【特集】乗客引きずり出しは氷山の一角?

米航空大手の手荒い対応

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ユナイテッド航空の小型機=2015年12月2日、米テキサス州のダラス・フォートワース国際空港(筆者撮影)
9日、米ユナイテッド航空機から引きずり出される男性の映像(Jayse D. Anspach氏提供・ロイター=共同)
ユナイテッド航空のビジネスクラスに使う座席に腰掛けるオスカー・ムニョス最高経営責任者(CEO)=2016年6月2日、米ニューヨーク(筆者撮影)

 米国の航空大手ユナイテッド航空で9日夜、オーバーブッキング(過剰予約)となった航空機内から男性客が強引に引きずり出される動画が報じられ、同社に対する非難の声が殺到している。経営トップのオスカー・ムニョス最高経営責任者(CEO)は翌10日に「ユナイテッドの全員が動揺する出来事だ。(降ろされた)顧客に便を振り替えなくてはならなかったことをおわびする」との声明を出した。

 しかし、男性客に対する行為自体について謝罪しなかった上(その後、謝罪)、従業員に宛てたメールの中で男性客が「混乱を起こし、けんか腰だった」と説明した。4人の乗員を目的地に運びたいという航空会社側の身勝手な事情から、何の非もない男性客を引きずり出した上、経営トップが中傷までしたユナイテッドの対応に批判が噴出。ムニョスCEOは米テレビ番組で引責辞任する考えがないと話したが、辞任を求める電子署名に大勢の人が応じている。また、短文投稿サイト「ツイッター」などでユナイテッド便の利用をボイコットする動きが広がった。

 今回の対応は到底許されないものの、米航空大手の接客態度がかくも“低空飛行”なのはスカイトラックスの2016年版航空会社100社ランキングが裏付けている。デルタ航空こそ35位と比較的健闘している一方、ユナイテッドは68位、アメリカン航空は77位と下から数えたほうが早いありさまだ。きめ細やかなサービスで定評がある5位の全日本空輸(ANA)や、21位の日本航空(JAL)に慣れた日本人にとって「米航空会社のサービスのひどさに閉口する」(金融大手幹部)との声を耳にする。

 ▽格闘

 昨年10月まで3年余り共同通信ニューヨーク支局に駐在して北米各地を航空便で移動した私も、遅れが頻発する航空機に乗り込むのにしばしば苦労した。そんな“格闘”の一部を振り返りたい。航空機の定員に滑り込めずに悲嘆に暮れたのは昨年1月、北米国際自動車ショーを同僚の米国人記者と取材するために米中西部デトロイトへ出張した際だ。ニューヨークのラガーディア空港へ足を運んで出発案内画面を眺めると、アメリカンの予約便が「キャンセル」と表示されている。

 顧客対応窓口の行列に並び、係員に欠航理由を問いただしても「天候不良のせいだよ。雪を見れば分かるだろう」と窓外にちらつく粉雪を指さして胸を張るばかりで、申し訳ない様子はみじんもない。しかも後続便の座席は用意されず、空席が出た場合だけに搭乗できる「待機リスト」に入れられる綱渡りの状況だ。

 続くデトロイト行きで座席はあてがわれず、待機リストの5人目となっていちるの望みを託した最終便も誰も乗れないありさま。空港の待合室で約9時間も粘った末の空振りにぼうぜん自失となったが、翌日は早朝から記者会見の予定が詰まっている。搭乗口ゲートを閉めた係員の「明日早朝の便に振り替えよう。これならば昼までに着けるぞ」という提案を即刻拒否し、米国人同僚と泣く泣く2人で交代しながら千キロ近く離れたデトロイトまで夜通しでレンタカーを走らせる羽目になった。

