『いのちの車窓から』星野源著 あたたかな光の中で踊る

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 視力だけはかなり良い。どれだけコンディションが悪くても1.2、アベレージは1.5、調子が良ければ2.0にも手が届きそうなほどに、視界はいつも良好だ。だからなのかはわからないけど、眼鏡を掛けた男性に反応してしまう(無論、性的な意味で)。よく見えないというある種のハンデが、チャームポイントに見えるのかもしれない(変態と呼んでくれて構わない)。

 それが関係しているかはさておき、星野源のことが好きだ。顔も歌声も、下ネタまみれのラジオも一時期よく聞いていた。

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いで売れに売れまくっている星野。本書はミュージシャン、俳優、文筆家と多岐にわたって活動する彼の、最新エッセーだ。

 雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載をまとめた本書。紅白歌合戦のこと、ラジオに救われていた日々のこと、ひょんなことから人生初の競艇場に足を踏み入れたこと、素性を隠して始めたTwitterで、顔も見たことのない友達ができたこと、深夜、ホテルの窓から突然飛び込んできた光線……。2014年12月号から2年半分のエッセーは、あたたかい色の光に包まれているような、それでいてぼやけているような、不思議な温度だった。上手くいったこともそうでもなかったことも、すべてが等しく遠く、すべてがいとしくてたまらない、そんなふうに感じられるのだ。

 それは、彼がくも膜下出血で二度も倒れたことが大きいのではないだろうか。死を思ったであろう病院のベッドの上を経て今、彼が見る世界は、どんな景色も美しく感じられるのかもしれない。そんな、生きることへの静かな喜びがひしひしと伝わってくる一冊だ。

 視力が良いのが関係しているのかは分かりかねるが、十代の頃、やたらと「本当のことが知りたい」と思っていた時期があった。何を以てして「本当」なのかもよく分かっていなかったが、大人の口車に乗せられて、踊らされるのはごめんだと思っていた。血眼になって大人の作為を見破りたい、見透かしたいと躍起になっていたあの頃。それからずいぶん時が流れ、今は誰かより優位に立つとかそんなことより、ただ今、ここにいられる喜びを噛みしめて、ピント外れの眼鏡で世界を見つめ、ぼんやりとあたたかな光の中で、ただただ踊る阿呆でありたいと、そう思えるようになった。そんな自分に気付かせてくれたのが本書であり、今この本を読めたことが嬉しい。

 ちなみに星野源の視力、0.03。

(KADOKAWA 1200円+税)=アリー・マントワネット

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