侍ジャパンV奪還へ鍵握る中田翔 昨季苦しんだ“弱点”克服できたのか

野球日本代表「侍ジャパン」の一員として第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場している中田翔(日本ハム)が活躍を見せている。だが、昨季の中田はスタメン落ちを経験するなど苦しいシーズンを送っていた。データ的にも、いくつか不振を引き寄せた理由と推測できる問題点が表れている。WBCでの活躍は、それらを克服した上でのものなのかを考えていきたい。

侍ジャパン・中田翔【写真:Getty Images】

昨季苦しんだ中田、WBCでは“弱点”克服できているのか

 野球日本代表「侍ジャパン」の一員として第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場している中田翔(日本ハム)が活躍を見せている。だが、昨季の中田はスタメン落ちを経験するなど苦しいシーズンを送っていた。データ的にも、いくつか不振を引き寄せた理由と推測できる問題点が表れている。WBCでの活躍は、それらを克服した上でのものなのかを考えていきたい。

 昨季の不振につながったと思われるのは、ストレートに対する打撃成績の低下だ。2014~2015年は、ストレートで結果が決したケースだけを集計すると、2年続けて打率は3割超え、14本塁打を記録するなど得意としていた。だが昨季は、打率.220、7本塁打と大きく数字を下げた。本塁打のペースが落ちているだけでなく、ヒットも生まれにくくなっていた。ストレートは全投球の47.2%(2016年パ・リーグにて)を占める球種だけに、それをうまく打つことができないと、どうしても成績は低下してしまう。

高めのストレートに釣られることが多かった昨季

 具体的に、中田がストレートにどのような対応をしていたのかを見ていこう。最初に、中田に投じられたストレートを高さ別に集計し、その結果を整理し図にまとめた。

 投じられたストレートに対し、スイングにいったかどうかを意味するスイング率では、真ん中から低めの高さについては、昨季の中田はNPB平均と同じような数字を記録している。しかし、ボールコースも含む高めでは、昨季のNPB平均48.8%よりかなり高い60.9%と、かなりスイングにいっている。スラッガーである中田は“狙い球”と感じているのだろうか。2014~2015年は51.0%とここまでの開きはなかったので、打席でどんな球を狙っていくかという姿勢で、昨季は多少の変化があったことが推測される。

 次に、投じられたストレートをスイングした際、バットにボールに当てられたかを意味するコンタクト率を見ていく。基本的にストレートは高めのボールのほうが空振りを奪いやすく、低めにいくにつれてコンタクト率は上がっている。

 中田も同じ傾向にあるが、昨季はより顕著で、高めのボールを振った際のコンタクト率は64.1%とNPB平均の72.4%を大きく下回っていた。2014~2015年の76.3%という数字からの低下も気になるところだ。

 とにかく昨季の中田は、高めのストレートに釣られて手を出しがちで、また空振りも多かった。それが対ストレート成績の低下を招いた一因と言えそうだ。

高めだけでなくスピードへの対応力にも問題

 投じられたストレートを速度別に集計し、同じようにスイング率とコンタクト率を見ていく。スイング率は、2014~2015年はどの球速帯のスピードに対してもNPB平均と同じような数字だった。しかし昨季は、151キロ以上のストレートには、平均を7.8%も上回る62.7%に対してスイングしていた。

 昨季はスピードボールを打ちにいく傾向が強くなっていた。振っていった結果として、バットに当たったかを意味するコンタクト率もあまりよくなく、NPB平均77.7%に対し69.2%だった。150キロまでの速球に対しては平均的にコンタクトしているのに、この球速帯のコンタクトだけ極端な悪化を見せている。こちらも昨季の中田の異変をうかがわせる結果となっていた。

WBCでは高め、150キロを超えるストレートを攻略できているのか?

 それでも、中田はWBCで結果を残している。昨季のようにスピードボールの対応に苦労しているのであれば、本来はレベルの高い投手が集まる国際大会での活躍は難しいはずである。そこで中田の今大会2次ラウンドまでの打席での5安打がどのような球種、速度、コースへの投球を打ったものだったか、また145キロ以上のストレートへの対応を確認した。

 まず、スタンドに運んだ球種は、オーストラリア戦はスライダー、中国戦はストレート、オランダ戦はスライダーだった。中国戦ではストレートを本塁打にしたが、133キロの真ん中に来たストレートで、スピードボールに対応したものではない。

 ただオランダ戦のタイブレークで放った決勝タイムリーは、ストレートを打ったものだった。昨季苦戦した高め、また遅くはない146キロをやや差し込まれながらもレフト前に運んでいる。

 145キロ以上のストレートは16球投じられているが、現在のところ空振りはなく、高めのボール球に釣られて手を出したと見られる場面も少ない。よく見送っているようにも映る。ただ、そもそも150キロ前後のストレートを投じられる場面が少なく、中田が我慢強さや高めのボールを捉える技術を発揮しているとは言えない。

 昨季抱えた、速いストレートへの対応という課題が克服できているのかの判断はしかねる。だが、できていないとすると、準決勝以降さらに対戦が増えるであろう速球派投手に苦しむ可能性もある。22日は、侍ジャパンの世界一奪還という挑戦に加えて、中田の速球対応という挑戦にも注目したい。

※DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。

DELTA●文 text by DELTA

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