▽小細工

 アメリカンで同じラガーディア空港から米南部テキサス州ダラスへ出張した際は、「使用機材の到着が遅れている」という理由で予約便の出発が約3時間10分も遅れた。しかし、ダイヤ上は予約便より遅く出発する便は次々と定刻通りに飛び立ち、先に出発するはずの私たちだけが待ちぼうけを食らわされた。この背景を提携相手の日航幹部が解説してくれた。「それは(月に何%が定時通りに到着したかを示す)定時到着率を少しでも高くしたいからです。私たちは出発順に飛ばしますし、そうしないと日本ではお客様が黙っていません」。そんな顧客軽視の“小細工”に手を染めてもアメリカンの2016年の主要路線定時到着率は79.86%にとどまり、主要国際航空会社で世界2位の日航(87.33%)に遠く及ばない。

 ユナイテッドの16年の定時到着率は82.36%となっているが、「本当にそんなに高いのだろうか」と首をかしげたくなるほど遅延を味わった。1~3時間に上る大幅な遅れに相次いで直面しても辛抱したが、搭乗受け付け中であってもぎりぎりに来る乗客に実に手厳しいことを体験した。メキシコからニューヨークへの出張帰りに米南部テキサス州にあるハブ(拠点)空港のヒューストンを経由した際、入国審査待ちの行列が長かったため乗り継ぐユナイテッド便の搭乗口に着いたのが締め切り間際の時間となった。

 すると、搭乗口で差配していた年配の女性は「もう閉まるわよ!」とけん制し、私は通常のエコノミークラスより足元が広い座席が割り当てられていたにもかかわらず「席をダウングレードするわ」とエコノミー席に勝手に変えられた。アングロサクソン流の企業文化に浸っている従業員に惻隠(そくいん)の情を要求するのは無理があるのかもしれないが、目の前の乗客が入国審査で長時間足止めされたことへの想像力は皆無。おもてなしとは正反対の接客術とはこういうものかと見せつけられた…。

 ▽手荒さ

 ユナイテッドでもう一つ衝撃を受けたのが、ニューヨーク近郊のハブ空港、ニューアーク国際空港で遅れている機中から眺めた窓外の光景だった。この日も出発が遅れており、ため息交じりに下を眺めると、空港職員が利用客が預けた荷物を地上から航空機まで運搬するベルトコンベヤーに載せている。だが、荷物を次々と放り投げており、「割れ物注意」のシールを貼った箱でもまるで柔道技をかけるようにたたきつけているのだ。しかも追加の荷物が運搬車で到着した際は、運転手が急ハンドルを切ったため三つのスーツケースが激しい勢いで落下した。勤務先の同僚はかばんを預け入れた際に「ルイ・ヴィトンのかばんがボロボロになって戻ってきてショックを受けた」と打ち明けていたが、私もこの光景を眺めた日を境に、米航空会社の利用時は荷物を極力機内に持ち込むようになった。

 顧客の大事な荷物でも、こんな手荒い扱いは大問題だ。ところがユナイテッドは荷物ばかりか、正当に入手した航空券で自席に腰掛けていた顧客に対しても力ずくで通路に引きずり出し、機外に追い出したのだから開いた口がふさがらない。蜂の巣をつついたような騒ぎになってムニョスCEOは「われわれは全面的に責任を取り、是正策に取り組む」と訴え、検証結果を4月末までに公表すると約束した。

 ユナイテッドには喉元過ぎれば熱さを忘れるという一過性の取り組みでなく、継続的かつ抜本的な再発防止策を強く求めたい。併せてほかの米航空会社も対岸の火事として眺めるだけでなく、他山の石として改善に本腰を挙げてほしい。特にスカイトラックスの16年版航空会社100社ランキングで競合のデルタばかりか、ユナイテッドの後塵(こうじん)を拝したアメリカンには…。「(11年11月の)経営破綻後に業績がV字回復したことで、てんぐになっており、顧客サービス改善の必要性を説いてもなかなか耳を傾けてくれない」(提携関係にある日航の幹部)という不満が漏れる。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

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