【創刊70周年メモリアルビッグ対談 日本鉄鋼業の歩みと課題・展望(4)】〈人材教育と「働き方改革」〉進藤氏「女性の採用一層拡大」/柿木氏「柔軟な働き方を」

新日鉄住金・進藤孝生社長(日本鉄鋼連盟会長)、JFEスチール・柿木厚司社長(日本鉄鋼連盟前会長)、司会・一柳正紀鉄鋼新聞社社長

――人材教育の話になりましたが、政府が成長戦略の柱の一つに位置付ける「働き方改革」については、どう受け止めていますか。

進藤「女性の働き方というか活躍という意味では、当社もここ数年、相当に採用を増やしています。全採用数のうち女性の採用比率は、スタッフ系社員、操業整備系社員ともに約2割に上ります。三交替の現場でも相当な数の女性が活躍しています。こうした流れに対応して、現在、社内保育所の整備を進めているところです。昨年、大分製鉄所に開設し、今年は君津、八幡両製鉄所でも始めました。製鉄所は男性の職場という考え方は変えていかないといけないでしょう。JFEさんも保育所の整備を積極的に進めていますね」

画像JFEスチール・柿木社長

柿木「ええ。千葉に今月開設しました。12年当時、人事担当だったときに女性の採用拡大を提案しました。当初は現場の抵抗もあり、そう多くは採らなかったが、一昨年は50人強、昨年は85人の女性を現場で採用しました。女性スタッフの増加とともに、職場の雰囲気は大きく変わってきています。最も大きな変化は規律正しくなったことです。また、現場では20キログラムの重量物を持ち上げるというような作業がありますが、女性には持てない。すると、女性でも持ち運べるような器具を開発したりする。これは60歳以上のスタッフにとってもありがたい。こうした変化は従来はなかったことです」

柿木「これからも採用を増やしていきますが、次の課題は定着対策です。保育園の整備だけでなく、育児短時間勤務制度・育児休業制度を拡充していくなど、子育て世代の支援策も重要になるでしょう。これは社会的な要請でもあります。その意味で、当社は今年を『働き方改革』元年と位置付けています。女性の活躍支援だけでなく、長時間労働の抑制などもそうですが、定時退社の実践や、年次有給休暇の取得を奨励するなどして柔軟な働き方を広げていこうという取り組みを進めるつもりです。金曜日の早めの退社を促す『プレミアム・フライデー』というのがありますが、これは鉄鋼業の職場にはなじまないかもしれません。むしろ、個人ごとに定時退社を設定したりするなど工夫の余地はあると思います。いずれにせよ連続操業が当たり前の鉄鋼の現場では、一律の制度は難しい。鉄鋼業の実態に合わせ、柔軟な仕組みを構築することが必要でしょう」

進藤「今、お話しされたことは、上限規制についても同様のことが言えますね。鉄鋼業は、非常時の場合でも、ものづくり全体のサプライチェーンを維持するため、需要業界に鋼材を安定的に供給するという使命がありますから、そうした役割を考慮した対応が必要だと思います」

柿木「今の議論は長時間労働と同一労働同一賃金に少し偏っているきらいがあります。鉄鋼業はひとたびトラブルがあったら、日本の製造業のサプライチェーンを壊してしまうことになるので、長時間労働をしても復旧しないと。その場合、きちんと健康管理もします。その代わり平時は、働き方改革につながるさまざまな取り組みを進めていくということではないでしょうか。鉄鋼業全体でそうしたアピールをしていく必要はあると思いますね」

――いま一つ、最近の動きとして第四次産業革命への対応があります。IoTやビッグデータ、人工知能(AI)などですが、操業改善ないし安全衛生対策などに活用の余地がかなりあるのではないでしょうか。

画像新日鉄住金・進藤社長

進藤「たくさんあります。IoTなどは安全対策に有効だと思います。例えば、GPSを使い現場での従業員の位置を把握したり、温度センサーを搭載したドローンを飛ばして、製鉄所内の異変を早期にチェックしたり、活用の余地はたくさんあります」

進藤「品質管理などもそうです。鋼片の疵をセンサーで察知し、その原因が生産プロセスのどこにあるのかを瞬時に判断することもできるはずです。設備保全に関するデータをビッグデータとして集め、設備故障のシグナルを読み取ったりすることもできる。当社は、北は室蘭から南は大分まで製鉄所の数が多い。そこで、全製鉄所を『日本列島製鉄所』と捉え、コンピューターを使い物流管理を徹底するという試みも面白い。実際には、半製品などは船舶で運ぶのですが、コンピューターの画面上では、あたかも一つの製鉄所と捉えることができる。これを『バーチャル・ワン・ミル』と呼んでいます」

