「老後ビンボー」を防ぐには退職金の運用が決め手

定年後の生活において主な収入源は「年金」ですが、それだけでは生活費をまかなうことができない人も多いのが現実。そこで頼りになるのが「退職金」です。

やっぱり年金だけでは暮らしていけない!?

老後の生活にはどのくらいのお金が必要なのでしょう。

図は総務省が行っている「家計調査報告」の中から「高齢(夫65歳以上、妻60歳以上)夫婦のみ無職世帯」の収入と支出をグラフ化したもの。

夫婦のみ(夫65歳以上、妻60歳以上)無職世帯の収支

年金だけならば不足額はなんと約5万3000円

調査データはあくまで平均値なので社会保障給付(年金)以外の収入が約2万円あり不足額は約3万3000円となっていますが、年金だけならば不足額はなんと約5万3000円! 収入が年金のみで毎月5万3000円の不足とすると30年で1908万円、年金以外の収入があり不足額が3万3000円なら1188万円。

日常生活の費用だけを見ても年金以外にこれだけの老後資金がないと、平均的な生活をするのは難しいという現実が見えてきます。

これに対して、老後生活を支える年金額はどうでしょう。受給できる年金額は、加入している制度によって大きく異なります。厚生労働省の「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金保険(第1号)65歳以上受給者の平成30年度の平均年金月額は男性17万2742円、女性10万8756円。国民年金(25年以上加入)は5万5809円です。

ということは、いわゆる「モデル世帯」といわれる会社員の夫と専業主婦の妻の場合は年金の合計月額が22万8551円ですから不足額は約4万2000円ですが、国民年金やおひとりさまの場合は年金だけでは大きく日常生活費が不足することになります。逆に現役時代は大変でも共働きを続けていれば月額28万1498円ですから、データ上での試算では年金だけで暮らしていけるということになります。

会社員にとって退職金は老後生活を支える大きなお金

健康さえ維持すれば何歳になっても働ける自営業者などと違い、会社員にとっては定年退職時に受け取る退職金はリタイア後の生活を支えてくれる大きなお金です。そんな退職金は一体いくらもらえるのでしょう。

退職金額を決める要素としては、勤続年数、平均給与や仕事の貢献度、退職時点での給与、退職理由、会社の規模や業界の水準などが挙げられます。

 

退職金は学歴や勤続年数によってかなりの差がある

図は厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」から抜粋したもの。退職金制度の調査の中でも、大企業から中小企業まで網羅して継続的に実施されている代表的な統計です。見てわかる通り学歴や勤続年数によってかなりの差がありますが、少ない人で420万円程度、多い人では1300万円余りのお金を退職時に手にすることになります。

一見、まとまったお金のように思いますが、「定年を機に憧れのクルーズ旅行へ」「老朽化した家のリフォームを」などといったことに使えば、あっという間に減ってしまいます。

貯めたお金と違って長年働いていたことへのご褒美として使いがちだけに、使途は慎重に考えたいもの。ましてや年金では生活費だけでも不足する人が多いのですから、退職金はいざというときの備えとしてきちんと貯めておく必要があります。

お金に働いてもらうと生活に余裕ができる!

たとえば1000万円の退職金を、20年間で取り崩しながら使うとして、いくつかパターンを考えてみましょう。

銀行の普通預金口座に入れておく

現在の普通預金金利は0.001%ですから、普通預金に預けたままにしていたら年間の金利は、なんと100円。そこから税金を引かれると実際の受取額は80円。ほとんど増えませんから、毎月4万2000円しか取り崩せません。定期預金ならと思うかもしれませんが、2020年4月以降、大手銀行や地方銀行が金利を引き下げ、とうとう0.002%に。もはや普通預金とほとんど変わりません。

運用(投資)に回してみる

一方、預け先を変えて投資商品で運用したとしましょう。利回りが1%で4万6000円、3%なら5万5000円、もとは同じ1000万円でも、取り崩せるお金に違いが出てきます。

それほど大きな金額ではないように思いますが、物価上昇や介護保険料のアップなど生活費は年々増加する可能性があります。この違いが、老後生活や気持ちに余裕を与えてくれるはずです。

1000万円の退職金を、20年間で取り崩しながら使うときのパターン

でも退職金でいきなり運用デビュー!はちょっと待って

退職金を運用しようと考えるのは、豊かな老後を送るために必要なことです。ただし、これまでも株式や投資信託などで運用を行っていた人は別にして、投資経験がない人はすぐ行動に移してはいけません。

まずは投資商品にはどんなものがあるのか、リスクとリターンはどのような関係なのか、どこで買ったらいいのか、といった運用するにあたって必要な情報を集めて理解しましょう。それを踏まえた上で、具体的にどんな商品を買ったらいいのかを検討するのです。運用利回り1%でも普通預金の1000倍なのですから、そんなに簡単にできると思ってはいけません。

元本保証の預金を中心に堅実に増やす方法を検討しよう

とはいえ、まとまったお金を普通預金で眠らせておくのはもったいない! そこで利用したいのが有利に運用できる預金商品です。かつては多くの金融機関に「退職金定期預金」があり、退職直後の預け先の一番の選択肢となっていましたが超低金利の波を受けて最近は激減。

ただし、地方銀行や信用金庫などでは取り扱っているところもありますから、ぜひ地元の金融機関をチェックしてみましょう。「退職金定期預金」を利用するときは、投資信託や外貨預金などとセットになっていないこと、好金利が適用されるのはいつまでかを必ず確認してください。

該当する退職金定期預金がない場合の選択肢をまとめてみました。

退職金の預け先とは

たとえば2020年10月12日時点でみると、楽天銀行は楽天証券の口座と連動する(マネーブリッジ)と普通預金金利が0.1%とメガバンクの定期預金(0.002%)の50倍。イオン銀行は対象取引の内容によってステージが確定し、普通預金金利が最大0.100%。オリックス銀行のeダイレクト預金の3年ものなら0.25%など、普通預金金利0.001%時代でも好金利な預金があります。

個人向け国債「変動10」も、定期預金同様と考えていい元本保証の商品。発行から1年経てばいつでも換金することができ、半年ごとに適用利率が見直されるので将来、金利が上昇してもメリットを享受することができます。

退職金で投資をするには、商品の仕組みをよく理解してから

預金ではほとんど増えないから投資をしたいという人の選択肢になるのが「NISA」と「つみたてNISA」。運用益と譲渡益が非課税なので、運用することのメリットをフルに活用することができます。

ただし投資商品ですから、相場環境によっては元本割れするリスクがあることを忘れてはいけません。つみたてNISAなら世界の債券や株式に分散投資する投資信託、NISAなら配当利回りや株主優待に注目するなど、リスクを軽減する投資方法を選択することが重要です。

投資経験がない人はもちろん、経験がある人でもまとまった金額を運用するには相場環境などを見極める必要があります。くわえて高齢になってから投資を始める場合は、管理が難しくなるので多くの商品に手を出さないこともポイントです。

書店へ行けば投資関連の書籍やムックがたくさん並んでいますし、金融機関などが開催する無料セミナーなどもいろいろあります。インターネットにもマネー誌などのHPや、All Aboutにもお金のプロのコラムがたくさんあり、無料で多くの情報を得ることができます。大切な退職金を確実に増やすには、まず情報収集をして知識を得ることから始めましょう。

(文:鈴木 弥生(マネーガイド))

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