<志津川湾ラムサール>復興事業の負荷把握を

画像志津川湾の河口付近では河川工事が急ピッチで進む

 宮城県南三陸町は3月下旬、志津川湾の藻場をラムサール条約登録湿地にするため、手続きを進めるよう国に申し入れた。「環境」を旗印に、東日本大震災からの復興を後押しする狙いは理解できる。ただ、津波被害を受け、大規模な再整備を強いられた町の自然環境は、この6年で大きく変わった。何がどのように変遷したのかを、町は丁寧に把握する必要がある。

 「雨が降ると志津川湾内が以前より濁るようになった」。南三陸町の漁師がこぼす。復興事業で削った土砂が、川を伝って湾内に流れ込む。最盛期のワカメの葉部にたまった土が潮で流されるまで、収穫を3、4日遅らせることもある。

 分水嶺(れい)に囲まれた南三陸町は、山に降った雨が全て志津川湾に注ぐ。人々の営みが、必ず海に影響する特異な地形とも言える。

 震災に伴う防災集団移転促進事業は山を削り、町全体で100ヘクタール以上の高台を造成した。昨年、町に延伸した三陸沿岸道路は山を切り開いて南北を貫く。高さ8メートル超の巨大防潮堤は砂浜や海岸湿地を消滅させた。

 復興事業が海に影響を及ぼす可能性について、東北大大学院の中静透教授(森林生態学)は「森林を伐採すれば大雨でなくても土砂が流れ込みやすくなり、藻場の生育を阻害する。一方、巨大な防潮堤によって豊富なミネラルを含む地下湧水が海に供給されにくくなる」と指摘する。

 南三陸町の本年度当初予算が審議された町議会3月定例会の施政方針演説で、佐藤仁町長は「持続可能性」という言葉を用い、森、里、海といった自然を生かした街づくりに取り組む姿勢を示した。だが、その本気度には疑問が残る。

 昨年11月に改定した町の環境基本計画は数値目標がない。公募意見や審議会で疑問の声が上がったものの、「復興事業の影響で詳細な調査ができないため」として設定は先送りされた。

 審議委員で、南三陸森林管理協議会事務局の佐藤太一さん(32)が「数値目標がなければ計画が評価できず、意味がない」と町の姿勢に異議を唱えたのも、うなずける。

 震災前、専属の研究員を配置し、海や森の生態を観察し続けた町営の自然環境活用センター(通称ネイチャーセンター)はいまだ復旧していない。現在は準備室として規模を縮小している。

 復旧・復興は最優先課題だっただけに、事業前の環境影響評価は無論、行われなかった。小さな町でこれほど大規模な開発はかつてない。環境へのリスクは広範囲に及ぶはずだ。

 町はまず、移り変わった自然環境のモニタリングを徹底し、保全するところから始めるべきだ。復興事業がもたらした環境面での教訓を発信することも、国内外から支援を受けた町の役目だろう。

 ラムサール条約登録は湿地の保全や賢い活用を意識付けるきっかけにすぎない。藻場を含む大切な環境を守るため、地道な検証と対策を繰り返す地域の覚悟が求められる。(南三陸支局・古賀佑美)

[ラムサール条約]特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全を促す。全国の50カ所が登録済み。海中でも水深6メートルまでは湿地に該当する。志津川湾は寒流と暖流に影響を受けやすい環境で180種類を超える海藻や海草が生育。絶滅危惧種のコクガンの越冬地としても価値が高い。2018年に開かれる条約締結国会議での登録を目指す。藻場の登録は国内で例がない。

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