40歳貯蓄4500万円。夫が50歳でリタイア希望し心配に

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、夫が早期リタイアとUターン生活を言い出して戸惑っている、40歳の主婦の方。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します

貯蓄と公的年金だけのリタイア生活は可能でしょうか?

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、夫が早期リタイアとUターン生活を言い出して戸惑っている、40歳の主婦の方。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

相談者

みつをさん

女性/会社員/40歳

神奈川県/賃貸住宅

家族構成

夫(会社員/40歳)

相談内容

夫が、50歳(あと10年後)リタイアして、実家(持ち家 ローンなし、両親と同居)にUターンして、田舎暮らしをしたいと言っています。夫婦2人で、子どもはいません。老後に、経済的に援助してくれそうな親戚もいません。このままの生活を続けていては、50歳でリタイアしてしまうと、年金をもらう年齢には貯金が底をつくのではと心配です。夫の決心は固そうなので、今からできる努力としては、できる限り支出を減らすことと、貯金を増やすことかなと思っています。どのくらいの貯金があり、毎月の生活費がどのくらいに抑えられたら、50歳でのリタイアが可能と考えられるでしょうか?

家計収支データ

「みつを」さんの家計収支データ

家計収支データ補足

(1)「趣味娯楽費20万円」の主な支出内容

海外旅行/年1回100万円、国内旅行/年1回50万円、交際費/年50万円、冠婚葬祭費/年10万円、帰省費/年1~2回20万円、その他/年10万円

(2)「家族のこづかい10万円」の主な支出内容

夫婦で5万円ずつ。主に昼食、外食代。

(3)保険料8000円の内訳

夫・妻/医療(終身保障、60歳払込終了、入院1万円、他に手術給付、手術見舞金、先進医療特約など)=保険料3800円×2人分

(4)「雑費18万円」の主な支出内容

被服費/年間・夫40万円、妻76万円、家具・家電購入/年間・100万円

(5)早期リタイア後の収入

退職金なし(夫婦とも)、公的年金/夫・月額11万円、妻・月額9万円(51から60歳まで国民年金に加入しての試算)

(6)早期リタイア後の生活費

◎削る予定の生活費

趣味娯楽費/月20万円→14万円(旅行費用が半分になる)

雑費/月18万円→10万円

食費/月12万円→6万円

ごつかい/月10万円→4万円

家賃/月12万円→0円

◎増える支出

実家の固定資産税/年10万円

実家のリフォーム/500万円程度

(7)リタイア後に働く予定

かなりの田舎のため難しい。資産と年金だけを収入とする予定。

FP深野康彦からの3つのアドバイス

アドバイス1 生活費を削っても70歳で貯蓄はなくなる?

アドバイス2 目標は月額40万円の削減

アドバイス3 事前にリタイア生活の慣らし運転を

アドバイス1 生活費を削っても70歳で貯蓄はなくなる?

収入も高く、貯蓄ペースもかなりのものです。それでも、ご相談者のみつをさんが心配されているように、早期リタイアは資金的に不安要素があります。そこで、まずは試算をしてみましょう。年間貯蓄額が680万円ですから、リタイアをする50歳までに6800万円貯めることができます。現在の資産(貯蓄+投資)が4500万円なので、準備できるリタイア資金は計1億1300万円となります。

現在、支出の月額が77万3000円。これを50歳から公的年金の支給開始となる65歳まで15年間続けると約1億4000万円。1億円を超えていた資産も、65歳を前に底をつくことになります。

つまり、みつをさんのご主人が描くリタイアのプランは、現在の生活費をどの程度削ることができるか、それが大きなポイントとなるわけです。実際にどのくらい削ることが可能かについて事前にたずねたところ、計26万円との回答でした(詳細はデータ補足の(6)参照)。

月26万円の削減は15年間で4680万円。結果、65歳の時点で2000万円程度の資産が残る計算になります。公的年金が夫婦合計で20万円とのことですから、生活費の不足額は月31万。2000万円の資産も70歳でなくなってしまいます。また、この試算には、ご実家のリフォーム費用や、クルマが必要になった場合のコストなどは含まれていません。

アドバイス2 目標は月額40万円の削減

1億円を超える資産を作っても、早期リタイアの老後資金としては不足してしまうのはなぜでしょうか? 理由のひとつが、公的年金支給までの無収入期間が15年間もあるということ。早期リタイア後、多少でも収入があれば、思った以上に余裕が生まれます。たとえば、月収7万円でも15年間で1260万円、老後資金に上乗せできるのです。しかし、みつをさんの場合、ご実家周辺では職がなく、あくまで公的年金と資産を取り崩す生活となるとのこと。

とすれば、資金不足となるもうひとつの理由である、膨らんだ生活費をさらに抑え、取り崩すペースを遅くする以外に有効な方法はありません。具体的には、現在の半分以上、月額にして40万円は削りたいところ。ご本人は26万程度削ることが可能とのことですが、それでは足りないと考えます。

ただし、これだけ生活費を削るのは、言葉にすれば簡単ですが、実践するのはかなり難しいと思ってください。「今日から生活費は半分」と言われサッとできるものではありません。無理に抑え込んで、逆にその反動で支出増となってしまう危険性すらあるのです。

アドバイス3 事前にリタイア生活の慣らし運転を

生活費を削る、実現可能な方法として、リタイア前から段階的に行ってはどうでしょうか。たとえば、40歳から3年毎に10万円ずつ減らしていくという形であれば、一気に減らすより無理はありません。そして、50歳になるまでに30万円減らすことができれば、リタイアした時点で家賃12万円がなくなりますから、自動的に40万円(正確には42万円)の生活費削減ができます。

また、前倒しで生活費を抑えるため、老後資金のアップにもつながります。最初の3年(40~42歳)で削減した生活費をそのまま貯蓄に回せば、貯まる額は360万円。次の3年(43~45歳)で720万円、そして46歳からさらに10万円を減らすと、50歳になるまでの4年間で1080万円貯蓄できますから、計2160万円となり、リタイアした時点での資産は計1億3460円なります。

50歳以降の生活費が約36万円。15年間で6480万円となり、65歳の時点で約7000万円残っている計算になります。それ以降は、公的年金の不足分として約16万円をそこから取り崩せば、ざっと36年分、100歳まではカバーできます。実際はリフォーム費用等もそこから捻出することになりますが、それでも90歳代半ばまでは大丈夫ということになります。

ただし、今後何が起こるかわかりません。石橋を叩くようですが、個人的には年金受給後も、生活費を徐々に減らし、最終的には月額30万円程度を目指すことをおススメします。もうひとつ提案として、ご主人の実家、その地域での生活がどういうものなのか、事前に体験しておくといいと思います。

帰省は何度もされていると思いますが、実際に生活するとなると、感じ方はまた違うはず。夏休みやゴールデンウィークを利用して1週間程度のいわば実家暮らしの慣らし運転をしておく。水道光熱費はどのくらいかかって、食費はどのくらいかかりそうか。買い物や医療機関はどこまで行けばいいのか。自分たちが生活するとなると、実家に何が足りないのか。リタイア後にいきなり実家生活がスタートでは、慌てることも多いはず。こんなはずではなかった、ということがないよう、準備を進めてください。

「みつを」さんから寄せられた感想

やはりこのままでは、老後が不安ですので、もう少し長く働くことも検討しながら、日々の生活費の削減に、夫婦ともに協力してがんばってみたいと思います。早めに一度先生にご相談できてよかったです。ありがとうございました!

教えてくれたのは……

深野 康彦さん

業界歴26年目のベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ

(文:あるじゃん 編集部)

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