「ふるさと納税」するとどうして“節税”になるの?

「ふるさと納税をすると住民税は納めなくていい?」「ふるさと納税分が節税になるの?」など、誤解が多いようです。節税メリットが最大限受けられる、ふるさと納税はいくら?ということも解説します。

ふるさと納税で住民税の納付先が自由に選択できる!?

ふるさと納税は寄附金控除の一種であり、確定申告することで節税につながります。「ふるさと納税をすると住民税は納めなくていい?」「ふるさと納税分が節税になるの?」など、誤解も多いようです。節税メリットが最大限受けられる、ふるさと納税はいくら?ということも解説します。

その年の住民税は、前年の所得状況をもとに市区町村が計算を行うことで決定されます(=賦課課税制度)。

住民税の納付方法には、本人が直接納付するといった普通徴収の方法と、勤務先の給与から天引きされる特別徴収の方法とがあります。

普通徴収の場合、その年の1月1日の住所地の市区町村から、住民税の納付書が年4回の納付期限に分けて本人宛に送られてくるのが原則です。

「ふるさと納税では、住民税の納付先が自由に選択できるの?」という疑問があるようですが、ふるさと納税は、この送られてくる納付書に関係なく、本人の住所地の住民税以外の納付先を自由に選べるという制度ではありません。

例えば、第1期と第2期の住民税に関しては1月1日の住所地の市区町村に納付し、第3期と第4期の住民税に関しては、ふるさと納税を行いたい市区町村に納付する、という仕組みにはなっていません。

特別徴収の場合でいうなら、12月までの給料から差し引かれる住民税については、その年の1月1日の住所地の市区町村に納め、1月分以降の給料から天引きされる住民税については、ふるさと納税を行いたい市区町村に住民税の納付先を変更してもらう制度……ではないということです。

ふるさと納税は、自分が貢献したいと思う都道府県・市区町村(ふるさと)への寄附にあたります。「お世話になったふるさと」や「これから応援したいふるさと」など、各自が思う「ふるさと」を自由に選ぶことができますが、住民税の納め先を自由に選べるというものではないのです。

ふるさと納税は寄附金控除の仕組みを通じて税額軽減

ふるさと納税は寄附金控除の一種であり、各自が確定申告することで節税につながります。

寄附金控除とは、所得税における所得控除の一種です。医療費控除や配偶者控除、生命保険料控除といった所得控除と同様、一定の寄附金に該当すれば所得控除が適用されます。そしてその分、課税所得金額が少なくなって所得税の節税につながるのです。

さらに、確定申告を行うとそのデータが市区町村に送られるので、翌年度の1月1日の住所地の市区町村に納付する本来の住民税が軽減されるという仕組みです。

つまり、通常の住民税を納めた上で、それとは別に任意の都道府県や市区町村に寄附をすると、その寄附金の額に応じて、その年の所得税の負担と翌年度の住民税の負担が軽減されるという仕組みなのです(※確定申告をした場合です。ワンストップ特例を活用した場合は住民税から全額税額軽減されます。詳細は後述)。

ふるさと納税をすると、その金額分が節税になる……わけではない

「ふるさと納税をすると納税分が節税になるの?」という疑問も多いようです。ふるさと納税により、特定の市区町村に寄附を行った金額以上の節税額となることはありません。これは、ふるさと納税が基本的に寄附金控除を通じての節税となり、算定の仕組み上、一定の制限がかかっているためです。

総務省が独身や共働き、夫婦または共働きで高校生相当の子一人、共働きで大学生相当の子一人といった類型にわけ、給与収入別で全額控除されるふるさと納税額の年間上限額のデータを公表しています。ただし実際には、住宅ローン控除や医療費控除等、他の控除を受けていない給与所得者のケースを想定していますので、あくまで目安ととらえたほうがいいでしょう。

ふるさと納税上限額の目安(出典:総務省ホームページより)

平成22年より寄附金控除の差し引き下限額が5000円から2000円に引き下げられましたが、それでも、ふるさと納税分がそっくり、所得税と住民税の減税に反映されることにはなりません。

特に寄附金の額が2000円以下の場合は、寄附金控除の対象額がまったく計上されないこととなるので、所得税・住民税の軽減額は期待できません。

ふるさと納税の制度が拡充、ワンストップ特例で手続きも簡素化へ

なお、平成27年度税制改正大綱においてふるさと納税制度が拡充され、ワンストップ特例ができるなど手続きも簡素化されました。仕組みやポイントをおさえておきましょう。

ワンストップ特例の仕組みは図のようにふるさと納税先の自治体が住所地の自治体へふるさと納税を行ったという事実を共有することにより、ふるさと納税をした翌年度分の住民税から全額軽減されるというものです。ふるさと納税先自治体が5カ所以内であれば、確定申告不要で税額軽減を受けられる便利な制度です。

ワンストップ特例の仕組み図(出典:総務省資料より)

ただし、平成28年以降マイナンバーの運用が本格的に開始されたことにともない、ワンストップ特例を活用する場合も、マイナンバーを記入した「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」をふるさと納税を行った自治体に送ることになっています。

また、それと同時に

・「個人番号の確認の書類」のコピー……個人番号カードや通知カードなど

・「本人確認の書類」のコピー……運転免許証や住民票の写しなど

を、申請書とあわせて郵送することとされました。

確定申告が優先されるワンストップ特例制度の落とし穴

医療費控除や住宅ローン控除を受けるために確定申告をする人はワンストップ特例が自動的に無効となるので注意してください。何らかの事情で確定申告を提出する人は確定申告がワンストップ特例に優先するとおさえておきましょう。

たとえば、A、B、C、D、Eの5つの自治体にふるさと納税を行い、A、B、Cにはワンストップ特例申請したので、確定申告に含めるのはDとEの自治体だけでOKとはならないということです。この場合、A、B、C、D、Eの5つの自治体すべてのふるさと納税の節税手続きを確定申告でやり直す必要が出てくるということです。

「何らかの事情で確定申告」を提出する人には他にもさまざまなパターンの人がいます。

たとえば、今、コロナ禍でさまざまな文化・芸術スポーツイベントが中止になっていますが、その際、チケットの払い戻しを受けないことを選択した場合には、そのチケット代金を「寄附」したものとみなし、寄附金控除を受けられる制度があることが文化庁とスポーツ庁から発表されています。

チケットを払い戻さなければ税優遇が受けられる制度については、すでにパンフレットでも告知されています(出典:文化庁、スポーツ庁)

具体的には、「指定行事証明書」と「払戻請求権放棄証明書」を入手して、確定申告を行うことになるのですが、これも「何らかの事情で確定申告」を提出することになりますので、ワンストップ特例が無効になるパターンのひとつです。

ふるさと納税の本来の趣旨は、豊かな地域社会の形成にあります。そのため、昨今の「ふるさと納税の特産品人気ランキング」といった注目のされ方には疑問の声もあがっており、実際、総務省と一部自治体の間でトラブルになっているケースもあります。

ややもすると返礼品やその地域の特産物に目を奪われがちなふるさと納税ですが、ふるさと納税は結果として居住地の自治体の税収を下げることにもになるというマイナス面もきちんとおさえておきましょう。

(文:田中 卓也(マネーガイド))

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