしばりや歯ぎしりが起き、歯が悪くなって、かめなくなり、さらにストレスが大きくなるという悪循環を生んでしまいます」

 「地震のトラウマ体験(心的外傷)の記憶が突然、鮮明に思い出されるフラッシュバックを起こしたり、知らないうちに歯を食いしばって歯を悪くしてしまったりして、さらに強いストレスがかかり、いまだにうつやうつ状態の人もおられます。ストレスの影響とみられる歯科疾患は想像以上に多く、今後も増えていくのではないかと考えています。歯の治療を通して、そうした方たちの回復のお手伝いができればと思っています」

 次回は、歯ぎしり、食いしばりへの対処法を紹介します。

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