【創刊70周年メモリアルビッグ対談 日本鉄鋼業の歩みと課題・展望(3)】〈国内製造基盤の強化〉柿木氏「いま一度製造実力向上を」/進藤氏「設備と人を強化」

新日鉄住金・進藤孝生社長(日本鉄鋼連盟会長)、JFEスチール・柿木厚司社長(日本鉄鋼連盟前会長)、司会・一柳正紀鉄鋼新聞社社長

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――柱となる国内事業の強化は、国内製造基盤の強化と言い換えることもできると思うのですが、それをいかにして実現していくのかが問われるわけですね。

JFEスチール・柿木社長

柿木「一つは商品開発力。もう一つは、高級鋼だけでなく、ミドルグレード製品のコスト競争力を高めることです。高級鋼だけでは今の生産規模を維持できないわけですから…。日本の鉄鋼業はかつて、優れた操業技術をベースに優位に立っていたのですが、今はそれほど強くはない。その一つの要因が設備の老朽化です。当社の場合、上工程への設備投資が不十分だったという反省もある。ですから、もう一度、製造実力を高め、ミドルグレード製品の競争力を押し上げる必要があります」

――海外展開で、M&A(合併・買収)は、今は考えられないのですか?

進藤「良い案件があれば考えます。ただ、何で競争するかということです。もうかっているところを買収するのは簡単ですが、そういう話はあまりない。やはり技術力など我々が持つ強みを生かすことができ、現地でのマネジメントに長けたパートナーと組む、という方法が効率的です。現地で人を採用して、一から教育していくというのは非常に難しい。柿木さんの言われるように、国内の製造実力を再構築するという点は誠に同感です。国内で設備と人を強化する。また日本には、良い意味で厳しいお客様が多く、お客様のニーズに応えながら我々の技術力を鍛えていく。それも競争力を高めることにつながります。強い国内基盤があって海外で収益を上げることができます」

――国内でも、まだまだやり足りないところがあると。

進藤「設備のリプレースはまだ途上です。技能伝承もしっかりとやっていかないといけない。それらが次のラウンドになると思っています」

――かつての話に戻ってしまいますが、一時期の鉄冷えが深刻だった時期、国内粗鋼生産が9千万トンを割り込んでも一定の収益を確保できる体制をということで、設備の集約や大掛かりな要員スリム化などさまざまな施策を断行した。今は1億500万トンです。それでも業績は厳しい。コスト構造が変わったからでしょうか?

新日鉄住金・進藤社長

進藤「環境が大きく変わったからです。9千万トンにという時に比べ、内需は大きく減退した。さらに中韓台の台頭など国際化が進展。先ほども触れたように、プライスリーダーは中国に移った。限界利益は当時に比べ相当に下がっています。その利益で固定費をカバーしないといけない。加えて円高、さらに直近の原料高です」

進藤「それならば、固定費削減のために、もう一度生産能力を落とすということで生きていくのか。必ずしもそういうことではない。舞台は世界に広がっています。コスト競争力、技術力で勝負しながら、海外での競争に打ち勝っていくという選択も当然あるはずです」

――ただ、中国や韓国に代表される新興メーカーとの技術力の差も縮まってきた。厳しい競争に。

進藤「ただ、原料費は世界中ほぼ同じ。通常の技術で作って、皆が赤字になるようなプライシングはおかしい。きちんと利益がでるようなマーケットが形成されなければならないということです」

柿木氏「チャレンジングな精神を」

――経営統合によって、両社合わせると、単独でも7割近いシェアになります。日新製鋼も新日鉄住金グループとなった。両社の一挙手一投足が日本の鉄鋼業に大きな影響を与え続けることになる。そうしたリーダー企業のトップとして、最も留意すべき点は何でしょうか?

柿木「日本だけを見ればその通りですが、世界の中では異なる。例えば、JFEは発足当時、粗鋼生産は世界3、4位の位置にいましたが、今は8番目か9番目です。世界では必ずしもメジャーではない。その中で、グローバルなサプライヤーとして生き残っていくには、どういう規模感で、グローバル・サプライチェーンを構築していくかを考えなければならない。当社はその観点から、ベトナムをはじめとする海外展開を進めていますが、まさにその点が課題となるでしょう」

柿木「また、社内的な課題もあります。JFEでは今は、統合後に入社した社員がすでに半分を超えています。プラザ合意後の円高不況時に採用を抑えたことと、統合以降に一気に採用を増やしたことなどが原因なのですが、JFE発足後に入社した社員は比較的良い時代を過ごしてきました。そのせいか、危機意識が不足している面もあります。悪く言えば大企業病にかかっている。そこで、もう一度、チャレンジングな精神を醸成できるような意識改革を進めていかないといけない。当然、技能伝承を進めていくということも大きな課題となります」

進藤氏「技術開発と生産効率化」

進藤「やはり10年が経つと、環境はがらっと変わります。鉄冷えの当時、柿木さんもそうでしょうが、合理化に伴い、出向を増やすなどの対応をとってきました。こうした経験を持つ人は、今は現役役員の一部くらいでしょう」

進藤「トップとしての留意点ですが、両社で日本の生産の70%強のシェアになったというのは事実ですが、実はマーケットも生産も世界に広がり日本全体のシェアは落ちている。日本で70%のシェアを持っているからといって、世界のマーケットにおけるプライスリーダーにはなり得ないわけです。『一挙手一投足が注目される』ということで言えば、それは我々ではなく、中国鉄鋼業でしょう」

進藤「その中で、やるべきことは、繰り返しになりますが、技術開発力の強化と生産効率化です。当然ながら、トロ(高級鋼)だけでは食べていけないので、赤身(汎用鋼)でも競争できるコスト競争力を持つことです」

進藤「設備は古くなっているし、スタッフの若返りも進んでいます。『ものづくり』の現場というのは、ある意味で規律が必要なのですが、そうした風土になじめない若い人も結構多い。そうした若い世代への教育ということも地道にやっていかなければならないと思います」