【世界から】音楽祭に沸くザルツブルク

帝王カラヤンの故郷

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1967年、オペラ「ワルキューレ」の演技指導をするカラヤン(左端)、(C)S.Lauterwasser,Karajan(R)-Archiv)=写真1
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夏期馬術学校を背景にした舞台(ザルツブルク観光局提供)=写真2
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指揮者のカラヤン氏=1979年、東京都内
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祝祭劇場の上にあるミュンヒスベルグから見たザルツブルクの風景

 オーストリアの「ザルツブルク」と聞くとまず何を思い浮かべるだろうか。「モーツァルトクーゲル」という、モーツァルトの肖像画付き銀紙に包まれた丸いチョコレートが真贋入り交じって出回っているので、やはりモーツァルトの生誕地として一番知られているかもしれない。

 ▽ソニー元社長と交流

 賛否両論はあれど、神童作曲家モーツァルトと同じくらい文化史を動かしたザルツブルク出身者がヘルベルト・フォン・カラヤン、「帝王」と呼ばれた指揮者だ。その彼が自費で始めたイースター音楽祭が4月8日、50周年を迎えた。

 歴代巨匠の中でもカラヤンが群を抜いているのは、指揮者という範疇を越えた視点でクラシック音楽界の将来やオペラ上演の発展に心を砕いたからだろう。

 従来よりも進歩した録音技術を模索するうちに築き上げられたソニー元社長の大賀典雄氏との信頼関係は有名で、死の床に伏すカラヤンを最後に訪問したのも大賀氏だった。

 カラヤンはオペラ演出も手掛けた。総合芸術としてのオペラは、指揮者と演出家を兼任することによってのみ、完璧な形で融合できるという理想を、特にワグナーのオペラについて抱いていた。

 しかし、ワグナー自身が創り上げたワグナーオペラの聖地バイロイト音楽祭やウィーン国立歌劇場とのトラブルなどに阻まれたため、故郷に自費で音楽祭を開いたのである。

 それ以前からもザルツブルクには、モーツァルト音楽祭を前身とする世界屈指の夏の音楽祭が存在するのだが、バイロイト音楽祭と時期が重なるためワグナーのオペラを演目に選んだとしてもトップの歌手たちを集められないという理由もあり、時期をずらして復活祭までの10日間開催となった。

 ▽当時の舞台装置再現

 今年はその50周年を記念して、1967年の初開催時と同じ演目<ワルキューレ>が選ばれ、当時の舞台装置が再現されたことを受け、音楽祭開幕と同時に、「ワルキューレ1967―2017」という展覧会も、ザルツブルク美術館内のマックス・ガンドルフ図書館で始まった。細部までこだわった舞台美術のデッサンや、カラヤンの稽古風景などの資料が展示されており、カラヤンのこの音楽祭に傾ける情熱が今もほとばしっているようだ。

 普段はモーツァルトだらけのこの街に、カラヤンが<ワルキューレ>の演技指導をしている際の写真を使ったポスターがあふれている。(写真1)

 稽古中のワンショットが、プロモーション写真のように完璧な構成と躍動感を両立させているのを目の当たりにすると、被写体としても時代の先端を行っていた存在だったのだと、今更ながら驚かされる。カラヤンの愛娘がクラシック音楽とコラボした舞台パフォーマーとして活躍しているのも血筋だろう。

 50年前のチケットの半券を持って訪れた老夫婦や、当時の出演者だったクリスタ・ルードヴィッヒとグンドラ・ヤノヴィッツの思い出話に耳を傾けながら楽しむ50周年音楽祭は、クラシックファンにとって忘れられない特別な趣きがあった。

 ▽世界文化遺産の街

 しかし、クラシック音楽は押し付けられると嫌いになるということは学校の授業やテストで経験済みの方も多いと思うので、別の視点に移そう。

 今年のザルツブルクはユネスコ世界文化遺産登録20周年でもあるのだ。この街の歴史をひもとくと数百年にわたり大司教が領主を兼ねていたため、中世ロマネスク、ルネサンス、バロックなど異なる様式の建築物が林立し、独特の景観を形成している。簡単に登れる山にも囲まれているため、歴史的旧市街と自然が共存するぜいたくを堪能できる。

 ▽名画の「聖地」

 最後に1965年に公開された映画「サウンド・オブ・ミュージック」も、この街が舞台の実話をベースに作られたことも追記したい。インフレ調整版の世界映画興行収入ランキングでは「風と共に去りぬ」「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる野望」に次ぐ3位に輝き、世界中で5億人以上の観客動員数を誇るこの映画はマリア・フォン・トラップ(映画版ではジュリー・アンダーソンが演じているヒロイン)の自伝を基に作られており、今でも年間30万人の映画ファンがロケ地参拝に訪れるため、オリジナル・ツアーも提供されている。

 「ドレミの歌」や「エーデルワイス」はこの映画を知らない人でも、どこかで聴いたことはあるだろう。物語の中で、亡命直前に「エーデルワイス」を歌いひそかに祖国に別れを告げるシーンは夏期馬術学校で撮られたもので、2013年にはNHK交響楽団も初舞台を踏んだ祝祭劇場の一部である。(写真2)

 例年以上に活気づいているこの街は、このように世界中に愛されており、真の意味で後世に残していきたい世界遺産と言えよう。(チューリッヒ在住ジャーナリスト、中 東生=共同通信特約)

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