三井物産出資のゲスタンプ社、三重県に車鋼材加工の新工場 「ホットスタンプ」で日本初進出、ホンダ向けなど日系自動車大手に供給

三井物産が12・5%出資する世界最大手の自動車プレス部品メーカーのゲスタンプ・オートモシオン(スペイン)は三重県松阪市にホットスタンプ(ホットプレス)の新工場を新設し、日本に初進出する。工場稼働は2018年の上期。日本鉄鋼メーカーなどのホットスタンプ用鋼板を熱間プレス加工し、高強度の部品を生産するのが狙い。中部地区の自動車メーカー関係筋によると、米国で納入実績のあるホンダなど日系自動車大手に供給していくもようだ。

三井物産は13年、ゲスタンプの米州事業(米国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン)に3割出資して事業参画。自動車用鋼材の下工程・精整から部品事業まで素材から部品の一貫ビジネスを構築し、日系、米系だけでなく欧州系車メーカーとの取引を強化してきた。昨年ゲスタンプ本体に出資参画することでも合意し、全世界ベースでの展開を図っている。

安永三井物産社長と三重県知事ら出席、進出発表会開く

昨23日には、進出先となる三重県でゲスタンプ・ホットスタンピング・ジャパン社(フランシスコ・ホセ・リベラス・メラ代表取締役)が進出発表会を開催。鈴木英敬三重県知事や竹上真人松阪市長、三井物産の安永竜夫社長、勝登執行役員(鉄鋼製品本部長)らが出席した。

三井物産・安永社長

工場は松阪市の嬉野地区に位置し、敷地面積は約6万平方メートル(約1万8千坪)。

三重県を選んだことについてゲスタンプでは「日本の中心に位置し、同工場を拠点に全国をカバーすることが可能。また自動車産業の集積地であり、資材調達や専門人材の運用などでも優位性が見込める」としている。

ゲスタンプは自動車メーカー向けにボディ、シャーシ、メカニズムなど構造部品の設計・開発・組み立てを行う。世界20カ国に97カ所の製造拠点を持ち、現在さらに10カ所を建設中。研究開発拠点も12カ所あり、グローバル従業員数は3万3千人以上。ホットスタンプ技術に強みを持つ。

日系の車部品や鋼材加工業と協業模索

海外の自動車部品メーカーが日本に初上陸するという事実は、素材供給面で鉄鋼業と関連の深い国内自動車業界には「黒船来航」と身構える反応がないこともないが、車づくりがグローバル化している、という事実を冷静に受け止める向きも多い。

ゲスタンプ社や三井物産など今回の当事者は、ユーザーからの要請に応える形で進出を決めたわけだが、新工場はホットプレスに特化した拠点とする。その周辺では、日系自動車部品メーカーや既存流通とも連携・協力を模索したい意向を持っているようだ。

自動車軽量化のための素材として、日系自動車向けはハイテン鋼板が主流であることは当面変わりはないだろう。今ホットプレス部品を採用している日系車メーカーが、次のモデルで冷間ハイテン中心モデルに回帰するケースも見受けられる。「自動車メーカーのテイストの違いもあり、流動的な要素も多い」(関係筋)と言えそうだ。

ただもともと、欧州で広く採用されているホットスタンプ技術が、自動車メーカーのグローバル規模での再編統合もあって、地域的な広がりを見せやすい側面もある。アルミなど他素材を含め、新しい素材設計を好む日系自動車メーカーもあり、日本国内の車づくりに一つの変化をもたらす可能性はありそうだ。

アルミ採用がどこまで広がるのか、ホットスタンプがどこまで広がるのか。トランプ米大統領の環境規制政策なども影響するが、しばらく目が離せない。(一柳 朋紀)

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