【創刊70周年メモリアルビッグ対談 日本鉄鋼業の歩みと課題・展望(2)】〈続く〝中国次第〟への対応〉進藤氏「過剰能力の淘汰必要」/柿木氏「市場原理には程遠い」

新日鉄住金進藤孝生社長(日本鉄鋼連盟会長)、JFEスチール柿木厚司社長(日本鉄鋼連盟前会長)、司会・一柳正紀鉄鋼新聞社社長

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――そうですか。次に話を進めて、課題、展望に。直近1年間を振り返ると、進藤さんがおっしゃるように『中国に振り回された1年』と言ってもよいと思います。原料炭価格の急騰、鋼材の国際価格の低迷だけを見ても中国の影響を大きく受けた。世界粗鋼50%のシェアを持つ中国の動向が我が国のみならず多大な影響を与え続ける状況をどう受け止めていますか。進藤さんはどうですか?

進藤「歴史的な流れを見れば、世界の鉄鋼業のリーダーは欧州から米国へ、さらに日本に移り、今、日本は成熟して、中国が台頭してきた。中国は現在、約12億トンの生産能力を持つ。その能力は過剰であるという問題はありますが、中国の台頭は歴史の流れからすると、必然と言えなくもない。中国の粗鋼生産は足元で8億トンを超えていますが、そうなれば、中国に国際価格の決定権が移るというのも致し方ないことだと思います」

新日鉄住金・進藤社長

進藤「ただ、一時のコストを割ってまでという、市場原理とかい離した状況はいかがなものか。正常なマーケットの機能が働いた結果なら納得はできます。だが、今はまだそうなっていない。これは世界の鉄鋼業にとって非常に良くない事態です。そう考えると、過剰能力であれ、環境基準を満たさない設備の稼働であれ、淘汰していかないといけない。そうならないと本当に適正な競争とは言えない」

進藤「正常にマーケットが機能する適正な能力については、中国政府も理解しており、昨年来、過剰能力解消へ向けて本腰を入れ始めました。また、先進国もそれを認めて、グローバル・フォーラムを立ち上げた。この流れをしっかり進めていけば、サステイナブルな成長を実現するための需給状況が実現するのではと思っています」

――先行きについては、そんなに悲観はしていないと?

進藤「ええ、悲観はしていません。適正な需給バランスが実現しなければ、鉄鋼業に未来はありません。もちろん、需給がバランスするのを待っているだけではだめで、技術力を磨き競争力を付けていかなければなりません」

――柿木さんはいかがですか?

JFEスチール・柿木社長

柿木「経済原則的に言えば、今はそのように動いていないのは確かです。中国の場合、赤字の企業に対し、雇用を守る前提で地方政府の補助金が支給されているという報道もあります。その状況が改善されれば、コストや品質がどうかという正常な競争になり、その競争の中で、どうやって生き残っていくのか、ということになります」

柿木「問題は時間軸です。中国が市場メカニズムに移行していくのにどのくらいの期間がかかるのか。中国政府は昨年で6500万トンの能力を削減したと言っていますが、生産量は8億トンを超えている。輸出が減ってはきたが、まだ市場メカニズムには遠いと言わざるを得ない。もう一つ気掛かりなのは、中国の台頭によって鉄鉱石や原料炭など鉄鋼原料の動向が大きく変わっていることです」

――鉄鋼原料の動向は最も注意を払わなければならない問題だと思います。投資マネーの流入など、これまでにない動きも散見されます。昨年のように原料炭価格が半年で3倍にも急騰する事態が繰り返されたらたまらない。ただ、原料事情は海外の大手高炉も同様で、日本だけが高い原料を買わされるということではないでしょうが…。

柿木「原料炭で言えば、中国は90%を自給できており、ほとんどが長期契約と言われています。その国内炭の価格と、スポット価格なり先物取引価格とのかい離が生まれたときは、優劣が生じる恐れはあります。本来なら、我々が海外から輸入する原料炭価格と中国の国内価格がそろうべきなのですが、今はそうなってはいません」

