50歳、資産は1億3000万円。でも早期リタイアが不安

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は5年後の完全リタイアを検討している50代の会社員男性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します

偏った投資内容、親の介護など、リタイアに心配な部分が……

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は5年後の完全リタイアを検討している50代の会社員男性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

相談者

W・Hさん

男性/会社員/50歳

持ち家一戸建て

家族構成

妻(48歳/自営業)

相談内容

2020年に会社を退職し、完全にリタイアする。あるいは可能ならさらに前倒しでの早期リタイアを考えています。貯蓄については、ボーナスはすべて貯蓄に回せていますので、年間貯蓄額は500万円程度。さらに投資で年間500万~1000万円のプラス(配当や貸し株も含む)を目標にしています。住宅ローンは完済です。この状況を考えれば、何となく大丈夫な感じはするのですが、偏りのある資産ポートフォリオ、保険の未加入、親の介護リスク(今は元気)、さらには妻の治療費など、心配ではあります。私自身の性格はかなりの心配性です。

家計収支データ

「W・H」さんの家計収支データ

家計収支データ補足

(1)投資スタンス

株式投資を始めて20年。トータル収支はかなりのプラス。今は株式の配当、貸株で年間200万円~400万円となります。投資ポートフォリオも株式中心。スイングと中長期を組み合わせている。債券は社債募集で利率が高いときのみ普通預金から振り替えて購入。将来日本国債の利率が上がれば、国債の比重を高めたいと思っているが、今は国内株式に偏っている。本来なら資産のmax半分くらいまでを投資、と思ってはいるもののなかなかできていない。

(2)リタイア後にしたいこと

完全リタイアの後は、弁護士資格取得を目指したい(費用50万円ほど)。資格を取得したら、ボランティアに近い形で少し働きたいと考えている。

(3)妻の自営業と治療

8年間ほどしている。年間収支はトントンか、若干プラス。これを今後どうするかも悩みどころ。同時に、妻が病気の治療を長年続けていて、健康保険の適用内で、年間24万円程度発生しているが、会社から補助により現在は実質10万円ほどの負担。

FP深野康彦からの3つのアドバイス

アドバイス1 リタイア時期の前倒しも十分可能

アドバイス2 抑えられた生活費が早期リタイアを可能に

アドバイス3 親の介護は親の資金で

アドバイス1 リタイア時期の前倒しも十分可能

完全なリタイアですから、リタイア後は働かないということだと思いますが、ともあれ早期のリタイアが可能かどうかは、試算による判断が基本となります。W・Hさんの場合ですが、毎月の貯蓄が25万~30万円ということですので、低く見積もって25万円でも年間300万円、ボーナスは全額貯蓄となるので、計540万円が毎年の貯蓄ペース。

退職を予定している2020年まであと5年ですから、退職時までに2700万円。さらに保有株の配当金や貸株での利益が、これも低く見積もって年200万円とすると、5年で1000万円。計3700万円、貯蓄が増えていることになります。これに現在の資産(貯蓄4200万円、投資9010万円)を加えれば、退職時の資産はおよそ1億6900万円。実際はこれに退職金が加わることになります(貯蓄の利息、保有株の株格変動などを考慮せず)。

一方、生活費は14万3000円。公的年金の支給が始まる65歳まで、貯蓄などから取り崩していくことになります。17年分の生活費はざっと3000万円。65歳で、手元にまだ1億3900万円あります。公的年金額が不明ですが、この生活費を維持できるとすれば、奥様の医療費が退職後、年間14万円増えることを考慮しても、65歳以降、年金だけでほぼ生活できることになります。

万が一、公的年金が受給できなかったとしても、65歳から90歳までの生活費は5000万円程度。少なくとも、手元にまだ1億1900万円残ることになります。

ご相談者は「かなりの心配性」とのことですが、資金的にこれだけ余裕があれば、早期リタイアを2020年からさらに前倒ししても、大丈夫です。本人が慎重であることはいいと思いますが、少なくとも資金について悩む必要はありません。

アドバイス2 抑えられた生活費が早期リタイアを可能に

早期リタイアしてもこれだけ資金に余裕があるのは、もちろん収入が比較的高いということもありますが、生活費がきわめて抑えられている点が大きいと思います。現役時代であれば貯蓄ペースが高くなり、リタイア後は老後資金そのものを低く見積もれるからです。

もちろん、リタイア後に大きな支出がないとは言い切れません。W・Hさんの場合ですと、持ち家が築何年かは不明ですが、大きな修繕やリフォームが必要になってくるはずです。ただし、それも手持ち資金で十分に対処できるでしょう。

奥様の治療費も同様に手持ち資金で対応できるでしょう。自営業については、今後大きく事業に投資していくということでないなら、このまま継続しても資金的に老後生活を圧迫することはないと考えます。心配なのは健康面。それがクリアされるなら、継続することが奥様にとってもいいのではないでしょうか。

保険については未加入ですが、そのままで構いません。保険は基本的に自分の資金だけでは不足する部分を補うことが目的です。遺族(の生活費)のための死亡保障は、あくまで社会に出てないお子さんがいる場合に必要となるもの。医療保障についても、貯蓄等で十分カバーできます。

アドバイス3 親の介護は親の資金で

投資スタンスについては、偏りを心配されていますが、私も同意見です。国内株式に90%投資しています。これだけリスクを取れるのは、もちろん、ご本人の投資経験もありますが、安定した高い収入があったからこそ。リタイア後の安定的収入は65歳以降の公的年金のみで、それまでは無収入なのですから、投資リスクは可能な限り抑えたいところです。

方法としては意識的に分散していくということ。W・Hさんの言うように国債や、あるいは社債でもいいと思いますが、債券への投資比率を増やしていくという選択はいいと思います。と当時に、投資比率そのものも高いので、少なくとも早期リタイアされるまでに貯蓄額と同額程度(50対50)に徐々に落としていく方が賢明でしょう。

また親御さんの介護についてですが、平均すれば1人300万~400万円と言われています。ただし、親の介護費用はまず公的介護保険と本人たちの資産(公的年金や預貯金)でまかなうことが基本です。それで足りない部分に関しては、子どもがカバーしていくわけですが、それも兄弟がいれば、十分に話し合い、全員が納得する形で負担し合うということが望ましいと思います。結果的にW・Hさんが負担することになっても、もちろん、どういう介護を希望するかにもよりますが、現時点では手持ち資金で十分対処できると思われます。

W・Hさんから寄せられた感想

いくつかリスクはあるものの、専門家の深野先生から資金的には大丈夫というアドバイスをいただき、かなり安心しました。そして、私自身は生活費を抑えているという意識はあまりないのですが、抑えられた生活費が将来の安心できる老後生活を担保しているということを肝に銘じて、マイペースで行動していきたいと思っています。

資金面では余裕があるということがはっきりしましたので、株式投資の比率は徐々に下げていきたいと思います。ただ、暴落の局面など、どうしても食指が動きそうなときは、我慢できないかもしれません。それでも投資額については、多くても50%以下にしたいと思っています。妻と一緒に居られる時間をもっともっと作っていけるよう努力していきます。資金的にも余裕があるようですので、一緒に行く旅行の回数なども少しずつ増やしていきたいと思います。ありがとうございました。

教えてくれたのは……

深野 康彦さん

業界歴26年目のベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武

(文:あるじゃん 編集部)

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