進藤「もちろん一挙にはできないが、個別にモデルをつくりながら、進めていきたいと思っています」

柿木「活用の幅は大きいでしょうね。当社は昨夏、『データサイエンス活用横断部会』という組織をつくりました。安全・防災への活用とともに製造設備の安定稼働に資するシステムの構築に役立てることです。設備の老朽化が進む中で、設備トラブルのリスクはかつてなく高まっています。いったんトラブルが発生すると逸失利益は莫大なものになる。そこで、トラブルの未然回避にITを使えないか、という試みを進めていく。まだ、モノにはなっていませんが、設備トラブル対策としては、ビッグデータの集積・解析が有効になるのではないでしょうか。温度変化、振動といったデータを集め、それを解析することで、トラブルの異変を早期に発見できれば、トラブル発生は大幅抑制することができる。データサイエンス活用横断部会では今、これに関する実験を始めています」

IoTとビッグデータ、人工知能

進藤氏「安全対策や若手育成」

柿木氏「業界全体での取り組みも」

柿木「もう一つは技能伝承です。技能伝承では、ベテラン技能者のスキルをAIに入れたらどうかと提案しています。若手の技能向上には地道な教育が基本となりますが、AIを活用すれば、そのスピードを速めることができるかもしれません」

柿木「いずれにせよ、ビッグデータなりAIが役立つのだということを、実践の中で証明していくことが重要です。成功例を早く提示できればと思っています」

進藤「膨大なテキストデータの中から、有用な情報だけを抽出する『テキストマイニング』という手法が今や当たり前になっています。携帯端末から製造ノウハウや設備保全に関するデータを参照できるようにして、現場で必要なときに確認する。また、オーグメンテッド・リアリティ(拡張現実)も面白い。ある設備の前に立てば、メガネのレンズの中に関連情報が映し出される。例えば、過去の事故やトラブル事例などです。これも若手の教育には有効だと思います」

――一連のITは高炉の操業管理などにも役立ちそうですね。

柿木「先ほどのデータサイエンス活用横断部会でも高炉の操業管理がテーマの一つになっています。高炉のセンサーは今、相当に進化しています。そこで集めたビッグデータとAIなどを融合することで、もしかすると匠の技能をトレースすることも可能になるかもしれません」

進藤「友野相談役がよく言っているのですが、鉄鋼業はデータを集めるのは得意なのに、それをあまり活用しない(笑い)」

柿木「活用しないといけないですよね。ただ、膨大なデータの活用なり、解析能力に優れたAIの開発となると、果たして個社だけで取り組めるのかという問題も出てきます。とにかくお金がかかる。官や学界の助けを借りながら、業界全体で進めたり、業界の枠を超えて取り組んだりすることも必要になるかもしれません」

――最後になりますが、大手鉄鋼会社のトップの資質を考えたとき、何が最も重要になるでしょうか?

進藤「鉄は産業の基礎資材という位置付けは変わらないでしょう。日本経済あるいは世界経済との関係をどう考えるのか、というマクロの視点は絶対に必要だと思います。また、鉄鋼メーカーは現場で働く従業員が非常に多いし、関係先も多方面にわたりますので、まとめていく力、統率力なども要求されます」

進藤「経営環境の変化が激しい今の時代は、現実的な財務戦略論であったり、事業戦略論なども考えていかないといけない。国際感覚も不可欠です」

柿木「昔から変わらないのは、従業員や地域といったステークホルダーとの関わりを重視する姿勢ではないでしょうか。自社の利益を追求するだけではだめなわけで、リーダーシップとバランス感覚が求められると思います」

柿木「昔と違うのは、進藤さんの国際感覚と同じですが、視点を日本の中の鉄鋼業から、世界の中の鉄鋼業へ移すことだと思います。海外企業との協力関係やアライアンスはこれからも確実に増えていきます。国際的な交渉力なり、国際的な感覚は一段と必要になってくる。80年代の自動車摩擦の後、まず自動車メーカーが北米に進出。それを追う形で日本の鉄鋼メーカーも北米に出ていきました。当時は、自動車と鉄鋼がグローバル化の先兵と言われました。しかしその後、鉄鋼業の海外進出は停滞。代わりに他の産業が海外シフトを加速させました。結果として、鉄鋼はやや取り残されたところもあります。これからは海外進出の第2ステージと言えなくもない。もちろん、日本の製造拠点を残しながらの海外進出が重要になります」

――そうですね。では、この辺で。長時間、忌憚のないご意見、お話、ありがとうございました。(おわり)

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