金属行人(3月31日付)

フランス語の「ノブレス・オブリージュ」は、立場のある人が相応の義務を果たさなければならないという言葉として使われる。ノブレスは英語で言うノーブル、いわば「貴族の」。かつて欧州が貴族社会で、権力や富の所在が明確だったころの名残が表れている▼貴い身分にある人が、弱い人を助けるべきという考えはキリスト教の精神にも重なり広まることになるのだが、果たして今の欧州はどうか。政治を担っていた階層が揺らぎ、キリスト教の信徒も減少。救われないと不満を感じる民衆は極端な投票行動へと向かう▼それが29日に正式通告された英国のEU離脱や、各国の移民排除、極右政党の台頭などにつながっているのだろう。日本でも昨今、政治家がノブレス・オブリージュを果たしているのか疑問の答弁がままある。大衆の目を意識し、真の責任ある行動から逃げてばかりいては、不信が増すばかりだ▼その点、選挙によらず人事が行われるのが企業である。きょうが今年度末の最終日。週明けから新しい立場で職場を、そして業界を担っていく方々もいるだろう。時に難しい判断や差配を迫られるかもしれないが「ノブレス・オブリージュ」の気概で難局に立ち向かっていただきたい。

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