深田晃司監督が疑う「家族」 岩井秀人と地元でナイストーク

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岩井秀人×深田晃司トークイベントのポスター=東京都小金井市

▼カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』で広く知られるようになってきた深田晃司監督(37)の作品を見ていると、どんな家庭で育ちました?と尋ねたくなる。人間模様の描き方から、「夫婦」や「家族」というものをハナから疑っていることが感じられて面白い。

 『淵に立つ』製作時は、映画の世界セールスを手掛けるフランス企業への企画書に、「“理想の家族”を描くのはウンザリだ」と書いたそうだ。「家族はこうあるべき」と暗に刷り込もうとするようなドラマへの反発、大手映画会社の独占的興行システムへのストレス、あるいはルサンチマンなど、深田監督は自身の内に湧いてこびりついている塊を「黒い情念」と称して笑う。

▼「家庭環境はちょっと問題ありまして」「僕が小さいころから父親と母親は会話していなかった」と言うのを見聞きしたことはあるものの、数年前のインタビュー機会には、その点を突っ込んで質問する頭が筆者になかった。ところが先日、<【FOCUSこがねい】トークセッション 岩井秀人×深田晃司 『おれたち小金井族 小金井から生まれた2人の作家』>という、タイトルが長過ぎるが愉快なイベントで、彼は父親のことを語った。場所が地元だったからか。劇作家・演出家の岩井が司会達者ぶりを発揮したからか。司会の岩井もまた自身の家族のことを描いてきたからか。

▼深田監督がもっと若いころ、家族は「解散」に至ったそうだ。その引き金は、会社勤めだった父が突然、発明家になると宣言したことらしい。何を発明するのかというと「永久機関」。外部からのエネルギーを必要とせずに永久に動き続ける、あの、夢の機関のことだ。

▼月日がたち、深田監督は父の消息を、科学雑誌ではなくオカルト雑誌『ムー』の中に見つけた。発明にいそしむ小さな会社か何かにいるという。東京・新宿で、久々に父親と再会すると、父は「来週、5億円が会社に入るから」と言った。「近々5億円入ると話す父親が、そのとき新宿でご馳走してくれたのはマクドナルドでした(笑)。あのあと5億円入ったという話は聞いたことがないですけど」と深田監督。

▼それからまた年月が経過後、深田監督は映画製作費が足りずにピンチを迎えた際、お金を貸してもらおうと、再び父に会った。すると「明日2兆円入る」と父。「それはいいから50万円だけ貸してくれませんか」と深田監督は頼んだ。「結局、明日2兆円入ると言う父親が、50万円を貸してはくれなかったです(笑)」

▼深田監督は今後もオリジナル脚本で、面白い映画を生み続けるに違いない。今年夏にはインドネシアで新作を撮影するそうだ。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第97回=共同通信記者)

★深田監督の家族や夫婦の捉え方が味わえる作品は、他に『東京人間喜劇』、『歓待』(東京国際映画祭「ある視点」作品賞)、『ほとりの朔子』(ナント三大陸映画祭グランプリ)、最新短編『鳥(仮)』。

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