【世界から】桜特集、中国で咲き乱れ

日本情報誌「知日」に反響

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中国人向け日本情報誌「知日」3月号の表紙
北京市内の桜の名所・玉淵潭公園で花見を楽しむ市民たち
北京市内の桜の名所・玉淵潭公園で花見を楽しむ市民たち

 桜の頃になると日本中がワクワクするものだが、今年は北京でも日本の桜を特集した現地誌が話題になっている。中国人向け日本情報誌の「知日」は3月初めに「桜花入魂―桜の全て」を発売。1000位入りも難しいと言われる中国アマゾンの書籍総合ランキングで、同誌は112位(3月9日現在)、ジャンル別で2位、予約販売ランキングでは1位を記録し反響を呼んでいる。

 ▽高いレベル

 「桜の歌、映画、作品、食べ物など私が好きなものを一冊にした本が出て本当に幸せ。(旅行予定の)日本で順調に桜が見られるといいな」

 「桜は遠い存在だったけど、花吹雪の写真を見て以来、本物の桜を見てみたいと思うようなった。やっぱり桜が美しいのは散っていく瞬間だと思う」

 「今までいろんな写真を撮ってきたけど、桜が一番好きだ。いつか日本にも行ってみたい」

 中国の読者からは、こういった声が寄せられている。日本の桜をそれぞれに楽しもうとしているのが分かる。

 「知日」は2011年の創刊以来、「ベストセラーの娯楽性とロングセラーの資料性」(蘇静編集長)を武器に、毎号「猫」「妖怪」「断捨離」など独特のテーマを深く掘り下げている。

 今回も桜に関する歴史、芸術、サブカルチャー、和菓子から桜の名所まで幅広いトピックを1冊にまとめている。手法はいつも通りだが、驚いたのはコンテンツ一つ一つのレベルの高さだ。

 ▽新人類の関心と共感

 例えば、日本の若者に大人気の小説家・辻村深月氏は、桜に投影される学生の出会いと別れ、期待と不安について語る。写真家の蜷川実花氏は、桜の下には死体が眠るという神秘的で怪しげな桜の一面を語る。続いて、書選家の幅允孝氏は坂口安吾の『桜の森の満開の下』など桜に関する書籍を紹介し、読書欲をくすぐる。

 また、桜を扱った岩井俊二監督の「四月物語」や新海誠監督の「秒速5センチメートル」など映画紹介も充実。映画専門家の王衆一氏の表現力豊かな誘いで映画も見たくなる。

 さらに、2008年の北京五輪開会式典を手掛けた国際的アーティストの蔡国強氏が巻頭を飾る。火薬を用いた作品「夜桜」が美しい。極め付きは天才アラーキーこと荒木経惟氏の桜のフォトコレクションだ。とにかく満開の桜のごとくコンテンツが咲き乱れている。こんな雑誌が今、日本にあるだろうか!

 「知日」の主な読者は中国の「90後」と呼ばれる90年代生まれの若者(18~27歳)たちだ。彼らは世界のあらゆるものに好奇心旺盛で、自由奔放な新人類と言われる。国への義務や家族主義から解放され、貪欲にアンテナを張り個人の感性を追求している。だからこそ、彼らはおのおのが好きな方法で桜を愛でるという日本のライフスタイルに関心と共感を持つのかもしれない。

 ▽多層的

 同誌を編集した北京在住の原口純子氏は「日本のマスメディアでは中国の特殊性にスポットを当てがちだが、その水面下で日中の市民のライフスタイルはかつてないほど近づいていると思う。桜特集のヒットもその表れでは。今の中国の人は日本の人と同じように桜を愛で、同じ話題で語り合えるようになっている」と指摘する。

 北京の旅行関係者によれば、日本の桜を見に行く中国人観光客は10年前にはほとんどいず、5年前は日本通のみ、数年前はお祭り騒ぎ的なブームだったという。今年は京都だけではなく金沢にも注目が集まり、旅行者の成熟度が急速に増しているという。

 日本にいると、急に中国人観光客が押し寄せてきたとしか見えないかもしれない。しかし、中国の人々は多層的で、一部には日本人がかつて知らなかった新しい層が現れている。日本人にとっても垂ぜんの的になり得る「知日」のような豪華キャストの美しい雑誌が北京で作られ、良く売れているのはまさにその証ではないだろうか。北京の桜も開花の時期を迎えている。(北京在住ジャーナリスト、斎藤淳子=共同通信特約)

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