海外事業収益拡大への取り組み

進藤氏「下工程で海外進出」

進藤「去年の夏までは鉄鋼原料に関する問題は、経営課題の前面からは姿を消していた感がありました。ところが、中国の石炭の生産抑制をきっかけにスポット価格が急騰。そこへ投機的な動きが入ってきた。先物取引などの一般的な効用を説く人も一部にはいますが、それは本末転倒と思います」

進藤「鉄はインフラをはじめさまざまなプロジェクトで使われています。中には工期の長いものもある。鋼材価格が毎日変動して、果たして経済活動がうまく回るのか。やはり鋼材の価格は安定させないといけないし、そのためにも原料価格も短期的要因に過度に依存することなく、安定的で良識的な価格付けが必要だと思います。原料炭の昨年来の価格高騰は、中国政府の操業日数制限や生産トラブル等の要因もあることから、まずは中国政府の政策動向、トラブルの終息状況や新たな発生の可能性など、今後の動向を慎重に見極める必要があります」

柿木「先物市場では、価格の変動によってもうける人がいるわけです。それは結局のところ、我々がものづくりによって生み出した富の流出と言えなくもない。その事態は避けたいですね」

柿木氏「ガバナンスが課題」

――次の重要なテーマ、「海外展開」に移りたいと思います。国内の鉄鋼需要は今後、漸減傾向が続く可能性が高い。量が減る中で安定した収益を確保できるのか。やはりこれまで以上に海外需要の捕捉が重要になってくる。ただ、これまでも海外展開は少なくなかった。かつて高炉5社時代も米高炉との自動車用鋼板合弁や、NKKの米ナショナル・スチール買収、川崎製鉄のブラジル・ツバロン製鉄への出資など大型案件もあった。もちろん、一定の収益を確保した海外事業もありますが、総じて「労多くして功少なし」という感じがしないでもない。今後は「海外事業の収益拡大」をどう実現するかが重要になると思いますが。

進藤「国内の需要は6千万トンですから、やはり限界があります。そこで需要のある海外への進出を実行しているわけです。ただ、問題はその出方です。当社の考え方は、原料調達から半製品まで、あるいは熱延製品までは国内生産で国際競争力を維持できるという考えで、下工程での海外進出を志向しています。下工程は足が長いので、労務費の差や技術力の差も出てくる。当社の技術を武器にして海外で戦っていけると考えています。現地企業との合弁であればリスクもある程度軽減できます。それでも、立ち上げが遅れたり、パートナーの事情が変わったり、といったリスクは残ります。そのために、昨年、グローバル事業推進本部をつくり、海外事業をサポートする体制を強化しました。海外で経験を積んだスタッフが、推進本部に入り、経験を生かして海外事業をサポートするという体制で手応えを感じています」

――柿木さんはいかがですか?

柿木「川崎製鉄も80年代の後半に米AKスチール(旧ARMCO)に出資しましたが、最終的には保有株の大半を売却し、99年には撤退を決断しました。NKKも同時期に旧ナショナル・スチールを買収しましたが、03年にUSスチールに資産を売却、撤退しました。反省点の一つは、当時は海外の会社をガバナンス(企業統治)する体制が整っていなかったし、海外事業を支えるための国内の収益基盤も弱かった。海外事業は一定の期間、例えば立ち上げ時がそうですが、厳しい収益が続くのは避けられない。海外事業の収益が厳しくなったとき、同時にこちらも収益悪化に苦しんだ。これでは海外事業を支えるどころではない。海外事業をある期間は支え続ける国内収益基盤の確立が是非とも必要です」

柿木「JFEスチールも現在、下工程を中心に海外展開を進めていますが、過去の反省を踏まえれば、一つはガバナンスをどうするかが大きな課題になる。地政学的なリスクを含めてコントロールしていかなければならない」