52歳医師、月収135万円。貯金が少ないことで悩みます

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、現金が少ないことで老後に不安を感じている50代の勤務医の方。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

老後に備えて現金はやはり多い方がいいのでしょうか……

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、現金が少ないことで老後に不安を感じている50代の勤務医の方。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください(相談は無料になります)。

https://sec.allabout.co.jp/post-form/form/22

相談者

シークレットさん(仮名)

男性/勤務医/52歳

兵庫県/持ち家一戸建て

家族構成

妻(パート医)40代、子ども2人(高校3年/17歳、中学1年/12歳)

相談内容

老後の備えについて、現金等が少ないのではと言う懸念があります。また、それに備える意味もあり、現在不動産投資を検討中です。定年は65歳ですが、仕事の量を減らすなど調整しながら、最低75歳までは働く予定です。

家計収支データ

「シークレット」さんの家計収支データ

家計収支データ補足

(1)転職と昇給

夫婦とも医師。ともに転職が決まっていて、収入もアップする。ちなみに昨年の確定申告額、夫は1400万円、妻は1100万円。転職後はともに1500万円になる予定。

(2)ボーナスの使いみち

基本的には投資か貯蓄、または繰上返済だが、それぞれの額は一定ではない。

(3)住宅ローンの内訳

▼建物

借入額2000万円、平成24年~44年(20年)、10年固定、金利1.10%、毎月の返済額9万2000円

▼土地

借入額1300万円、平成21年~平成36年(15年)、10年固定、金利1.65%、毎月の返済額5万5000円(過去に繰上返済あり)

(4)不明のこづかい

基本的に夫婦別々でお互いどのくらい使っているかは知らない。ちなみに、こづかいの範囲ではないが、今年の夏は家族で海外旅行に行き120万円支出。

▼夫

後輩や学生、スタッフにごちそうしたり、ガーデニングに使ったりしている。この額が一定ではなく月10万円のときもあれば、30万円使っているときもある。株が安ければ株を買うときもあれば、繰り上げ返済に回すということもある。

▼妻

(夫の知る限り)マッサージ・エステなどに使っているが、あとは不明。

(5)保険料の内訳

(夫名義)

終身保険に2本/保険料合計2万4000円

他に掛け捨ての医療保険(保険料4000円)、がん保険(保険料5000円)

すべて保障内容は不明

(妻名義)

掛け金は合計で2万5000円。ただし、保険の種類、保障内容は不明

(6)教育費の内訳

長女と次女の授業料、他学校関係費(ともに私立)/12万円、長女学習塾/8万円 ただし、海外研修などがあり、50万円くらいかかった。

(7)投資スタンス

行うのは国内株式のみ。低位株が好きで安いうちに買って上がるまで半年でも1年でも待つ。持ち株がストップ高となるのが喜び。低位株なのでわりとよく経験するとのこと(ただし今年はまだ2回)。

(8)検討中の不動産投資

現在、ローンの審査待ち状態。通れば購入する。都心部に小さな新築一戸建てを買い、それを貸しに出す予定。物件価格は6000万円弱(手付け金200万円)。ローンの支払い額は24万円。貸し出す家賃は22万円(家賃保障/最低4年間付き)。相場はもっと高いが、安全を取ったとのこと。将来的には子どもが住んでもいいと考えている。

FP深野康彦からの3つのアドバイス

アドバイス1 不動産投資は優先順位も必要性も低い

アドバイス2 株式投資の継続か個人型の確定拠出年金を

アドバイス3 「どんぶり勘定」と「夫婦別々の財布」を改善

アドバイス1 不動産投資は優先順位も必要性も低い

マネープランの観点から最初に指摘したい点としては、検討中の不動産投資はそれなりにリスクがあるということ。物件価格は6000万円で手付金として200万円。仮にそれが頭金(諸費用は別途、預貯金から捻出)とすれば、5800万円のローンを抱えます。ローンの内容は不明ですが、返済金が毎月24万円(ボーナス払いなし)ということですから、全期間固定なら25年返済で金利が1.6%程度(フラット35と同程度)、変動金利であれば22~23年返済といったところでしょうか。

どちらにしても、完済するのは70歳代後半です。しかも、お子さんが2人いらして、下のお子さんはまだ12歳。大学卒業まで10年あります。加えて、ご夫婦とも医師なのですから、お子さんたちが医学部に進学する可能性は、一般家庭より高いはず。私立大学の医学部なら、平均の学費は2300万円ほど。2人なら5000万円近くになります。もちろん、現在の収入なら、住宅ローンも繰上返済をして10年程度で完済することは可能なはず。また、教育費に5000万円かかったとしても、捻出しようと思えばできない額ではないでしょう。

とは言え、今後教育費がかかることが想定され、ご自身も50代となり、そろそろ老後を考える時期に来て、現金が少し足りないということにも気付いている。なのに、あえて住宅ローンをダブルで抱える必要性が見当たりません。時間軸で考えても、その優先順位は教育資金や老後資金よりも低いと言えます。

アドバイス2 株式投資の継続か個人型の確定拠出年金を

不動産投資で気になる点がもうひとつ。「最低4年の家賃保障」と「家賃を相場より下げて22万円とする」という部分です。家賃保障はなぜ4年しかないのでしょうか。業者からすれば、5年ではリスクがあるからだと考えられます。家賃を相場より下げて22万円としたのは、相場以下でなければ借り手がいないことの裏返し、とも取れます。不動産投資として考えるのであれば、そのあたりをもっと精査しておくべきだと考えます。

また、一戸建ては土地付きのため資産価値も高いというイメージがありますが、マンションと比較して、維持管理が難しいのが難点。安定した賃料を確保するには、それなりに手を入れていく必要があります。もちろん、不動産価格が下落して、資産価値そのものが下がる懸念も当然あります。

相談者のシークレットさんは、そもそも1000万円もの資金を運用されています。しかも、投資スタンスは低位株をじっくり保有するという、株式投資としては堅実なタイプ。したがって、投資で老後資金を増やすなら、現在の株式投資を継続する方が、6000万円の不動産投資よりもはるかに賢明と言えます。また、現在投資に回している資金の一部で個人型の確定拠出年金を始めてもいい。老後資金づくりという目的が明確になりますし、節税にもなります。検討してみてはどうでしょう。

アドバイス3 「どんぶり勘定」と「夫婦別々の財布」を改善

指摘したいもうひとつの点は、家計が不明確で計画性に欠けているということ。つまりは「どんぶり勘定」ということです。このデータどおり、毎月135万円の収入があり、支出が68万円なら、毎月67万円貯蓄ができます。ボーナスを加えれば年間900万円程度は貯められる計算になります。もしそのとおり貯められているなら、1年前より貯蓄が900万円増えているわけですが、おそらくそうはなっていないと思います。

それは、データ以上に支出していることを意味します。問題は、支出そのものではなく、それを把握できていない可能性があるという部分です。その把握ができないと、少なくとも現実に即したマネープランは立てられません。

先にも触れましたが、ご夫婦で高収入を得られ、来年はさらにアップするとのこと。その点で言えば、購入した物件で借り手が付かず、家賃が途絶えるようになったとしても、毎月の家計支出がいただいたデータより5万、10万円多くても、それで経済的に大きく困るということは、おそらくありません。その気になれば、年間1000万円超貯められるはずです。また、75歳まで働く予定とのことですから、少なくともそれまでは公的年金に頼らずとも、十分な生活ができるでしょう。

しかし、今後どんなリスクがあるかわかりません。その意味で、現金が少ないのは不安要素とも言えます。であれば、家計管理はキッチリし、より効率的に貯蓄を増やしていくことをススメます。さらに言えば、ご夫婦が別々の財布で、相手の家計内容も(さらには保険の保障内容も)わからないというのは、やはり気になります。そこを改善していくことも老後資金づくりの一環と考えてください。

「シークレット」さんから寄せられた感想

あらためて家計をチェックしたところ教育費、交際費がはるかに多かったと感じています。夫婦で財布と経済状況を内緒にしているのは結婚したときからなのでこれは崩すのが難しい……。交際費は波があり一概には言えませんが、どんぶり勘定を見直す良い機会となりました。ありがとうございます。

教えてくれたのは……深野 康彦さん

業界歴26年目のベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ

(文:あるじゃん 編集部)

© 株式会社オールアバウト